カリオスのダンジョン〔1〕
カリオスに来て2日目。適当に野宿しながら入れるギルドを探したけど、結局ダメだった。話すらまともに聞いて貰えない。もう少し頑張っても良けど、先にダンジョンで実績を付けた方が早いだろう。危険はあるけど、今日からソロでダンジョンに行こう。
「よし、とりあえず初めだし、無理しない程度で頑張るってみるか」
それに……財布の中も怪しくなってきた。早くモンスターの素材を売ったり魔石の交換をしないと、モンスターに殺される以前の問題だ。
装備はここに来る前に少し整えてきた。といっても、自身の肉体を駆使して戦うことはほとんどないから、そういった戦闘はあまり想定されていない、どちらかと言うと身軽さ重視の装甲を選んでいる。戦闘は基本カードを用いたスペルやクリーチャーを召喚して戦うため、武器は基本持たないのだが、いざと言う時のためとモンスターの素材の剥ぎ取りのために、短剣を数本身につけている。
元々ここに来る前は、野生のモンスターを狩っていたので、そこら辺の技術については問題ない。
「よし! 気合い入れていくぞ!」
おっ早速でたか
目の前にはコボルトが2匹とスライム3匹が固まって現れた
「マジックボルト!」
はじめに、コボルトを倒すために即効性のあるスペルを使う。
コボルト達は僕に攻撃しようとするも、スペルの影響で動くことが出来ずそのまま倒れ込む。マジックボルトには軽いバインドの効果はあるが、ダメージはほとんど与えられないので、
「ファイアランス!」
続けざまに用意していた次の攻撃スペルを繰り出す。炎の槍が二体のコボルトたちの体を貫通する。
次はスライム。動きはかなり遅いしが、その体の形状から、物理攻撃が効きづらく、たまに繰り出される酸は装備を溶かす。また、時々スライム同士で合体、巨大化して襲ってくる。
だが、別に大したことは無い。
「ファイアランス」
ゆっくりと近づくスライムたちよりも早く攻撃する。
スライムは魔法で核さえ壊せれば倒すことは簡単だ。
ダンジョンを順調に進んでいくと、今度はゴブリンが現れる。
ゴブリンには様々な種類がいて、侮れない奴もいる。
まぁ目の前のは体がただの緑色であるから、ただのゴブリン。上層の中では珍しく仲間同士で連携のとれるモンスターだが、
「来い! ウルフ!」
ウォォォォン
俺の召喚したウルフはゴブリンたちの攻撃の合間を避けながら次々と噛み付いていく。
ゴブリンたちは、その対処に追われて、召喚主である僕に攻撃する間もなく
ゲギャ!
グェ
全て倒された。
この程度のモンスター達の素材にはほぼ価値がない。荷物が増えるのも面倒だし、魔石だけ回収して次に進もう。
しばらくして、
「ふぅ、こんなものか? 意外とすんなり倒せるし、上層のモンスターは大丈夫そう」
あれからも順調に進むことができた。というのも、上層だからか、思っていたよりもモンスターが強くなくて、俺の持っているCランク程度のスペルカードやクリーチャーを使って簡単に倒せるモンスターばかり。一応傍には安全のためにずっと探知系のウルフを召喚してはいる。
当初の目標を超えて、気づけば今いる場所は地下9階層。それほどレアなモンスターはいないけど、魔石とそこそこ売れる素材はいい感じに集められた。
「まだ全然余裕は残ってるけど、カリオスのダンジョンに来て始めてだし、流石にパーティー推奨の10階層に行くのはやめておいた方がいいかな?………でももうちょっとだけなら大丈夫かな?」
どうしようか、しばらく悩んだ結果、今日のところは大人しく今日の分の稼ぎを持ってダンジョンから出ることにした。しかし、
ワン ワンワンワン!
帰ろうとしていると、ウルフが大きな声で後方に吠え始めた。
それと同時にとてつもない殺気が僕に向かってきた。
(なんだか分からないけど……ヤバい! )
僕は何かあった時にすぐ召喚できるようにクリーチャーカードを右手に持ちながら、殺気が来る方向に身構える。
この時シグルズは、背中を向けて全力で逃げるという行動を本能的に取らなかった。
(リザードマンと、ヘルハウンドの群れ!)
リザードマンは、1体でシルバーランクの冒険者くらいの実力を誇る。
ヘルハウンドも勿論強い。瞬発力があって、特に群れ同士の連携が恐ろしく、1個体の強さはリザードマン以下だが決して油断できない。
「なんで中層レベルのモンスター達が上層なんかにいるんだ?」
リザードマンもヘルハウンドも、間違っても9階層なんかに出てくるのことはありえない。
(逃げなきゃ!)
