カリオスのダンジョン〔2〕
夢を見ていた。そこでは黒いマントを見に纏っている青年が、赤くて巨大な龍と対峙していた。
「お前、なかなかやるな! 気に入ったぜ。お前は絶対俺のモノにする」
「汝こそ我をここまで追い込むとは……名はなんと申す」
「俺か? 俺の名前は……………………」
「おっ気がついたね」
「良かった」
「ごめんね私たちのせいで」
気がつくと、僕は3人の冒険者に囲まれていた。
「えっと……あなたたちは?」
「私たちも冒険者。ダンジョンで気絶した君を私たちで守ってたの」
「…………そうか。あの戦闘の後意識を失っていたのか…………」
「その事なんだけど………………ごめん!」
杖を持っている女性が申し訳ないといった表情で謝った。
「え 、なんで謝るんですか? 謝るんだったら僕の方じゃ」
「違うの。私たちがあのモンスターたちを取り逃して上層に上げちゃったから君はこんな目にあったんだよ」
「……どういうことですか? 確かモンスターは自分のいる階層から離れることはないはずですよね?」
「うん。普通はそう。だけどあのモンスター達。特にあのヘルハウンド、あいつらはいつものヘルハウンドじゃなかった。なんていえばいいのかわかんないんだけど…………」
「そうだったんですね。でも……やっぱり謝る、というかお礼を言うのはやっぱり僕の方ですよ」
「どうして?」
「だってそんなイレギュラーを予想できるはずありませんから。寧ろそのイレギュラーから僕のフォローに回ってくださったことには感謝しかありません」
今言った言葉に嘘偽りはない。僕は本当に彼らに対して心からそう思っていた。
「…………君は優しい子だね」
「うん。超いい子!」
「あぁ、普通は僕たちの責任だと思うだろうに」
「いえいえそんな。冒険者はいつ死んでもおかしくない危険な仕事だって言うのは、身をもって知っていますから。それでもあなた方はここまで助けに来てくれた。もしも僕がそちらの立場にあったとしたら、自分のことだけでいっぱいいっぱいで、そんなことは出来なかったかもしれない」
「そう言って貰えると僕らとしても助かるよ。………いやぁほんとに凄い子だね君は。それに加えて強い。僕たちが助けに駆けつけた時にはほぼ決着が着いていたようなものだったからね。初めは上層で、それもソロみたいだったから、大方パーティーが組めなかった新人冒険者なのかと思っていたけど……ひょっとしてランクはもうゴールドだったりするのかな?」
「……いえいえとんでもない。僕はまだブロンズランクですよ」
(グッ……最初の予想がズバリ当たってる)
心に再び棘が刺さったような気分だ。
「嘘!」
「うん。それはあり得ない」
「えっと……」
困った表情をしているシグルズ。そこへ男性冒険者が間に入る。
「彼女たちがそう感じたのも無理はない。エリサはゴールドランクで、僕とナーザはシルバーランク。だけど………多分僕の実力は君より低いね。だから君は少なくともシルバーランク程度の実力があるよ。だからこそ他のみんなもちょっと信じられないなと思っているんだ」
「そんな、恐縮です。でも、ありがとうございます。嬉しいです」
ちょっと照れくさいな
それに、シルバーランクの冒険者に、お世辞にも自分の方が強いなんて。
この都市に来て上手くいかないことばかりだったけど、なんだか上手くいく気がしてきた。
その後しばらくの間、彼らと冒険者についての話で盛り上がっていた。
「まぁ、何かあったら私たちにいつでも相談してくれて構わないよ」
「頑張ってね! 」
「それじゃ」
「あ、ありがとうございました。ナーザさん、エリサさん、それにレオンさん!」
そうして彼らは再びダンジョン中層に向かって行った。
本当にいい人達だった。
「僕は……………今日はもういいか。魔石を回収して直ぐに帰ろう」
ダンジョンで寝てしまっていたとはいえやっぱりまだまだ疲れは溜まっている……………ん? 溜まってないぞ。 むしろ軽い!
