第4話 エイミの事件簿

エイミは翌日からリィカが作成してくれたレシピを元にパン作りの試行錯誤を続けた。


リィカのレシピは膨大なネットワークの情報から導き出されたものだが、少し専門的な内容も多く記載しており、彼女を戸惑わせた。


又、どうも彼女の大雑把な性格が災いし、材料の配分や時間を間違えてしまう。


最初の失敗時よりははるかにパンらしいものを作ることができるようになったが、ピンとこないようだ。


鍛冶屋の帰りにパン屋に寄り、研究してみたり、休みの日にはセバスちゃんの家に行き、一緒に作ってみたりもした。


同じものを作っているはずなのに、なぜか少し味が違うことにセンスの無さを感じたりもしていた。


だが、できないものがあると諦めることなく、一途に進み続ける性格は誰に似たのだろう?


連日のパンの食事に、父のザオルは飽き始めていた。


イチゴジャムだけでは飽きると、色々なジャムをエイミが作ってくれるのだが、さすがに毎食パンを中心としたメニューから逃れたくなり、仕事終わりにバーに寄り、酒臭く帰ることで、怒られることもしばしばあった。


しかしそんな父の行動理由をエイミは知る由もなく、パンを作り続ける。


「うーん、何がいけないんだろう?」


サンドイッチ作りの前にパン作りで既につまずいている。


ゲームで言うボスどころか中ボスくらいの場所。


中盤も中盤である。


そんな中、商人が街に戻ってきたとの情報を鍛冶場で手伝いをしている時にお客さんから聞いたこともあり、翌日の休みに尋ねてみた。


「こんばんはー」


「おー、エイミちゃん、久しぶり」


商人は長い旅からかえってきたように、髭が伸びきっていた。


「おじさん、今回は長かったね」


「おぅ、結構今回は大仕事だったんだ。いいお金にもなったし、それで結構上質なものも手に入れてきたんだ」


「えー、じゃあ胸肉もある?」


「もちろんあるとも。人気だからどんどん売れているけど、まだあるよ」


「じゃあこれと交換してくれない?」


エイミはアルドと手に入れた超電磁ベアリングを差し出した。


そうすると商人は少し頭をかきながら、困ったような顔をして、


「これかー。この前はとても欲しかったんだけど、今は間に合ってるんだよね」


「えー、そんなー」


「悪いねー。この前は苦労して取ってきてもらったのに。今では価値が暴落しているんだよ」


「そんなー」


「悪いね。その代わりお願いを解決してくれたら、タダで譲ってあげるんだが…」


「なに? お願いって」


「昨日のことなんだがよ。沢山の荷物を持ってこっちに戻ってきた矢先に近所の悪ガキに盗まれたものがあってよ」


「何? 盗まれたものって?」


「懐中時計なんだがよ。売り物じゃなくて古い友人から貰ったものでさ。俺も少しは昔悪いことをしたからガキたちの気持ちはわからんでもないんだが、ちょっと大事なものでさ。普通の商品なら運が悪かったって笑って終わらせられるんだが」