シグルズは攻撃を警戒しつつそのモンスター達の群れから逃げようとする。
だが、
「クッ、速い」
僕が逃げている中で既に5体のヘルハウンドが背後を囲んでしまっていた。また前方にはリザードマン3体。ただ冒険者を襲うだけでなく、冒険者を囲むような知能も、中層以降のモンスターには備わっている。きっと俺が全速力で逃げていたとしても追いつかれてしまうし、すかさず攻撃を仕掛けてくるだろう。退路は完全に塞がれてしまった。
(どうすればいい、隙を見て逃げればいいのか、それともここで戦わなくてはならないのか。戦ったとして、僕はこのモンスター達を倒すことが出来るのだろうか)
こんな絶望的状況の中でも、彼は思考を止めることは無かった。
モンスター達は囲んだ円形を崩すことなく、じわじわとシグルズの方へとにじり寄ってくる。
そして、
「ウルフ!」
真っ先に狙われたのは探知系のウルフ
ゴブリン程度ならば造作もないが、連携のとれたヘルハウンド相手に、あっという間にやられてしまった。
周りにはもうクリーチャーがいない。つまり次に狙われるのは確実にシグルズである。
「もう迷っている場合じゃない。来い! ナイト! それからリヴァイアサン!」
咄嗟に俺は2体のクリーチャーを召喚して戦う体勢をとる。
ナイトは攻撃力も守備力も問題ない万能カードだし、リヴァイアサンは水の攻撃を得意としていて、炎属性のヘルハウンドには相性が良い。
それぞれ僕の前後に配置し、モンスターを牽制させる。
「クッ……」
2体の同時召喚、魔力を使いすぎた。今の僕の魔力量からは明らかにキャパオーバーだ。目の前が少しぼやけてきて、足もふらつき始める。
特にリヴァイアサンはその強さも相まって召喚に相応の魔力を要する。今の俺が簡単に扱えるようなクリーチャーでは無い。
でも、こうでもしないと勝てないと思った。
それほどまでに追俺はい込まれていた。
――だが、まだ倒れるわけにはいかない。だって僕はまだこの都市に来てからなにも成せていないのだから。
万が一のため、腰に着けていた短刀も構える。
「ハァッハァッ、かかってこい!」
「全速力で走るぞ! 今もし上層で狩りをしているパーティーがいたら全滅する!」
「わかってる………けどどうして中層のモンスターが上層に?」
「ナーザ、今はそんなこと考えてる場合じゃないでしょ。起ってしまったことはしょうがないわ。そこから私たちがどうするか」
「うん。そうだね。ごめんエリサ」
「よし、ようやく上層だ。どうやら10階層には誰もいないみたいだね」
グァァゥ
バァルル
「レオン、聞こえる? 多分一個上」
「まさか……あいつら9階層にまで」
「急ごう」
「着いた」
「あそこ。戦ってる。加勢に……
「待った」
「どうして?」
「見ればわかるさ……ちょっと信じられないけどな」
「……え? 嘘、パーティーもなしに……どうやって?」
「あれって確かクリーチャーって奴よね? ってことはもしかして………」
その時彼らが見たのは幻か現実か
1人の少年と彼のクリーチャー達がシルバーランクの冒険者パーティーでさえ危険とされる魔物の群れと対等以上に渡り合っていた。
「リザードマンの体制が崩れた!ナイト! 畳みかけろ!」
ナイトは素早くリザードマンに駆け寄り、そして重い一撃をリザードマンの頭目掛けて繰り出す。リザードマンはそれを防御しようと両手を構えようとするが、それは間に合わなかった。
「よし! よくやったナイト。次だ」
グァァゥルル
2匹目のリザードマンも倒した。
一方リヴァイアサンは、一体で全てのヘルハウンドを相手取っており、それもかなり優位な展開だった。
「リヴァイアサン! もうひと押しだ。あの群れの中心に1発でかいのを食らわせろ!」
リヴァイアサンのけたたましい叫び声と同時に、大きな水の塊がヘルハウンド達を飲み込む。連携していたヘルハウンドの群れのバランスが、完全に崩れた。しかし2体はその渦から逃れた。そして、クリーチャーを倒すのは不可能と悟ったのか、この中で1番弱い僕を狙ってきた。
(今の僕にこいつを倒せる魔力は残ってない……けど! )
「頼む………リヴァイアサン!」
俺に向かって正面から向かってくるモンスター2体を横から伸びるリヴァイアサンの尾がまとめてなぎ払った。その勢いのままダンジョンの壁に衝突。
勝負は決した。
「流石リヴァイアサン。本当に助かった。ありがっ…………」
と同時に、シグルズの意識も失った。
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多分スペルやらクリーチャーやらの説明を全然していないと思うので補足します。多分後々物語で深堀するとは思いますが。
・スペル:カードマジックのうちの1種。カード内に内包された魔法を術者が行使することができる。カードのランクはDからSまで確認されている。例外を除いて、スペルを打った後はリロード時間のようなものがある。
マジックボルト―弱いバインド(相手を麻痺させる)効果を持つ。即効性が高く、魔力消費も少ない。カードのランクはC
ファイアランス―文字通り炎の槍を生成しそれを敵に当てる魔法。カードのランクはD
・クリーチャー:カードマジックのうちの1種。対象クリーチャーをその場に召喚することが出来る。ただ、クリーチャーカードには制約や条件が存在しているものもある。
ナイト―人型のクリーチャー。攻防ともに優れており、非常に万能。制約は1回の召喚で5分間しかその場にいられない。カードのランクはB
リヴァイアサン―龍型のクリーチャー。体は非常に大きく、口から巨大な水球を出したり、その巨体を用いて敵をなぎ倒したりすることが出来る。制約は水のないところだと1分間しか召喚できない、かつ一日に1度しか召喚出来ない。カードのランクはA
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