救世主再び〔2〕
初めは少し不安だったが、特に危険な目にあうことも無く僕達は11階層に来ている。尚10階層にいるフロアボスに関しては既に討伐済みだ。
「ここからが本番。ロゼ、準備はいい?」
「勿論です」
まだ上層とはいえ、油断はできない。
「シグルズさん。前方からポイズンフロッグが3匹来てます。毒には注意してください」
「了解」
そろそろ僕のクリーチャーたちの出番だ。
「来い! リリス!」
リリスは人型のクリーチャー。夜、もしくは日が当たらない場所でしか召喚できないという制約があるが、ダンジョンではその欠点が殆どが解消される。
「リリス、風であいつらを吹きとばせ!」
リリスの風魔法によってフロッグたちはちかずくことも出来ずに倒された。
「ありがとうリリス。戻ってくれ」
リリスには時間制限がない代わりに、継続して魔力を与え続けなければならない。その為に適度にこうして戻す必要がある。
「シグルズさん。まだ魔力に余裕はありますか?」
「うん。一応魔力ポーションも数本持ってるし、もう少し進もう」
それからしばらく経ち、
「ふぅ。とりあえず今日はここまでにしよう」
「そうですね。それにしても……」
ロゼは袋パンパンに詰まった魔石と、各種モンスターの素材の量を見て驚嘆することになった。
(どうなってるの? 私が前のギルドで4人パーティーを組んでいた時よりも明らかに多い、そもそもなんでこれだけの魔法を行使してるのに魔力が尽きないのだろう)
ダンジョン内なので正確な時間は分からないが、それでも体感的に既に入ってから5時間以上はたっているはず。それなのに魔力ポーションを飲む気配が一切感じられなかった。
「流石……ですね」
「ありがとう。それじゃあ戻ろっか」
「はぃ? これ本当に今日だけの量?」
「勿論です。出し惜しむ意味なんてないので」
「はぁ〜やっぱり。初めてダンジョンに潜った時から感じてたけど……」
「何がですか?」
「新人の冒険者としては規格外すぎるってこと。流石に今は他の有名なシルバーランクやゴールドランクの冒険者とは比べられないけど……それにしたってこの先どうなっていくかわかんないし」
「あ、でも今日はほら、1人パーティーメンバーも増えてますし、1人増えたから単純に戦力が2倍? みたいな感じですよ」
そう言ってセリカさんにロゼを紹介する。
「どうも」
「あら、あなたクリムゾンジャッカルの!」
「……その、ギルドからは既に……追い出されているので」
「……ごめんなさいね。変な事聞いちゃって」
「いえ、とんでもないです」
「それにしても、」
そう言ってセリカさんは眉を細め、
「やっぱり最近のクリムゾンジャッカルはちょっと度が過ぎているというか……」
「他にも何かあったんですか?」
あまりギルドの問題について管理センター職員に聞くのは良くないと分かっていたが、つい聞いてしまった。
「ええ。あまり大きな声では言えないんだけど、ロゼさんみたいに無理やりギルドを辞めさせられたって話は結構聞くわ。それに、ギルドの幹部たちが何やら悪巧みをしてるって噂も」
「悪巧み? ですか」
「内容は色々聞くわ。あくまで噂だけど、殺人に関与してるだとか、ダンジョンに入る新人から金を巻き上げてるとか」
「うわ」
「だから気をつけてね。特にロゼさんは希少な強化魔法を持ってるんだし」
「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫です。そもそも追い出したのはあっちなんですから。わざわざ無価値だって判断した相手に今更何もすることなんてないですよ」
「……では、僕達そろそろ帰ります。ありがとうございました」
ロゼ魔石と素材の換金を終え現金の入った袋を持ってダンジョンを後にした。
「さっきの話だけど、あまり気にしない方がいいと思うよ。ほら過去は過去、今は今って言うし」
「そうですね」
「そういえば、報酬を分けるのを忘れてたね。今日の報酬は60万ソルスだから……」
「60万!」
「うん! かなり魔石を取れたからね。これは幸先がいいよ。ということで、はい」
報酬の半分を渡した。
「……」
「どうしたの?」
「あ、いえ。なんと言うか、今更なのですが……本当にこんなに頂いてもいいのかなと思いまして」
「元々半分って約束だったでしょ。それに防具の費用については別に急いでないから。余裕もって払えるようになってからでいいよ」
「分かりました」
「それと、宿についてなんだけど、僕が住んでるところはもう空きがないみたいでさ…… ロゼはどうするのかなと思って……他のところを探すんなら手伝うよ」
「宿探しまで手伝って貰う訳にはいきません。一人で大丈夫です。ですが……」
「分かってるよ。見つかるまではあの宿で泊まりたいんでしょ? 管理人さんには2人分払ってるから問題ないよ」
「ありがとうございます」
そう言ってロゼは深く頭を下げた。
「あー、だから大丈夫、そんなに気にしなくてもいいから。なんて言うか、そういった気持ちを持つのは大事だと思うけど、僕達は仲間になったわけだし、もっとそういうのは適当でいいよ。なんか距離を感じるって言うのかな……僕はロゼともっと仲良くなりたいから」
「……分かりました。善処します」
「よし! じゃあ帰ろう」
「僕が床でねるから、ロゼがベットを使って」
「いえ、そういう訳には。シグルズさんがベットを使って下さい」
(結局こうなったか……まぁ予想はしていたけど)
お互いが譲り合ってしまい話がなかなか進まない。
(仕方ない。あまりこの手は使いたくないけど)
俺は1枚のカードを取り出す。
「スリープ!」
すると彼女の体がガクッと崩れ、そのまま意識を失ってしまう。
「ごめん。でもこうでもしないと解決しないだろうし」
眠っているロゼにシグルズはそうつぶやく。
(明日からはどうしようかな。……そうだ! どこかの店で布団を買えばいいんだ。そうすれば床で寝ることになっても大丈夫だし)
明日のダンジョンの帰りにでも買っておこう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スリープ:弱い睡眠効果を与える。カードのランクはD
リリス:人型の女性クリーチャー。制約として夜、もしくは日光の当たらない場所でしか召喚できない。風の魔法を得意としている。また、近接戦闘においても鋭い爪で攻撃したり、相手の血を吸ったりして攻撃ができる。
カードのランクはB
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます