第3話 転がる岩
うんうん、ううん、と小さな声で唸りながら、角度を変えて何度も見ている。
「お前これの中身を知っているか?なんと言われて渡された?」
「大事なものだから必ず向こうの里長に見せるように、って言われたくらいだ」
すると
「確かにこれは大事なものだから、ちゃんと向こうの里長に見てもらえ」
「わかってる、だからお願いしてるんだ」
笑いながら自分が言った言葉を繰り返すものだから、子供天狗は少し怒った様子である。
両手を後ろに回して背筋を伸ばす。小さな体を大きく見せているつもりなのだ。
「だけど俺が渡したんじゃだめだ、お前が渡すんだ」
怒った様子の子供天狗に、
「急がなくてもいい」
それがどんな意味を持つ言葉なのか考える頭が無かったが、自分がしなければいけない事ははっきりわかった。
「俺が渡さないと行けないんだな」
力を込めて子供天狗は言う。
「そうだ」
「わかった!」
子供天狗は、背中に回していた両手を空へ向けて上げる。それに合わせて「まかせろ!」とも言っていた。
やる気に溢れた子供天狗を見て
しかし同時に
「この岩の上を走り飛び超え行こうとは、決してするなよ」
「あいわかった!」
気合の入った声が返ってくる。
「探せば道は必ずある」
「あいわかった!」
その狐の面の下は、さぞやる気に満ち溢れているに違いないと思った矢先。
「しかし俺はしばらく
「何だって?」
「しばらくは行けない事を伝えて欲しい、もし向こうの里に行く事があったら」
「いやその前だ、もう一つ」
「あいわかった?」
「違うわ」
交代した他の
「それで、その書物を地蔵に預けてくれた
「そうだ」
子供天狗は倒木の上、
両手は後ろで組み、胸を張り大きく見せている。
「天狗は人を助ける」
力強く放つ言葉。
それが子供天狗の「天狗像」なのだろうと、
しかし、その
「恩返しをするというのか?」
「俺は自分で巻物を見つけられなかった、もし地蔵の所に置いてくれなかったら、きっと永遠に見つけられなかった」
自身の言葉に頷きながら子供天狗は続ける。
「しかし俺は未熟。あの
強欲な人間の願いなど俺でも理解しきれぬわ、と本音を声に出さぬよう
同時に目の前の子供天狗がまだ赤ん坊の頃、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、
この子供天狗はとても目立つ髪の毛色と目の色だったから、黒い
木々から落ちる時だって、そりゃあ一番目立っていた。
そんな赤ん坊が今では一人前の天狗として一生懸命に振舞っているのだから、成長したその姿に
「そうか、ではお前の思う通りにすればいい。いつか何かしてあげられるといいな」
残された子供天狗は倒木の上に直立したまま、空を見上げる。
そろそろ少し眠りたい。
急に眠気に襲われ、近くにあった杉の木を、4本の手足を使って器用に登って行く。
程よい高さまで登ると、枝と枝の間に挟まるように寝転がり、木々の間から見える夜空を眺めながら子供天狗は思うのだった。
眠りに入ろうとする子供天狗の耳に、岩の上を転がる耳障りな岩の音が侵入してくる。
ごろごろごろ・・・どごぉん。
・・・ごろごろごろ・・・。
どごおん・・・ごろごろごろ・・・「痛!」・・ごろごろごろ・・・
「!?」
子供天狗は飛び起きる。
岩の音に混じって声が聞こえたのだ。
もう一度聞いてやろうと耳を澄ましてみるが、どんなに経っても岩が転がる音しか聞こえてはこない。
ごろごろごろ・・・・どごぉん。
気のせいか。
そうして再び枝の間に挟まると、今度こそ眠りにつくのだった。
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