第12話 不協和音

 結局、涼香と江里奈の勝負は引き分けということになった。

 2人とも一時間道場に正座させられ、理恵から説教を食らった後、恨みっこなしということで手が打たれた。

 こうして前代未聞の先輩・後輩対決は幕を閉じた。

 この後、不思議なもので、江里奈は急に涼香に懐くようになったのだ。

 しかし、騒動は思わぬところに余波をもたらした。

「あんたがしっかりしないからこういうことになるんでしょ」

 理恵は事件のあった翌日、学食に歩美を呼び出してなじった。歩美は下を向いたまま何も答えない。

 たまたま通りかかった奈央が口を挟んだ。

「歩美を責めるのはお門違いだよ。榎本を付け上がらせた私たちみんなの責任でしょ」

「あんたは黙っといて!」

 理恵は怖い顔をして奈央を睨んだ。

「どうなの、歩美。あんた、このままだとホント、ヤバいよ」

 歩美の顔を覗きこむ理恵。

「理恵ちゃん……」

 奈央はもう一度、理恵をたしなめる。

「黙っててって言ってるでしょ」

 今度は奈央が不機嫌になる番だった。

「理恵ちゃん、どうかしてるよ。そんなに部が大切なの? 部のためだったら、誰かが不幸になってもいいっていうわけ?」

「そんなこと……」

 奈央の剣幕に理恵は少したじろいだ。

「何もかも自分で背負い込んでるような顔するのはやめて。そういうのみっともないよ」

 一言余計だった。

 「みっともない」という言葉を聞いて、理恵は完全にキレた。

「私は主将なの! あんたたちみたいにのほほんとやっているわけにはいかないのよ!」

 そう言って荷物を乱暴に掴み、立ち去った。

 理恵が視界から消えた後、奈央はうな垂れる歩美の肩に手を置いた。

「気にしちゃ駄目だよ。あんなヒステリー」

 そう言いながらも奈央は少し胸が痛い。


つづく

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