第2話 里の烏天狗
子供天狗は、取り憑かれた様に
それで気付いた事は、
子供天狗にして見れば、何が楽しいのか全く分からないのだが、歩いている時も、畑の土をいじっている時でさえも、常に笑みを浮かべている。
初めは、
子供天狗の目が届かない、家の中で何か楽しい事があったのかもしれない、そうも想像して見たのだが、
朝起きて、延々歩いて、畑へ行く。そしてまた延々歩いて家へ帰る。
畑をいじって暗い夜道を帰る事になった時も、雨がたくさん降って畑が水浸しになった次の日も、どんな時でも笑みを浮かべている。
そのうち
笑っていなくても、口の端が笑った時のように上に向かって上がっており、そのおかげで笑ったように見えるのだ。
「なるほどな!」
山ギツネに紹介してもらった山のふもとの横穴近くにある高い木の上から、これまた山ギツネに貰った遠くを近くに見る筒の道具を片目にあてて
木の下では、そんなあやしげな様子を見守る山ギツネの姿がある。
「なぁ天狗ッ子」
山ギツネが声をかけるが、子供天狗に降りてくる気配は無い。しかし、山ギツネがいる下を向いたものだから、山ギツネは話を続けた。
「お前、隣の天狗の里に行くんじゃろ」
木の上の子供天狗は頷いた。
「こんな所で止まっていて、いいんか」
子供天狗は頷かない。
「大事そうな巻物じゃったろ」
しばらくだまって動かなかった子供天狗は、突然、木の幹を抱えるようにして滑り落ちて来た。こすれる胸とふともも部分はまだ衣服が守っているのでいいが、腕と足首あたりは思い切り木の皮に擦れている。これは血が出るぞ、そう山ギツネは確信したが、しかし降り立った子供天狗の腕や足首は赤くはれているだけで血は出ていなかった。
「あの山が通れんのだ」
擦れてついた木の皮の破片をはたき落としながら子供天狗は言った。
「あの山は今、
「鬼?」
「そうだ。
鬼はどこにでもいるが、どこにでもいない。鬼は大体単独で行動し、居る所にはいる、いない所にはいないものだ。
「鬼は何をしに来とるんじゃ?」
「天狗と喧嘩する為だ」
「天狗と喧嘩か」
天狗と鬼が喧嘩などすれば人間達にも被害が及ぶのではないかと山ギツネは予想し、もしそんな事になればまた地蔵様たちが大変な思いをすると心配した。
少し前の災害の時にも、朝から朝までずっと、人々の
「鬼が結束して来るのか」
「鬼の事は俺もよく知らんけど、聞く限りそんな感じだ」
鬼は鬼同士、争う。鬼同士が協力して天狗と争うなど聞いた事がない山ギツネは、頭を捻った。
しかも、鬼一体が暴れるだけでも山が揺れるというのに、かなりの数で攻めてくるというのであれば、かなりの大ごとになるのが目に見える。
「
「
山ギツネの問いに、子供天狗は答える事が出来なかった。理由は明白、知らぬのだ。
「俺は、この間の南の
子供天狗は両手を後ろに組み、背筋を伸ばして語った。
「あの時は
南の大天狗が何者かの手によって巨石に封じられた際、その事態を各地の天狗の里に伝えるため、
「えらいことになるな。お互い気をつけようじゃないか」
少しの間をおき、山ギツネは再び聞いた。
「しかしお前、天狗のくせに飛べぬのか??」
子供天狗はなんと答えるべきか悩んだ。
「飛べないのか、とは不思議な問いだ!天狗といえど、みんなが飛べる訳じゃない。」
「天狗は皆、飛んでいるとばかり・・・」
「それは勝手な思い込みだ、改めてくれ」
天狗は飛べる、それは確かだ。子供天狗が飛べないのは、修行が足りていないだけなのだが、それを言うのは子供天狗の小さな
「ではその巻物は、飛べる天狗に預ければよいのでないか?」
山ギツネの提案を聞いて、そんな方法があったのかと子供天狗は驚いた。
「なるほど、考えつきもしなかった」
通れない道は通れるまで待つ、そう思っていたのだった。
「月が出たら、
太陽が出ている内は、
「・・・そ、そうか」
その夜、
「なぁ、なぁ。この巻物、隣の里まで届けてくれないか?」
突然、声をかけられた
「なんだ、どうした、まだこんな所にいたのか。すでに5つの山は越えている頃だと思っていたぞ」
「
子供天狗の言葉に、烏天狗は首をかしげた。子供天狗が通れない結界など張っていないはずである。
「どこの事だ??」
子供天狗は道案内をし、その場所へ行くと、沢山の岩がかなりの広範囲に渡って敷き詰められていた。
「なんだこれは」
「結界ではないのか?」
「違うな、結界は目には見えぬものだ」
岩はどこかから転がって来ているようである。こうして見学している間にも、岩達の上を新しい岩が転がってくる。
「書物をここに」
「ん?これは・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。