♰22 モッテモテ。
「ロイザリン・ハート」
「はい」
レオナンド総隊長もやってきては、私を呼ぶ。
「オレを選ぶか?」
「いえ、私を選んでくれますよね?」
レオナンド総隊長に続いて、リュートさんが問う。
「……え? なんの話ですか?」
これは、なんだ。なんだか見覚えあるようでない。
いや、覚えているぞ! これはゲームのやつだ! なんのゲームだっけ!? そうだ! 乙女ゲーム!!
恋愛シミュレーションゲームで、攻略対象者を選ぶやつだ!!
ふぅ、思い出してすっきり……ってなんでそうなった!?
お、落ち着け私。いくら王都に来てからモッテモテでも、そういう意味のモッテモテではない!
左右の手を繋いだままの異性はあくまで従者的な存在であり、お腹に抱き着いたままの可愛いエルフの少女は友だち!
私の内心はとてつもなく焦っていたが、一瞬だけである。
ポーカーフェイスを貫いた。むしろ、涼しい顔である。
ふっ、お独り様まっしぐらな三十路を舐めるな。こんなイケメン二人に選択を迫られても、平然を装える。
「後ろ盾の件だ。お前の自由を守る」
ひえぇ……かっこいい……。
言い放つ強さ。痺れる。
「ハートさんが必要としていると聞いたので、私とレオナンド総隊長、どちらがいいですか? 私もぜひ、あなたをお守りしたいです」
ひえぇ……王子様みたいにキラキラしている……。
あ、王子だ、この人。
「ギルドマスターから聞いたのですね……えっとぉ、そうですねー……」
ギルドマスターめ。何故、レオナンド総隊長にまで話した。
断りづらいじゃないか。
「ロイザ」
明後日の方向に向けていた顔を、顎を摘まむように凭れて、向かい合わされた。
レオナンド総隊長だ。
「お前の自由を邪魔する者は、オレが蹴散らしてやるから、オレを選べ」
「ひぇ……」
「?」
「いえ、はい」
思わず小さな悲鳴を口に出してしまったから、誤魔化すように返事をしてしまった。
満足したようにレオナンド総隊長は、笑みで頷く。
「ずるいですね、レオナンド総隊長は」
その隣で、リュートさんは肩を落とす。
「俺はさーんせい。目がいいね。この人、かなり強いし、蹴散らすってところ気に入った」
デュランが、また私に凭れてくる。
強いに決まっているだろう。今現在、最強の人だ。
私が超えてみせるけれど。
「どちらにも任せられる。心強い。感謝する」
リュートさんにフォローを入れつつ、ロウィンがお礼を述べて頭を下げた。
「我が主の自由を奪おうものなら、王都に雷を落として焼き払う。それしか能がないため、後ろ盾があると助かる」
「ロウィン。それは脅しかな?」
「いや、事実を言ったまでだ。我が主」
警備騎士の前で、それはいけないだろう。
ここに脅威がいます、警備騎士に通報!
後ろ盾をやるのも大変じゃないか。闇の住人と幻獣フェンリルがついた冒険者の後ろ盾。
本当に頼んでいいのだろうか……。
「あの、レオナンド総隊長さん」
「オレを超えた頃には、後ろ盾なんて要らなくなっているだろう。自由に冒険していろ」
ぽむっと、頭にレオナンド総隊長の大きな手が置かれた。
「はい……ありがとうございます」
そのまま頷いてしまう私の頭。
お礼を口にしたところで、ちゃんと言わなければと、ハッとする。
「よろしくお願いいたします。ロウィンの言う通り、心強いです。自由に冒険を続けて、必ず、超えてみせます」
「……フッ」
最後は、宣戦布告。
とても好戦的な笑みを浮かべる、レオナンド総隊長。
ゾクゾクしてくる。早くこの人と本気で戦いたいものだ。
二ッと、私も笑い返す。
「話は済みましたか?」
そこで声をかけてくるのは、レオナンド総隊長の後ろにいたキングス王子。
「あ、ごめんなさい。なんか稽古の途中だったんですか?」
「いや、お前を待っている間の暇潰しだった。もう終わった」
レオナンド総隊長はそう答えると、キングス王子のために退いた。
ん? キングス王子は私に用があるようだ。
てっきり、レオナンド総隊長のしごきを続けてほしくて言いに来たのかと。
「ロイザリン・ハート……」
「はい?」
唸りそうな顔つきで睨みつつ、キングス王子は私を呼ぶ。
