第22話 喉元過ぎればなんとやら

陽炎鬼は天変地異を起こす鬼の言葉を唱えていた。

その間、意識はどこかに飛んでしまう。

しかしぼんやり思うのだ。


-一体いつになれば終わる?


いつもであれば、すでに天変地異が起き、その素晴らしき光景の中で目を覚ますというのに。


-気のせいだろうか?

-これが通常だっただろうか?


……。


-しかしこの言葉、三巡目ではないか???


陽炎鬼は目を開けた!!

いつまで経っても起きぬ天変地異を捨てて。

するとそこは既に天変地異が起きたのではないかと思える程に荒れていた。

地に大きな穴がいくつも開き、鬼の一体は息をしておらず、もう一体は切り刻まれ倒れている。

鬼の半端者は崩れ落ち、穴にその血を溜め血の池を作っている。

「何じゃぁ…」

呆然とし、立ち上がる。

神使の狐がこちらを見ているが、何かしようとする気配はない。


ぴぃぃぃ…


笛の音が遠くから届く。


ぴぃぃぃ


段々と近くなっていく。

傍観していた鬼達が騒ぎ出す。

近辺の木々からはすっかり生き物の気配は無くなっていたが、沢山の気配が集まってくるのがわかる。

空から来る。かなりの数だ。

傍観していた鬼達が更に騒ぎ出す。

「天狗じゃあああ」

「金棒をあげろおお!」

「叩き落とせええ!」

鬼達が叫びだす。


もはや目の前の雑魚の相手をする余裕は無い。

陽炎鬼は天狗達の気配に向かって走り出した。



「おい、生きておるか」

子供天狗と鬼丸の所へ、軌跡を残しながら山ギツネが来る。

そして尾っぽをゆらゆらさせ、鬼丸の顔の前へ差し出す。

「食え」

そう一言言った。

鬼丸は驚いて戸惑っている。

子供天狗も同じく。

「いいから食え、手っ取り早い」

「狐どの、いくら俺が鬼でも、食えねえ」

山ギツネは言葉が足りていない事に気がつく。

「うむ、肉まで食えとは言うまい、いや食うな。毛を二、三本食え。お前、抜いてやれ」

子供天狗に毛を抜けと指図する。

子供天狗もわからぬまま、山ギツネの尾から毛を抜き取った。そして鬼丸の口に持っていく。

「食うのか?」

鬼丸は確認する。

「いいからはよ食え」

かされ、毛を口に含んだ。鬼丸は不思議そうにこちらを見ている。

「それで良い良い、どうだ、体は動くか」

鬼丸は驚いた顔で子供天狗の顔を見る。

子供天狗は訳が分からず、見返すばかり。

「体が楽になったぁ」

傷が癒され、血は止まり、不足した血さえ復活しているという奇跡を、楽になったの一言で表された。

「まぁ良い」

子供天狗は喜び、鬼丸に抱きついている。

泣く時くらい面は剥がせばよかろうに、と思うが天狗の誇りがそうさせないのだろう。面は狐だがな。


山ギツネは自身の腹を舐め、そのまま軌跡を残しながらくるりと回る。

すると毛から輝きが失せ、いつもの赤い山ギツネに戻った。


ぴぃぃぃぴぃぃ


「天狗らが来たようじゃな」

空から聞こえる天狗の笛の

山ギツネの呟きに子供天狗も、鬼丸も答えない。

鬼達は既に遠くへ行き、天狗らと対峙しているのだろう。

しかし一体、地獄からどうやって、どこを通って来たのか。山ギツネは見当もつかなかったが、今はそれで良いとした。


返事の無い子供天狗と鬼丸に目をやると、二人は寄り添って、すっかり寝入っておる。

「まぁ良い」

山ギツネもその場に丸まり、二人を見守った。

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