「そうなんだー。それは可哀想だね。うんわかった。私が取り返してくるよ。どんな子供たちだったか覚えてる?」


「赤髪の男の子と、青髪の男の子と黄色髪の女の子の三人組だ」


「うん、わかった。ちょっと探してみるよ」


「すまないが、頼むよ。」


こうしてエイミは三人の子供たちを探すことになった。


「うーん。とりあえずここの周辺をさがしてみようかな」とエイミは思い、歩きながら探していると、目の前からリィカが歩いてきた」


「おーい、リィカー」


「エイミサン、コンバンハ、オゲンキデスカ?」


「元気だよ。リィカは何してるの?」


「パトロールデス。イツゴウセイニンゲンガセメテクルカワカリマセンカラ」


「いつもありがとうね。あっ、そうだ聞きたいことがあったんだけど。」


「ナンデショウカ?」


「ちょっと子供たちを探しててね。赤髪の男の子と、青髪の男の子と黄色髪の女の子なんだけど、リィカ見なかった?」


「ブンセキシマス……アカガミとアオガミのコハアリマセンガ、キイロガミノコのデータガミツカリマシタ」


「えっ!どこで?」


「10フンホドマエにエイガカンノアタリでソウグウシマシタ。マダチカクニイルハズデス」


「わかった。ありがとう。向かってみるね」


「ドウイタシマシテ、キヲツケテクダサイ」


エイミは情報を得て、リィカと別れると、映画館の方へ走って行った。


「うーん、映画館の前には来てみたけれど…」


子供向けの映画が公開当日だったようで、たくさんの子供がいる。


エイミはアタリを見回すも、中々見つけられそうもなかった。


「この人数じゃちょっと見つけるのは難しいかな」と思いながらも根気よく探していると、映画館から出てくるこの中に気の弱そうな黄色髪の女の子を見つけた。


「あの子かもしれない!」と直感したエイミはその子に近づいていった。


「こんにちは」


エイミが声をかけるとその少女は不安そうな顔をしながら、


「こんにちは」と聞こえるか聞こえないくらいの大きさで反応した。


「ちょっとお話しがあるんだけどいいかな?」


少女はコクリとうなずく。


エイミは少女に商人の話をし、盗んだのかどうか尋ねてみた。


すると少女の目からポロポロと涙がこぼれる。


「私はやりたくなかったのに…」


言葉にほとんどならない声で言った。


周りからはエイミが泣かしたようにうつるかもしれない。


「泣かないで、大丈夫だよ。返しに行こう。そしたら大丈夫だから」


少女はその言葉を聞いて手で涙を拭うと、


「ホント?」と言葉を返す。


「うん。時計はどこにあるの?」


エイミが尋ねる。


「わからない」


少女は首を振る。


一緒にいた男の子が持って行ったのだという。


その場で解散したため、二人の内どちらが持っているのかはわからないのだという。


少し前に青髪の男の子は少し前にショップ近くで見たので、まだいるのかもしれないが、赤髪の男の子は今日は会っていないという。


エイミは少女に別れを告げると、その情報を元にショップに向かった。


「今日はこの辺り混んでるなー」


歩きながらエイミが独り言をつぶやく。


店の大セールということで、沢山の人がいる。


人波をかきわけ進んでいくと、子供たちのグループがいくつかあった。


少し離れた場所から観察すると、一人青髪の男の子がいた。


「あの子だ」


あまり強引に近づいても警戒されるので、タイミングを見計らって近づき、話しかけた。


「こんにちは」


エイミが話しかけると男の子は目線を向けたものの、一言も発しない。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


その問いにも男の子は反応を示さなかった。


しょうがないので、一方的にここに来た経緯と確認を男の子にすると、


「知らない」と一言だけ答える。


その場から離れようとした彼に対して、女の子が認めたことと、返す約束をしたことを伝えると、観念したのか、


「ごめんなさい」と一言つぶやいた。


エイミは彼に時計の所持を確認するも、持っておらず、赤髪の子が最終的に持っていったとの事だった。


そして先ほど男の子がショップに来る前に赤髪の子をシータ地区のゼノ・プリズマ辺りで見かけたとの事だったので、エイミは青髪の少年と別れると、エレベーターの方向に向かっていった。


シータ地区に移動し、ゼノ・プリズマ前にたどり着くと、赤髪の少年がいた。


「あの子だ」と確信をもったエイミは近づいていき、話かけた。


すると赤髪の子は彼女を怪しく感じたのか一目散に駆け出して行った。


「ねぇ、ちょっと待ってよ」


住民街の小道を器用に逃げていく。


エイミは細かい道で追いかけるのは不利と感じ、回り道をすることにした。


赤髪の男の子は彼女が後ろから追いかけてこないことを確認すると、足を取め、


「ふー、逃げ切った」とつぶやいた時、


「残念でしたー」そう言って脇からエイミが現れた。


「なんだよ!」


少年は驚きながらそう言った。


エイミは事情を説明すると、少年は罪を認め、明日三人で謝りに行くということになった。


翌日、三人だと行きづらいかもしれないということで、エイミも同行すると、三人の少年少女が商人に頭を下げた。


商人が理由を聞くと、三人の友達がお父さんの都合でこの地区から出ていくということで、何か物をあげようと思ったが、お金がなく、買えないということだった。


その時、色々な商品を持っている男を見つけ、悪いことだと分かってはいたものの、盗んでしまったということだった。



その話を聞いて商人は、袋の中をかき回すと、


「この時計はやれねぇが、これなら持ってっていいぞ」と彼らにブレスレットを手渡した。


もう盗みはやらないことを約束すると、三人はそのブレスレットを笑顔で見ながら帰っていった。


「よかったねー」


エイミが商人に言うと、少し恥ずかしい顔をしながら、


「まぁな」とぼそっと言う。


商人はエイミに今回の礼を告げると、胸肉といくつかおまけに他の商品もつけてくれた。


「ありがとなー」


商人の感謝の言葉を聞きながら、エイミは手を振り帰っていった。
















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