都市の観光にて
「…やぁシグルズ君。久しぶり」
「あ、レオンさんどうも。ご無沙汰してます」
「調子はどうだい? 」
「絶好調です。毎日ダンジョンに行っているので疲れがない訳では無いですけど、怪我とかは無いので」
「そうか、良かったよ。この前の事もあって……心配だったんだ。それと、この前ダンジョンについて改めて調査があって、僕達もそれに同行したのだが…………」
「なにか分かったんですか?」
「それが……全く何も掴めなかった。これっぽっちも。というより、やっぱりモンスターは出現した階層から出ることは無いはずなんだ」
「と言うと、」
「モンスターに攻撃を与えて、ダンジョンの階段まで誘導したのだが、彼らはみなそこから上には上がろうとしなかったよ。やはり君が出会ったモンスターはなにかイレギュラーで発生したものなのかもしれない。もしくは………いや、なんでもない」
「そうでしたか」
「今後またこのようなことがあるかもしれないから、君も注意してくれ」
「はい!」
「それと、もう1つ。シグルズ君、僕たちの所属するギルドに興味はないか?」
「え?」
「いや、余計な事だったのなら忘れてもらっていいのだが、君ほどの実力者にはそうそう出会えない。特に君が使っているのは冒険者では珍しいカードマジックだろ?」
「はい。確かに珍しいのかもしれません。一般的にほとんどの冒険者は自身で魔法や剣術を習得して闘いますが、僕の場合は魔法を習得するのではなく、そのカードの条件を呑むことによって発動します」
「基本的にカードにはスペル、クリーチャーの2種類があって、スペルについてはその日に使える回数が決まっていて、かつ再度打つためにリロードする時間を必要とするものもあるので連続して使えないというのが欠点ですね」
「へぇ〜。じゃあクリーチャーについてはどうなの?」
「クリーチャーは、基本的には召喚しておける制限時間があります。それと、召喚するための条件があります。でも、ただそれらを満たすだけでは使えなくて、条件以外にカードの使用主として認められなければ召喚することができません」
「カードマジックにはそんな条件があるんだね。じゃあ君は、そのリヴァイアサンに主として認められているわけだ」
「レオンさんはこのカード《リヴァイアサン》のことを知っているんですか?
いつ知りましたか? 誰かから教わったのでしょうか?」
普段の様子とは打って変わって、シグルズは身をグッとレオンによそて前のめりになるようにそう尋ねた。
「誰かに教えてもらった訳では無いんだけど………………」
「…そうでしたか」
「どうしたんだい? そんな浮かない顔をして」
「実は、この都市に来た理由は強い冒険者になりたいということもあるのですが、ある人物を探していて、その人も僕と同じでカードマジシャンで、僕の師匠でもあって………このカードも……」
「そうだったのか。だとしたら君の師匠は相当な実力なんだろうね。リヴァイアサンを召喚することが出来る君もそうだけど、そんなカードをすんなり渡してしまえる君の師匠は、さらなる実力を持っているということかな」
「はい。僕なんかまだまだで、師匠には1度も勝てたことがないし、魔力量も圧倒的で。リヴァイアサンは、その力の大きさゆえに、まず魔力の消費が大きいく、正直ポーションなしの時に召喚するのは相当のリスクがあります。まぁこの前は咄嗟で使っちゃって、おかげて魔力切れで気絶してしまいましたけど………でも、師匠なら軽く、それにリヴァイアサンも本来の……」
「まぁまぁ、そう自分を低く見るなよ。(もしかすると、シグルズ君が話しているのって…………でもそうだとしたら、しばらく帰ってこないだろうし………まぁ彼女が帰ってきたらシグルズ君に伝えてみればいいか。この都市でダンジョン探索を続けていればそのうち会えるだろうし、その方がいい気がする)
「どうされました? 心ここに在らずって感じですけど?」
「あぁ、ごめんごめん。少し考え事をしていただけだ。…っと、話が大分脱線してしまっていたね。で、ギルドの方、どうだろう? 幸い君には所属しているギルドはないみたいだし、僕の一存で勝手に入ることは出来ないんだけど、もし困ってるんだったら、僕もマスターにちょっとだけ口添えすることくらいはできるよ。でも君の実力なら、きっとすぐに入ることができるよ」
「あ、そうでしたね。……はい、考えておきます」
「ぜひそうしてくれ」
レオンさんはあまり返事を聞かせてといった素振りもなく、そういうとさっとその場からサッと去っていった。
正直自分でも何故返事を先送りにしたか分からない。今まで何度も入ろうとしていたギルドなのに。ただ、何となく、今じゃないと思ったのだ。稼ぎとしては毎日9階層まで降りてモンスターを倒しているし、この前のリザードマンとヘルハウンドの魔石が思いのほか高く換金できたので、贅沢しなければしばらくはお金に困ることも無くなった。
