夢を見ていた日々

 僕は物語を作るのが好きだった。


 才能があるわけじゃなかった。


 高校生が絞り出せる単純なボキャブラリーで作る世界。


 たった三人の文芸部で、物語を作る日々だ。


 ライトノベルみたいに、可愛い女子も恋愛経験もあったわけじゃない。


 文化系の男3人が、各々作り上げる作品とそれを綴るに至る日々。


 代わり映えのない、単純な日々。


 それが、本当に楽しくてしょうがなかった。



 高校生活ってのはあまりにも短いくせに、それの価値には全く気付かない。


 僕達は卒業の日を迎えた。


 僕、███君、×××君。教室では目立たない3人が、最後の部室に集まる。


「結局、部員は俺たちだけか〜。もう一人くらいいても良かったのにな」


「まあ、それでよかったのかもね。こうやってぼく達3人上手くやれたことだし」


「よし皆!写真撮るよ!」


 狭い部室で、滅多にしない自撮りをする僕達。


 何せ、最後の高校生としての時間だ。


 全力で楽しまなきゃ。


 黒板に思い思いに書き連ねて。


 作品を振り返って。


 思い出を大量に積み上げた。



 一通り楽しんだ後、僕はこんなことを聞いてみる。


「皆はこれから、創作を続けるの?」


 楽しげな空気は、一瞬だけ止まる。


「創作、なあ。受験勉強で全然してなかったし。これからもするんだかしないんだか」


「……やめちゃうの?」


 ███君の表情が曇る。僕も思わず情けない声で聞き返す。


「一旦休止、かな。俺もやりたいこと色々あるし。また気が向いたらやるかもな」


「ははは、そっか……」


 僕は穏便に済まそうと、無難に相槌を打った。


 彼の書く小説は、とにかく自己流で豪快。故に引き込まれる作風だ。


 作品を書かなくなると思うと、どこか寂しさを感じる。


「ぼくはとりあえず続けるかな。やっぱり、書くのは楽しいしね」


 ×××君は天井を見上げて呟く。


 彼の小説は、███君とは対照的に繊細で、優しくも儚い雰囲気を醸し出している。


「で、お前は続けんのか?」


 僕の答えは決まっている。


「勿論。将来これで食っていきたいからね」


「お、やるなぁ」


「頑張って。応援してる」


 二人は激励の言葉をくれた。


 まだ二人にしか話してないが、僕は将来、小説家になりたいという夢がある。


 ビジョンがあるわけじゃない。


 けど、心に決めた夢。


 漠然としているけど、確かに願った夢。


 そして、僕を滅ぼした夢。

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