救世主再び〔1〕
「ロゼさん!」
「え? シグルズ様、どうして?」
ダンジョンからの帰り道。僕は偶然ロゼさんに出会ったが、そこにいる彼女は、今まさにモンスターに殺されそうになっていた。
「今助けます!」
「マジックボルト!」
コボルトがそのナイフで彼女を刺す前に、雷が命中した。そしてその隙にロゼさんを持ち上げて、距離を取った。
「あの……先程といい、本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。とりあえず地上に戻りましょう………でも、後で理由は聞かせてください。何故こんなことになっていたのかについて」
「………はい」
私は正直に話した。自分が冒険者である事。ギルドにいたが役立たずで捨てられたこと。そして、お金が無くて無謀な冒険に挑んだこと………………その全てを。
こんなことを聞かされても、困ってしまうだけだろう。彼のことだから、きっとわたしを憐れむようなことはしない。でも、だからこそ、私は苦しい。
《こんなはずじゃなかった 》
その言葉が、何度も何度もわたしの頭の中を駆け巡る。
命の危険があるのは最初から分かっていたし、覚悟もできていた。なのに……いざそれが目の前に来た時、わたしは震えが止まらなかった。
恐怖で声が出ないのに、心の中では一丁前に死にたくないと叫んでいる自分。酷く滑稽。
彼に会うと、そんな醜い自分を意識せざるを得ない。こんな有様の私が、本当に彼と同じ冒険者と呼ばれてもいい存在なのだろうか………………
わたしはもうダメなのかもしれない。
冒険者に憧れをもった日のことが、今では地平線のように遠く感じる。
「………そんなことが……………」
僕はその次にかけるべき言葉を探していた。
共感すればよいのか、励ませば良いのか、慰めればいいのか、一緒に怒れば良いのか……
でも、どれもピンとこない。
今の彼女にかけるべき言葉は、そんな仮そめの言葉ではダメだ。
僕に話してくれている時、彼女の顔は常に下を向き、声色もとても暗かった。絶望、それも、自分に対しての絶望。
彼女は話の節々に、そんな自己を貶すようなことを何度も話していた。勿論悪いのが誰なのかは誰が見ても明らか。だけど結局そういう風に進んでしまった自分が悪いのだと……こんなことがあっていいはずがない。
かと言って、僕に何が出来るのか………
そんな時ふと思い至った。彼女にとっての最善で、僕が出せる最善の
「ロゼさんと僕でパーティーを組まない?」
「え ?」
ロゼさんは困惑した様子を浮かべる。
「何も不思議な事はないです。お互い冒険者なんですから」
その言葉を聞いた時、彼女の顔が一瞬だけ明るくなったような気がした。
「ダンジョンでの報酬は………半分でどうですか?」
「そ、そんな! 待ってください!」
「不満ですか? だったら6対4でも………」
「そうじゃありません! 逆です! なんでそうなるんですか!」
「だってパーティーを組むんだから仲間でしょ? だから報酬も均等にしようと思ったんだけど……って、どうして泣いてるの!」
「あ……れ? おかしいです。今は泣いている暇なんてないのに……」
まるで今までせき止めていたものが一気に流れ出るように、彼女の目から涙が溢れ出る。
ぼくは何をしたら良いかわからず、取り敢えずロゼさんの頭を撫でた。
(こういう時はこうするといいって師匠が言ってたんだけど……あれ?)
彼女はいっこうに泣き止まず、むしろその激しさをましていく。
それを見たシグルズは、再びどうすれば良いかと、頭を悩ませるのであった。
次の日
「ロゼさんおはよう」
「 おはようございますシグルズさ…!?」
「あぁごめんごめん。ロゼさん昨日はそのまま寝ちゃったから、起こすのもなんだか悪いと思って………ここは僕が最近泊まらせてもらってる宿なんだけど…って聞いてる?」
「どうなってッ! えっ? この状況。何故こんな…ことに。もしかして………ッ!」
そう言って恥ずかしそうに僕の方をチラチラと見てくるロゼさん。さっきからずっと両手で体を覆っている。
………そこで気がついた。
「……あ! そういうことか! 待って!誤解しないで! 違うんだリゼさん。そういうことは全くしてないからね。そもそも僕は床で寝てたから……」
必死に僕は自己弁護を始める。
「あの……別にそういうことをお望みなのであれば………………」
「無い! 断じて望んでないから! 僕はパーティーの仲間をそんな風に……うぁぁ」
大振りのジェスチャーで必死に説得を試みていたところうっかり転んでしまった。
「イタタタ。ごめんロゼさんだいじょ!?」
……全然大丈夫じゃなかった。
「違っ、これは事故で…」
僕は倒れた勢いで彼女の胸を触ってしまっていた。服が微妙にはだけた感じになっている。ロゼさんが恥ずかしそうに横を向いているのも合わさってスゴく気まずい状況に。
こういう時に限って大きさとか、弾力とか、いらない情報が頭の中に入ってくる。
「あの………私……覚悟は出来ますから」
そういう彼女は顔を赤く染めあげながら小さな声でそういった。
「落ち着いて。そんな覚悟を決める必要は無い、絶対に無いから!」
(あ〜もう。説得をしようとしていたのに、これじゃあ説得力にかけるじゃないか! 何やってるんだ僕は!)