「いや、ロイザリン・ハートさん」
言い直した……。
「……」
「……?」
キングス王子は、黙り込む。
「なんで見ているんですかっ!?」
「ごめんごめん、つい」
しびれを切らした風にキングス王子が、兄であるリュートさんとレオナンド総隊長に言う。
見られていて言い出せなかったのか。
「二人っきりにしてくれませんかね!?」
キレ気味にロウィンやデュランにも声をかけるキングス王子だったが。
「断る」
「同じくー」
ロウィンとデュランは、私のそばから離れる気はなし。
断られるキングス王子。わなわなと震えている。
「もういいっ!!」
やけになった。
まだ左右に、リュートさんとレオナンド総隊長がいるのに。
「ロイザリン・ハートさん!! オレを弟子にしてください!!」
がばっと頭を下げるキングス王子に、私はギョッとしてしまう。
「お断りしていいですか?」
「よくない!!」
「ええー」
断ろうとしたら、全力で拒まれた。
拒否権ないとか、横暴。
「こら、キングス。誠実にお願いしないといけないじゃないか」
リュートさんが、お兄さんしている……。
しかし、キングス王子は赤面しながら、プルプルと震えてしまった。
プライド高そうなキングス王子がお願いして、それを見られているこの状況。
気に毒だ……。
「なんでまた弟子入りなんですか? キングス殿下」
「……オレは強くなりたい……だから、弟子にしてほしい」
強くなりたい、か。
「それなら、レオナンド総隊長が適任では?」
「とっくの昔に断られた……」
「そうか……」
最強の男に断られたのね。確かに、一蹴しそう。
総隊長様だもの。弟子を鍛えている暇はないでしょう。
「アンタはレオナンドさんを超えると宣言した! いずれ最強になる人に、弟子入りを希望するのは同然だろう! 一戦交えて確信した……アンタは最強になる! だから、アンタから全て学び、オレ様もいずれ最強になる!」
吹っ切れた様子で言い放つキングス王子から、勇ましい意志を感じた。
拍手したいところだが、あいにく手は塞がっている。
「お目が高い!」
「我が主は、最強になる」
デュランとロウィンが、鼻を高くした。
「我が主の弟子として、恥じぬ言動をするのだぞ」
「弟子入り認めてやる」
「何故勝手に決めるかな!?」
次の瞬間には、弟子入りの許可を出す二人に、思わず声を上げてしまう。
「いいんだな!? 今から師匠だ!! よろしくお願いします!!」
「えっ、ちょっ……!」
爛々と目を輝かせたキングス王子が、もうその気になって頭を下げた。
かっ……可愛いなおい!!!
プライド高い王子が、弟子入りに大喜びしている! 断れない!
「……学べるものなら学びなさい」
「はい!」
勝手に私から好きに学べばいい。
そう投げやりなことを言うけれど、キングス王子の元気な返事が返ってくる。
本当モッテモテだなぁ、私ってば。
「ロイザちゃんは教えること、上手いから大丈夫だよ」
「わっ、フェイ校長……」
後ろを振り返れば、アゲハを肩に留めたフェイ校長がいた。
「おかえり、ロイザちゃん。頼みたいことがあるんだけど、いいよね?」
「最初から拒否権はないんですか……」
「精霊の森まで、生徒達を引率してほしいんだ」
さっきから私に拒否権がない。
ん? 精霊の森へ引率?
「精霊の森まで引率って……皆もしかして、精霊の森で薬草摘みとかするんですか?」
「それとモンスター討伐もね」
「シルバー冒険者として引率ですか……んー」
この人数を守るのか。
悩むが、私は一人ではないことを思い出す。
ちょっと、むずむずしてしまう。にやけるな、私。
「前にいたシルバーランクのモンスターは、ロイザちゃんが討伐してくれたから静かなものだって。ロイザちゃんになら安心して預けられるから、頼めるかな?」
ああ、あの凶暴化したモウスか。
「わかりました。引き受けましょう」
「そう言ってくれると思ったよ」
「あ、でも明日は、ロウィン達と借りる予定の家を見学しに行くので、明日以降になりますが……」
家の見学を忘れるところだった。
「それで構わないよ。よーし、皆! ロイザ先生が精霊の森まで引率してくるよぉー!」
ロイザ先生言うな!