「折角だし、今日はカリオスの店でも見て回ろうかな」
「いらっしゃい。早速だが坊主。お前さんは冒険者だろう。どうだいこのナイフ。刀身は短剣と片手直剣の間くらい、切れ味は抜群。なんたってアダマンタイト製だからな。いい獲物だろう。1本25万ソルスだ」
「えっと、僕は剣を持たないタイプの冒険者でして…………」
「なんだ、お前さん若いなりに魔法が使えんのかい。だったらこの杖なんかどうよ」
「あぁ、一応魔法を使うんですけど、僕のはそういうのじゃなくて」
「ん? わかんねぇなぁ。じゃあどんなもんが欲しいんだ」
「えっと……なるべく重量は抑えられていてかつ耐久性もそこそこの防具とかってありますか?」
「なるほどなぁ……ちょっと待ってろよ…えっと、確かこの辺りに……お、あったあった。こいつはどうだ」
「これはなんですか?」
「こいつは風のマントさ」
「風のマント?」
「そう、耐久性に優れたワイルドジャイアントの皮のマントに風の魔力をエンチャントすることによって重量を軽くしてる。しかもこんなふうに」
「風?」
「仰ぐようにして使えば風の魔法が出る。今は軽く振ったが、本気を出しゃ大男だって吹っ飛ばせる。……ただし消耗品だけどな」
「えっと……じゃあ、その風の魔法を使わずに重量だけ抑えている状態だったらどれだけ持ちますか?」
「それだけだったらまぁ……5ヶ月は持つだろうな」
「5ヶ月……ですか」
難しいところだ。装備をコロコロ変える冒険者もいればメンテナンスして長く使えうものもいる。僕はどちらかと言うと後者だが、これは消耗品。しかし性能は折り紙付きだ。
「ちなみになんですけど、このお店ではエンチャントを付け直せないんですか?」
「あぁ…………そうだな。俺の店では無理だが、そういうことをしてくれる店もあるからな。ただやってんのは俺らとは違ってプライドの高いエルフさんたちだからな。噂によればそういうのは人を見て選んでるって言われてるし」
(エルフか……)
エルフとは、男女ともに容姿は整っていてスラッとしている。耳が少しとんがっているのも特徴だ。彼らはプライドが高く、なかなか接しずらい種族ではあるらしい。でもまぁ……そうじゃない人もいる。エルフは総じて魔法の才がずばぬけていて、中でも属性の付与は、彼らの専売特許なのだ。
「ありがとうございます。じゃあこれ買いますね。幾らですか?」
「おっ毎度あり。100万ソルスだ」
「ひゃ、100万ソルス、ですか」
「おうよ。魔法がエンチャントされてる防具なんだからそのぐらいはするぜ」
僕の現在の所持金120万ソルス。払えなくはない。だが、この後他にもポーションとかを買うことを考えると……正直厳しい。
「ちょっとでいいんですけど、まけてくれませんか?」
「……そういう訳には行かねぇーな」
「そうですか……」
(こういう値切る行為って僕苦手なんだよなぁ)
「と言ってやってもいいが」
「どっちなんですかぁ!」
「わりぃわりぃ。お前さんの顔があんまりにもコロコロ変わるもんだから面白くて」
「からかわないでください!」
「悪かったって。……いいぜ。今後ともこの店を贔屓にしてくれるってんなら、90万ソルスにまでまけてやる」
「ほ、本当ですか!」
10万ソルスもまけてくれるなんて!
「はい! 絶対、今後ともよろしくお願いします」
「おう。頼むぜ」
いやぁなんていい店長さんなんだ。僕はツイてる。それになかなかいい買い物が出来た。後は魔力ポーションと回復ポーションかな。流石に上級ポーションはもう買えないけど、中級ぐらいのを2、3本ずつ買えればいいか。
僕の魔法は、とにかく魔力を沢山消費する。いざとなる前に魔力が補給できるようにしておくことも今後の戦いにおいては大事になってくるはず。
しばらく歩いて、今度はアーティファクトを中心に売っている骨董屋に立ち寄った。といってもお金が無いので見ただけだけど。
カードマジシャンが用いる、カードを補充するすべは、現在ダンジョンでの発掘、アーティファクトを売っている店、人からの譲渡くらいしか存在しない。
売っていると言っても、カードマジシャンなんて大陸にそうほいほいといる訳では無い。需要は限りなく少なく、でも、一応アーティファクトだからという理由で値段は高く設定されている。安く買えるのならば苦労はないんだけど………僕の持っているカードの中にも、そういったカードは多く存在する。
世界には約500種類ぐらいのカードがあると言われていて、同じカードは何枚も存在している。ただ、カードにめぐり合えるかどうかは、カードマジシャンの運、実力次第。だからこそ困難な道でもあるし、この上なく魅力的で、最高にカッコイイ魔法ではあるのだけど。
(この店には特に何も無いか)
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