30分後
「すいません。私起きたらシグルズ様が見えて……だから」
「いや、これは100%僕が原因だから。ほんとに……ごめん」
僕は誠心誠意、心からの土下座をした。
「謝らないでください。寧ろ感謝をするのは私です。2度も助けていただいた上にあんな姿を………お恥ずかしい」
「そんなことないですよ。僕だって泣きたくなる時はありますから。それより、昨日の話どうしますか?」
「それは、パーティーの件……ですか?」
「はい」
「あの……私なんかでよろしければ、是非パーティーに入れさせてください」
「そうですか! 良かった。 これからよろしくお願いします」
なんだろう? やっぱり初めて冒険者の仲間ができたからだろうか。……凄く嬉しい
「こちらこそよろしくお願い致します」
「とりあえず、お互いの能力を把握しないとですよね。やっぱりパーティーですから。取り敢えずリゼさんから」
「……あの」
「はい。どうかしましたか」
「私の事はリゼと呼び捨てでお呼びください」
「え、でもリゼさんは僕より……」
「私はシグルズ様の仲間、ですよね。でしたら仲間らしく呼び捨てで。普通の会話も敬語は不要です」
「……分かりま…じゃなくて、分かった。でも、その理屈だと僕のこともシグルズ、いや下の名前のアルフィーで呼ばないと」
「いえ、それは心配いりません」
「どうしてです…どうして?」
「現在パーティーに加入しているのは私とシグルズ様のみ。そしてリーダーはシグルズ様以外にありえない。なのでパーティーのリーダーであるシグルズ様のことを呼び捨てで呼ぶなんてできません」
「え? そんなルール聞いたことないけど………それに「これは決定事項です! もしご納得いただけないのであれば、私は加入しかねます」
そんなぁ〜
「……わかったよ。でもせめて様付は辞めてよ。むず痒いし、何より仲間に対しての呼び方じゃないから」
「分かりました。ではシグルズさんとお呼びします」
「じゃあこれからよろしく、ロゼ」
「はい」
本当は呼び捨てで読んで欲しいけど、ロゼはそれを拒否し続けそうだし、加入してくれないのは僕としても困るから、ひとまずはこれでいいと思った。
「へぇ〜付与魔法……その中の強化魔法っていうのが使えるのか」
「はい。私は今のところ身体能力のうち敏捷性、筋力のみしか強化することは出来ませんが、その間は大体普段の2倍程の強化が、重ねがけすることで最大8倍程強化された状態になります。重ねがけする程持続する時間は短くなり、8倍だとおよそ1分間効果は継続します」
「8倍! 凄すぎて全然想像がつかない。もしかしてそのぐらい強化されてれば僕でも近接戦闘できる?」
「私でもそこそこは通用したので、上層程度のモンスターであればシグルズさんも十分通用すると思います」
「本当に!」
それって相当すごいことじゃないか? 特に僕みたいな魔力を使わなければ戦えない人にとったら、魔力の節約になる。勿論近接戦闘を主な役割としている人の方が恩恵は大きいとは思うけど。
「しかし!」
ロゼは少し厳しい口調で、
「頻繁に行使すると、された側の肉体的疲労が大きくなります。強化魔法には肉体機能の疲労を抑える補助効果も多少ありますが、元々の身体能力よりも高い動きが可能となるため、無意識のうちに力を使い過ぎてしまうのです。特に8倍まで強化してしまうと、反動は物凄いことに……実際シグルズさんが私を助けてくれた際私は4倍の強化だったんですが、たった4倍でも普段体を使って戦っていない私は全く体が動かなくなりました」
「……成程。つまり僕が魔法を主体としているから、肉弾戦をしようとするとそういった可能性もあるということか」
個人的には自分の手でモンスター達を倒していくっていうのもやってみたかったんだけど……そう簡単には行かないみたいだ
「じゃあもうひとつ質問なんだけど、それってクリーチャーにもかけることは出来る?」
「えっと……クリーチャー…ですか?」
「うん。僕カードマジシャンだから」
「カ、カードマジシャン!?」
「うん。というか、この前 助けた時見てなかった?」
「すみません。あの時は本当に何も考えられないような状況でしたから……しかしカードマジシャンですか……適性が必要な上、行使には多くの魔力を消費するため、使い手はあまり見かけたことはなかったもので、つい驚いてしまいました」
「そ、そうかな? でも意外と不便なこともあるよ。例えば魔法を使う時、カードを用いない魔法なら術者はある程度の事象の変形ができるけど、スペルはいつも決まった事象が起こるとか、スペルやクリーチャーを召喚するのには一日に何回かっていう回数制限があったり効果が持続する時間制限だったりそもそも条件が揃ってない時は召喚できなかったりするからね」
「しかし、状況に応じて様々な戦い方が出来ます」
「そうなんだよ。そこがやっぱり魅力なんだ」
ロゼは僕の魔法のメリットをすぐに言い当てた。自分でもそこが1番の長所だと思っているからその点を言ってもらえて嬉しかった。
「ところで、ロゼは武器を整えなくても大丈夫?」
「そうですね。この前の戦闘で殆どが消耗してしまいましたから……あ、でも構いません。私は後方支援担当なので、武器や防具にそこまでお金をかける必要はないので」
「……確かにそうかもしれないけど」
ロゼの言い分も分かるが、そのままの装備では心もとないし、せめて防具くらいは新調した方がいいと思う。それに、ロゼの顔を見ると、必要ないからという訳じゃなくて、申し訳ないからという気持ちからそう言っているように感じる……そうだ!