生徒達に寄っていったフェイ校長の三つ編みには、見覚えのあるゴールドの髪飾りがあった。
もう誕生日を迎えていたのか。あれはクインちゃんのプレゼントだな。
「師匠。オレ様も同行します!」
「キングス殿下は学校に行きなさい」
「舐めないでください、師匠。オレ様は一日二日休んだくらいで後れは取りません!」
どやぁっと言い切るキングス王子。
「絶対だめです」
「なっ!」
国王陛下直々に、苦情が来たらどうするんだ。絶対に、それは避けなければいけない。
「メイサもだよ。ちゃんと学校に行きなさい」
「……はい」
タイミングを見計らっていた様子のメイサにも、言い出す前に釘をさしておく。
しょぼん、としたように俯いた。
「ロイザちゃん、ロイザちゃん」
「何かな、クインちゃん」
クインちゃん。いつまで私のお腹にしがみ付いているのかしら。
余計なお肉はなくなったから、別に心地いいわけないのに。
視線を落とすと、これまたキラキラビームを放射しそうな青い目をしていた。
「お家、借りるの?」
「うん、その予定。宿暮らしはおしまいかな」
「……ウチも、見学しに行っていい?」
「え? ああ、別にいいけれど……多分」
「やった!」
嬉しそうに声を弾ませると、やっとクインちゃんは私のお腹から離れる。
それからフェイ校長の元まで、駆け寄った。
可愛い子だなぁ、本当。しみじみ思う。
「当分、無理そうですね……」
そう独り言を呟くリュートさんを見上げると、ただ微笑みを向けられた。
「ねー、ロイザ。俺まだお腹空いてるんだけれど」
「ああ、そうだね。もうちょっと露店で食べていこうか。じゃあ、フェイ校長、また明日の夜に来ますね」
フェイ校長を始め、軽くクインちゃん達にも挨拶をして、私はデュランとロウィンに連れていかれるように露店に戻る。
食事をすませたら、またたび宿屋に戻って、いつも借りている部屋で休む。
床にはフェンリルの姿になったロウィンが丸くなって眠り、デュランは影の中。
私は久しぶりのベッドに身を沈めつつ、ロウィンの毛を撫でながらゆっくりと眠りに落ちた。
翌朝。寝ぼけたままベッドから降りてしまい、フェンリルの姿のロウィンの上に、もふっと倒れる。
謝りつつも着替えて、朝食を取りに三人で部屋を出ると、クインちゃんの姿があった。
寮まで迎えに行くつもりだったのに。まぁいいか。
「それでは、ご案内しますにゃん!」
オフショルダーのシンプルなドレス姿のヘニャータちゃんについていく。
まだ足を踏み入れていない王都の奥。ちょっと壁に近いと感じる位置。
けれど、見せてもらった家はいいものだった。白いで塗装された煉瓦の一戸建て。少し家具が残っていているが、部屋はちょうど三つあり、広さは十分。
大家さんは、とてもふくよかな体型のおばちゃんって感じの女性。ロウィンに借りてもらえたら光栄だと期待満々。
「ロウィン様もそうですが、ロイザ様にも期待していただきたいですにゃ!」
ヘニャータちゃんは、そう言ってくれた。
「キッチン、素敵!」
クインちゃんが、キッチンに目を輝かせる。オーブンがついていて、はしゃいでいた。
これは使うために遊びに来るかもしれないなぁーと思っていれば。
「ロイザちゃん。ウチも住んでいい?」
キラキラビームを放射しそうな目で、見上げてきた。
というか、おねだりだ。
「何故に!? クインちゃんには、寮があるじゃない」
「でも、自分のキッチンない……ウチ、もっと料理したい……。今なら、お掃除もします。ウチを住み込みで、働かせてください。お安い、ですよ?」
「くっ……可愛いから採用!!」
最初からこれが目的でついてきたのか。
あざと可愛いエルフちゃんめ!
まぁ、冒険して危険を冒すより、こうして家事とかした方が、クインちゃんには合っているのかもしれない。
けれども、部屋は三つ。どうしたものかと考えていれば、ロウィンがリビングで寝ると言い出した。
フェンリルの姿で寝るには、リビングの広さがちょうどいいとか。
デュランとロウィンの部屋を設けて、そこに物を収納する。デュランは、そこで寝る。
バスルームも、なかなか綺麗だった。
うん、ここがいい。
大家さんもヘニャータちゃんやギルドマスターのお墨付きの私達を信用して借りることを承諾してくれた。
先ずは、ロウィンと私が敷金もろもろを支払う。こうして、私達の同居生活が始まるのだった。
とはいっても、翌日には精霊の森へ出発。
こんな大人数で移動するのは初めてだが、子どもでもちゃんとした冒険者。
周囲を警戒しつつ進む。野宿も順番を決めて、見張りを立ってて、仲良く過ごした。
そうして、到着した精霊の森。グラーティアス。
相変わらず、緑豊かな美しい森に足を踏み入れた。
前見た時と変わらない花畑を見ながら。
「若返らせてくれた精霊様は……何がしたいんだろう」
とポツリと漏らす。
「君を見守りたいだけだよ」
そっと囁かれる声が、優しく耳に吹きかけられた。
振り返っても、誰もいない。
今のは……精霊の声?
「……そっか、そうですか。それはありがとうございます」
私も、そっと言葉を返した。
モッテモテだな、やっぱり。
ちょっとした休憩のひと時を味わったら、また本気を出して最強を目指そう。
だって、転生前に言ったじゃん。
end
あとがき。
応援、レビュー、感想をありがとうございます!
最強の座を手に入れる前に、完結させて申し訳ないです……
そろそろ私も本気出して、仕事しなくていけませんのでね。
その前に、一先ず完結させていただきました。
私も転生したら本気出したいという気持ちの元書き始めたのですが、本気出すってどうやって何に対してなんだろうと疑問に思いつつ、流れるがままに書きました。この作品で、まだまだ個性的なキャラクターが書けることに感動を覚えたりしました。
ヒロイン、大好き作者ですが、今回のロイザも大好きです。
もしかしたら、再開もするかもしれませんが、一先ず完結!
またいつか!
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ロイザリン・ハート「転生したら本気出すって言ったじゃん!」 〜若返りの秘薬を飲んだ冒険者〜 三月べに @benihane3
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