第7話 強化練

 試合が迫っていた。

 建前通り週二回練習する一年生と違って、二年生以上は日曜日を除いて連日練習を重ねる。

 本来なら奈央の仕事であるはずの一年生の指導を、試合に向けて最終調整をする彼女に代わって歩美が行なう。

 型を覚えるための徒手練習を指導しながら、歩美は自分が戦力外にいることを痛いほど思い知らされていた。

「よっしゃああ」

 徒手練習をしながらも先輩達が中てた時は声を出さなければならない。

「はい、もう一回続けて」

 一年生たちはまだ弓道着を着けず、ジャージのまま練習している。その間を歩きながら、歩美は各人の型をチェックし、気が付いたところがあれば直す。

 未経験者に混じって同じ練習をさせられている榎本江里奈は明らかに不満そうだ。

 相手が歩美だったということもあるのだろう。江里奈は思わずその不満を口に出した。

「先輩、いつまでコレ、やらされるんですか?」

 理恵や奈央が聞いたら叱り飛ばされ、即刻、正座モノだろう。しかし、歩美は相手が弓道経験者ということで強く出ることが出来ない。

「いつまでって……」

 そして、つい頼りない答え方をしてしまう。

「主将がいいって言うまでよ」

 納得がいかない表情で首を傾げる江里奈。他の一年生も練習の手を止めて、2人のやり取りを聞いている。

 そこで運良く助け船が入った。

「北野さん、一年生の指導、代わりますんで練習に入ってください」

 涼香が交代を告げにやってきたのだ。

「ありがとう」

 そう言って、歩美は逃げるようにして射場に入っていった。


つづく

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