第16話

「人体実験に使うような危ないものを、大事なお得意様に使うわけないじゃないですか。これは本当に偶然起きた事故なのですよ。まさか、桜が人に寄生するなんて誰も予想していませんでした。知っていたら、死刑囚を使って……いや、なんでもありません」

「三島、お前、今とんでもない事を言いかけなかったか?」

「忘れてください。そんなどうでもいい事より……」

「三島さん。死刑囚云々はどうでもいい事なのですか?」


 細木の突っ込みを三島は黙殺して話を続けた。


「真実の部分は、種を取ろうとしたことです」

「種? やっぱり人体実験か」

「違いますよ。偶然にも頭山さんの桜がかなり成長したので、ついでに種も取れたらという話になっただけですよ。だから、意思を確認したでしょ。木が枯れるまで待つか、木を切って苗からやり直すか」

「俺は種の話は聞いてないが」

「種はついでに取れればよかったのです。頭山さんの桜が枯れる前に実をつけてくれればそれでよし。ダメなときは諦めるつもりでいました」

「その時は死刑囚を使うつもりですか?」

「細木さん、うちの会社で仕事を続けたければ、そのことは忘れて下さい」


 細木は顔をしかめただけでそれ以上の追及はやめた。


「それで、三島。三分の一が真実で、三分の一が思い違いなら、残りの三分の一はなんなんだ?」

「はい。残りの三分の一は細木さんの嘘です」

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