第2話

「分かりました」


 大きなシルクハットを被った医者が聴診器を外しながら言う。

 内心、医者からはサジを投げられるのではないかと危惧きぐしていた正は、その言葉を聞いて安堵あんどした。


 医者が「分かりました」という事は、これは既知きちの病。


 きっと対処法もあるのだろうと……


「先生、これはなんですか?」


 正は希望の眼差しを医者に向けた。


「桜です」

「はあ?」


 どうやらこの木は桜だったらしい。


 だが、正にとってはこの木が桜であろうと、桃であろうと、梅であろうとそんな事はどうでもいいのであった。


 どうやったらこの木が頭から取れるのかを聞きたいのである。


 だが……


「後、一週間ほどで花が咲きます。楽しみにしていて下さい」


 医者の言葉は何の解決にもならなかった。


「楽しみなわけないだろ!! なんとかしろよ!!」

「君ねえ、何とかできるぐらいなら……」


 医者はシルクハットを取った。


「私がこんな帽子をかぶっているわけないだろう」


 医者の頭には、三十センチまで成長した桜が花を咲かしていた。


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