「やっぱりその装備だと心配だ。これから更にダンジョンの奥に進んでいくんだから防具だけでも整えよう」
「でも、お金が……」
「大丈夫。お金は僕がだすから」
「いえ、そういう訳には」
「……分かったよ。じゃあとりあえずこれは貸しにしとくから、これからのダンジョンでの稼ぎをそれに当てるってことにしよう。勿論利子なんて取らないから安心して。それに、防具を買うのはロゼの為だけじゃなくて、この前懇意にしてもらった店で何か買いたいと思ってたって言うのもあるから……それでどうかな?」
「分かりました。それでお願いします」
「お久しぶりです」
「おういらっしゃい。今日は何を買いに来たんだ?」
「この子が自分で身を守る為の防具が欲しいです」
「そうか。嬢ちゃんは魔法を使うタイプか?」
「はい。なので出来れば片手で持てる盾がいいです」
「分かった。幾つか良さそうなの持ってくるからちょっと待っててくれ」
「よっと。こんなもんかな。嬢ちゃんとりあえず持ってみてくれ」
「はい」
「どうだ?」
「かなり重たいですね。防御性能は文句なしですが、移動も考えると少々」
「ならこれはどうだ。表面にミスリルが張ってある盾だ。さっきのよりも物理的な耐久力は落ちるが、その分魔法に対しての耐久力はそこそこある。それに表面以外は木でできてるから軽いだろ?」
「確かに。これなら持ち運びに困ることもないし、魔法への耐久力が高いのはかなりダンジョンで役立ちます」
「決まりだな。値段は175万ソルスだ」
「……結構です」
「え? どうして。気に入ってたんじゃないの?」
「ですが、その……高すぎます」
「そうか? じゃあ違うやつに……「いえ、これください」
「シグルズさん!」
「大丈夫だって。それに、いつかちゃんと返してくれるんでしょ? 別にすぐに返せなんて言わないし、欲しいと思ったんなら買うべきだよ。特に命が掛かってるんだから」
そう言って僕は店主さんに代金を支払う。
「流石ですね。やっぱりここの武器や防具はいいものばかりだ」
「そう言ってくれると作りがいがあるな」
「そういえばお名前を聞いてませんでした。僕の名前はシグルズです。今後ともよろしくお願いします」
「おれの名前はバルトだ。こちらこそよろしく。それと、毎度あり」
「はいこれ」
「ありがとうございます」
「じゃあどうする? 今日から行けそうかな?」
「はい。勿論です。必ずお役に立ってみせます」
「ブラウニー3匹とゴブリン4匹か」
「まずは動きの早いゴブリンから行く。ロゼは襲われない位置にいて。それと敏捷性を上げて」
「分かりました」
「この程度ならクリーチャーを出すまでもない。アイシクル!」
ゴブリンの足元から氷の柱が出現し、そのまま貫通する。
「シグルズさん後ろから三体来てます」
「了解。サンドウォール」
今度は敵を拘束させる魔法。
突っ込んでくるブラウニーたちを砂の地面が捉える。
「ファイアランス!」
そのまま固まっている纏まりを炎の槍が穿ち決着。
「よし!」
「お疲れ様です」
「そっちもおつかれ。それにしても、ロゼの補助魔法は凄いな本当に体が軽いよ」
「今は敏捷性2倍を付与していますので」
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補足説明。ロゼは宿で服を着替えさせられていたため勘違いしてしまいましたが、それはシグルズがしたのではなく、宿の管理人さん(女性)がしてくれたものなので、実際シグルズはロゼの裸は見ていません……とは言ってもその後色々ハプニングがあってそこの所を弁解する機会を失ってしまいましたが。
後、多分あまり重要でもないと思うんですけど、ロゼは19歳です。
加えて、強化魔法とスペルの説明
強化魔法:付与魔法の一種で、身体能力の向上をする魔法である。効果と持続時間は反比例の関係になっており、重ねがけがないほど持続時間は長く、重ねがけが増えるほど持続時間は短くなります。更に重ねがけに必要な魔力量は重ねる度に増えていきます。
効果が切れてもまたすぐに掛け直すことも出が出来ますが、強化魔法が掛けられている状態は体への負担が大きく、掛けすぎるとその場から動けなくなるほどに。この効果は重ねがけの量が増えるほど大きくなります。
アイシクル:任意の場所に中規模な氷柱を発生させる。カードのランクはC
サンドウォール:半径2メートルに砂の渦を発生させる。そして対してを渦の中心へと引き寄せる。持続時間45秒カードのランクはC
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