第5話 新歓コンパ
入部審問の後、新歓コンパに流れる。
場所は大学から歩いて10分ほどの場所にある居酒屋。
少しお値段は高めだが、料理の質も高く、奥に広い座敷があるので、他の運動部にもよく利用されている。
開始は18時。
まずは現役部員たちが入り、その後、次々とOB、OGたちが到着し、最後に師範が現われて飲み会が始まる。
弓道部も体育会系である以上、酒の量はハンパではない。とは言え、女子部しかないので男子部のある学校や部に比べれば、まだ大人しい方である。
上級生もあまり無理強いをさせない。
その代わり、自分が飲む。
「ああ、やっぱビールはいいねぇ」
サワーの空いたジョッキにビールを注いで広井裕美はすっかり御満悦だ。
「さ、さ、先生も飲んでくださいよ」
師範の先生のグラスにビールを注ぐ裕美。三年間の付き合いなので、裕美は師範とすっかり仲がいい。
開始から2時間ほど経過し、すでにグループがいくつか出来上がっていた。
涼香は愛莉とすっかり意気投合して彼女を放さない。
歩美は衣月と一緒にOBの話に耳を傾けていた。
翼は美穂や翠の前ですっかり姉貴気取りだ。
その中で、主将、黒田理恵はひとり隅のほうの席に座り、焼酎の水割りのグラスを傾けながら、醒めた表情で宴会の喧騒を眺めていた。
入部審問でのことが尾を引いている。
あの場で榎本江里奈を注意するべきだったのは、自分だった。
それなのに涼香に後れを取った。
思い出すたびに悔しくて下唇を噛み締める。
(なんで私が主将なんだろう)
去年の納会から半年、理恵はずっと考え続けていた。
しかし、答えは未だに出ない。
あと半年。半年乗り切れば、次の学年にバトンタッチできる。そうしたら思いっきり気楽な引退生活を送ろう。
理恵はそう考えていた。
問題はその半年をどう乗りきるか、だ。
(そりゃ、私は同期の中でいちばん歳食ってるけどさ)
主将になった理由で、思い当たる節があるとすればそれしかない。
理恵は一浪して入学したので、奈央や歩美より一つ年上なのだ。
(だからって、ろくに中りもしない私がやらなきゃならないわけ?)
この怒りをどこにぶつければいいというのだ。
「理恵」
突然、奈央に話しかけられ、理恵は我に返った。
「どうしたの? 怖いカオして」
「えっ?」
やだな、私。嫌なこと考えてたから、それが表情に出てしまったらしい。気をつけなきゃ。
「なんでもないよ」
「そう。ならいいんだけど。そろそろお開きになるから、締めの言葉、よろしくね」
軽やかに言って去っていく奈央。
1つ年下なのに、自分よりしっかりしている。
そして、何よりも弓の腕もいい。
奈央が主将になればよかったのに……。
理恵はまたひとつ、大きなため息をついた。
つづく
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