第2話
結婚してから翌日の月曜日、俺は奏撫と手を繋ぎながら登校している。
耳が聞こえなくとも奏撫は美少女であるため、周りから視線を集めてしまう。
ブレザーの制服姿はとても可愛く、俺の嫁だと自慢したい。
そんなことをしては奏撫が恥ずかしがってしまう恐れがあるのでしまいが。
「奏撫好き」
手を繋いでいては手話出来ないので言葉で伝えると、唇の動きを読んだ奏撫の顔が真っ赤に染まる。
先日の誕生日から奏撫は良く喋るようになり、夫婦になったんだから想いを言葉にして伝えたいそうだ。
とてもとても可愛く、俺だけしか見えなくなるくらいのヤンデレにしたい。
そんなことを思いながら学校に向かった。
☆ ☆ ☆
「お、遂に年貢を納めたのか」
教室に着いた瞬間に、手を繋いでいる俺たちを見て、友達である
俺と奏撫は学校でも仲良くしていたため、クラスメイトから「もう結婚しちゃえよ」とからかわれていたのが、結婚した今では懐かしい。
「ああ。土曜で十八歳になったから籍を入れたぞ」
「……は?」
何故かフリーズする武司。
「だから結婚したんだ。新婚ほやほや」
「……なんですとおおおお」
教室中に武司声が響き渡る。
煩すぎて反射的に耳を塞いでしまう。
ただでさえでかい声なのだし、大きい声を出さないでほしい。
煩いと思っていないのは、教室内で奏撫だけだろう。
「え? だって付き合ってなかったよな?」
「そうだぞ。交際ゼロ日で婚姻届け書いた。てか、結婚しろよとか言ってたじゃないか」
「確かにそうだが、結婚するとは思ってなかった」
高校生で結婚する人は少ないだろう。
だからって驚きすぎだ。
「奏撫は俺の女だから渡さないぞ」
ギュッと奏撫のことを抱き締める。
人前で抱き締めるのは初めてで、恥ずかしがっている奏撫は可愛い。
「何で人の妻を奪わないといけないんだよ」
「言ってみたかっただけだ」
「あ、そう」と興味をなくしたよう呟いた武司は、自分の席に戻っていった。
☆ ☆ ☆
「奏撫をヤンデレにしたい」
学校終わって家に帰ってきた後、俺は自室で奏撫に言った。
ヤンデレの手話がわからなかったので言葉で伝えたのだが、唇の動きが読みきれていないらしい。
奏撫は可愛いらしく首を傾げる。
可愛すぎて抱き締めたい。
今はそんなことをしている場合じゃないので、俺はスマホを取り出して『奏撫をヤンデレにしたい』と打ち込んで見せる。
「ヤンデレ、て何なん、ですか?」
意味ががわからないらしく、俺はスマホで『ヤンデレ』と検索してから画面を奏撫に見せてあげる。
読んでいく内に、奏撫の顔は真っ赤に染まっていく。
恥ずかしくなってしまったのだろう。
「私は、確かに病気ですが、精神的に、病んでは、いません」
逃がさないと結婚しようとしたのだし、奏撫は充分にヤンデレの素質はある。
そういったとこも好きなのだけど。
「でも、愛してる気持ちは、ヤンデレの人に負けて、ないです」
唐突にデレられては抱き締めたくなってしまうから止めてほしい。
話が終わった後にいっぱい抱き締めさせてもらおう。
「可愛い可愛い可愛い。俺の嫁は可愛すぎる」
もう言葉にせずにはいられない。
ある程度唇の動きで俺の言葉を理解したらしく、奏撫は「ありがとう、ございます」と小声で呟く。
「それで、その……ヤンデレというのは、どうすればいいの、ですか?」
『やってくれるの?』
手話で伝えると、恥ずかしそうにこくんと頷いてくれる。
『ヤンデレというからには俺に沢山愛情を向けてほしい』
やっぱりヤンデレの手話を調べた方がいいかもしれない。
もちろん五十音に対応している手話はあるが、ありがとうなどはいちいち『あ・り・が・と・う』といちいちやる必要はなかったりする。
今はわからないので、ヤ・ン・デ・レと一つずつ手を動かして手話を表現することにした。
「遼くんのことが、世界で、一番大好き、です。ずっと一緒に、いたいです」
ズキューンと胸を撃ち抜かれた衝撃が走る。
あり得ないほど可愛く、もう抱き締めるのを我慢出来ない。
力いっぱい抱き締めると、奏撫も抱き締め返してくれる。
「俺も愛してる」
「ひゃあ……」
耳元で囁いてみると、吐息のせいか奏撫が可愛らしい声を出した。
こういった言葉を幼い頃に聞いていたとは思えないし、自然と出てしまったのだろう。
耳が弱点とわかったので、後でやらしてもらうことにした。
触れ合うことがほとんどなかったため、新たに奏撫のことが知れて嬉しい。
「今度結婚指輪も買うし、その内披露宴を上げようね」
聞こえなくとも想いを込めれば気持ちは伝わる。
奏撫は俺が何を言ったのかわかったようで、嬉しそうに「はい」と頷くのだった。
耳が聞こえない隣の美少女が一緒にいたいのは手話出来る旦那の俺だけなのでヤンデレにしてみた しゆの @shiyuno
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