第21話 叱咤激励
子供天狗は湯気鬼を避けれず、思い切り潰された…と思った。
しかし潰されてはおらず、目の前には鬼丸の大きな背中が見える。
「お、鬼丸…!」
「大丈夫かぁ…!」
子供天狗の視界はほぼ鬼丸の影で
子供天狗は鬼丸がどんな状態かわからない。
ただ鬼丸が湯気鬼の一撃を受けているのは確かだ。
鬼丸が相手をしていた鬼を見ると、何か落とし物でもしたかの様に下の方を向いて、しかし中途半端だ。
止まっている、時が止まった様に固まっている!
子供天狗は見て思った。
だからあの鬼が動きだし、鬼丸に一撃を与えようとすることは絶対にないのだと確信して
「…」
しかし鬼丸からとても嫌な匂いがして、とっさに後ろから抱きつく。
回した両手に、ぬっとりと何か触れる。
恐る恐る両手を戻すと、それはやはり鮮血だった。
「鬼丸ぅ!」
急に両腕がぶるぶる震えた。
血を流しているのは鬼丸なのに。
足もがくがくしてきた。
痛いのは鬼丸なのに!
「はっ!
湯気鬼は勝ち誇り両腕を上げ、
「そんな状態では逃げるに逃げれんなぁ…ははぁ…!」
そう言って湯気鬼は手揉みしていた両手で拳を作り、振り下ろした!
どぉん!
重い衝突音がして地が揺れた。
振り下ろした拳は、鬼丸が両手で受け止めそのまま離さなかった。
「受け止めただと!?は、離せい…!」
「離さねえ!人間の体は弱え!そんなん当てたら死んじまう!…大丈夫かぁ人間っ子ぉ、動けたら逃げろぉ!」
俺は天狗だ、死なないし、血だって出ないんだ。
だから大丈夫なんだ。
なのに体が震えて動けない。さっきみたいに動くいてくれ!!動け!
「だだめだ、鬼丸、…体が動けねえ、ぐす…」
涙と鼻水が垂れてきた。
「いいんだぁ、いいんだぁ、気にすんなぁ。俺がいるから安心しろ。ちゃんといてやっからなぁ。守ってやるからなぁ」
「ううっ…」
鬼丸の足元に血がたくさん溜まっている。
「離せえええええ!」
湯気鬼の絶叫が空気を震わす。
拳を震わし、それを受け止める鬼丸にも振動が伝わっていく。
「嫌だぁああああ!」
鬼丸も負けじと叫び振動は地を割り、天変地異かと思う程になる。
「天狗っ子お!」
そこに、比べれば大変にか弱い叫び声が入り込んだ。山ギツネである。
「鬼の力を巻きとれぃ!気合いを、入れろ!!!」
山ギツネの声がはっきり聞こえた子供天狗は、震える手を使って落ちた団扇を拾おうとするがうまく掴めない。
拾えないので、もう片手で腕を支えて団扇に手を持っていく。
すると更に山ギツネの声が届いてきた。
「お前の力は、そんなもんかぁ!人間を守る力とは、そんなもんかぁ!!」
子供天狗は我に帰る気がした。
鬼丸も何故か鼓舞され力が湧いてきた。
「俺は、天狗の子じゃああ!」
「うおおおおおおお!」
子供天狗と鬼丸、同時に叫んだもんだから、うるさ過ぎてもはや誰も聞き取れない。
鬼丸は受け止めた湯気鬼の拳を思い切り引っ張り、湯気鬼の体勢を崩した。湯気鬼はこれに耐える事が出来ずによろめく。
子供天狗の震えはすっかり消え、団扇を優雅に回して藤色の軌跡を描く。次に体を一回しして、その軌跡を大きく扇ぐ。
ごぅぅ…。
藤色の風が渦を巻き、湯気鬼を襲う。これまでの風と違い、至る所に刃が隠れ、湯気鬼を切り刻む。
「ぎゃああ!」
湯気鬼は我慢する事も出来ずに悲鳴をあげ続けた。
…湯気鬼の悲鳴が終えて、藤色の風も失せる。
鬼丸はやっと崩れ落ちて座った。
「鬼丸!」
か弱い声で子供天狗が近寄る。
腹から血を流し、地面は血の海だ。
「ああ、人間っ子…。天狗の団扇を上手に使ったなぁ…」
子供天狗は上に着ていた衣を脱いで破り、鬼丸の胴に巻こうとするが足りないので、下も脱いで繋ぎ合わせたがそれでも足りなかった。なので
「ああ、人間っ子、大丈夫だぁ…それより着物が台無しだぁ」
脱いだ衣は鬼丸に当てた瞬間にすぐに真っ赤になる。
「ごめんよ、鬼丸、ごめんよ…」
子供天狗は泣いて鬼丸に謝ったが、鬼丸は聞く耳持たずで、それより優しく子供天狗の頭を撫で続けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。