これはどういうことだろうか。
だが、精神的に疲れていることには変わりない。
(今日はぐっすり………………「あぁ! 忘れてた」
そうだった。僕には今寝床と呼べる場所がないんだった。
「レオンさん達に相談すればよかったかなぁ。でもさっきまで僕の事を守ってくれていたわけだし、あんまり迷惑をかける訳にも………………うーん」
僕は考えるのをやめた。そして素材の回収を終えてすぐにダンジョンを後にした。
「シグルズさんは本当にブロンズランクなんですか?!」
「え、はい。一応」
「それなのにこれだけの魔石と素材。
しかもリザードマンとヘルハウンドの魔石まで………ダンジョン中層にまで潜ったのですか………まぁ実力があれば止めはしませんが」
「いえいえ、僕はまだまだだし、ソロで10階層以降に潜ろうとは思いませんよ。そのモンスター達は9階層に現れたんです」
「それは本当ですか!」
「はい。 僕を助けてくれたパーティーは取り逃してしまったからだと言っていましたが、きっとそれが理由では無いと思います。モンスター自体に何かイレギュラーがあったみたいですし」
「 ………だとした緊急事態です。(最近の冒険者の死亡率が上がっているのはもしかして…………早急に調査しなければ)報告ありがとうございます。近々その状況について再び聞くことになるかもしれません…………それにしても…………」
セリカさんはジーっと僕の目を見てきた。
「な、なんですか」
「いえ、なんでもないです。まぁそもそも、初めてこのダンジョンに来た方がソロで9階層まで進むこと自体異常なんですけどね。 元王国騎士の方とか既にベテラン冒険者であるとかであれば話は別ですが」
「異常って…………あはは」
「あははって、笑い事じゃありませんよ! まったく………とは言え、無事地上に帰還されて何よりです。冒険者は仕事上ダンジョン内で死んでしまうというケースが後をたちませんので、
シグルズ君も気をつけてくださいね」
「はい。ありがとうございますセリカさん」
「では 「あぁ、ちょっと待ってください!」
危ない危ない。
「はい。まだなにか?」
「あの、こんな事をダンジョン管理センターの職員さんに聞くのはおかしいかもしれないんですけど……………………この都市で空いている宿ってありますか?」
ふぅ久しぶりの風呂だ。
それにここには作りは簡素だけどちゃんとしたベッドもある。
いや〜人間なんでもまずは聞いてみるものなんだと実感した。あれだけ自分の力だけで探して一向に見つからなかった宿が、なんと見つかったのである。ダンジョンからは少し遠いが、それでも寝泊まりができるってだけでもう満足だ。料金も今の自分がダンジョンに潜ればすぐ稼げるぐらいだし。セリカさんには感謝してもしきれない。機会があったらなにかお礼をしよう。
「あぁ〜それにしても今日は疲れたなぁ」
カリオスに来て初めてのダンジョン探索。それにイレギュラーなモンスターの出現。
しかし、やはりこれが他のダンジョンとの違いでもあるのだろう。そもそもここに来る前に、カリオスのダンジョンは他より難易度が高いって言われてたし。ハイリスクハイリターン。これが冒険者という仕事。命というリスクをかけているからこそ、得られる報酬はいいし、いつまでたっても需要は尽きないわけで…………
いろいろあったけど、ちゃんと生きてるし、報酬も、それに宿も見つかって。まぁ悪くない滑り出しになったのではないだろうか。
ただ、反省すべき点は多い。ナイトとリヴァイアサンが勝てたのは偶々でもなんでもなく、クリーチャー本来の実力。しかし、そもそもあのリザードマンもヘルハウンドもレオンさん達が弱らせていたわけだし、あれが全快の状態だったら、こうも上手くはいっていなかったかもしれない。というのも、仮にモンスターが本来の実力を出して戦っていたとしても、クリーチャーが勝っていたことは揺るぎないと思う。……………但し僕がその間ずっと意識を保っていることが出来たとしたら……だ。
今回は、あれだけスピーディーに倒すことが出来たからこそ勝つことが出来た。
もし、戦闘中に魔力切れで気絶すれば、僕はクリーチャー達に指示が出来なくなる。それに、魔力に関係なく、時間が経てばクリーチャーはカードに戻ってしまう。もしそうなってしまっていたら……僕は死んでいた。カードマジシャンとして、いや、冒険者として、僕はまだまだ、あまりにも……未熟だ。こんなままでいて、僕は本当にあんなカッコイイ冒険者になれるのだろうか。ここに来てぼくは不安なことばかりだ。
でも、僕の冒険はまだまだ始まったばかり。
必ずなってみせる。
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わかりにくかった人の為に
モンスターとクリーチャーの戦いにおいて、モンスターが弱っていなかったとしても、結果はクリーチャーが勝っていたが、モンスターが弱っていなかった場合、倒す為には少なくとも弱っていた時よりも長い時間を要する。
つまり、戦闘でモンスターがまだ生きているにも関わらず気絶した可能性があった。
主が気絶した場合クリーチャーは制御不能となる。クリーチャーは、召喚するための魔力と、命令する為に必要な魔力がある。この命令するために必要な魔力とは、消費というよりは維持するための魔力。
主とクリーチャーには魔力によるパスが繋がっており、命令する際にはそのパスを経由する必要がある。
故にクリーチャーの制御不能、またはカードに戻ってしまった場合、
モンスターはその隙にシグルズを殺すことが可能であるという事。
ちなみに、主が死んだ場合は、時間の経過にかかわらずクリーチャーはカードに戻ります。
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