現代小説なんてゴミは燃やしてしまおう

MukuRo

さよなら、僕の夢よ

 なあ、君。


 流行りの小説は面白いと思うかい?


 僕は全く思わない。


 とりあえず長いタイトル付けてさ、それ面白いと思っているのかな?


 それで読者の興味を引きたいって思惑がバレバレだ。


 何の為に異世界行ったり、主人公を最強にしてるの?


 何の為に主人公が理不尽な目に遭って、薄っぺらい努力描写でねじ伏せているの?


 物語に自分を投影するのは構わないが、そんな展開で没入出来ると思ってるの?


 全くもって意味不明だ。


 そんな三文小説が評価される社会なんだから、滑稽だよね。


 今ここに、そんなくだらない妄想の物語で売上を伸ばしている小説を用意した。


 これを今から燃やそうと思う。


 塵ならどうせ捨てられるんだ。


 素敵な明かりを灯そうじゃないか。


 ほら、綺麗だろう?

















 こんな僕でも、かつては物書きだった。


 稚拙な表現と文で物語を作っていた。


 頭の中のパレットと絵筆で、好き放題に書き綴った。


 それこそ、自分でコントロール出来ないくらい自由自在に。


 たった数回の閲覧数と、一桁の「いいね」で喜びを得た。


 自分の作品を見て貰えて、評価をして貰えること。


 そんな些細なことが、僕にとっては嬉しかった。


 劣等感が無かったわけじゃない。


 自分の作る物語の弱さに悩むこともあった。


 それでも、楽しくてしょうがなかった。


 かつて見た曖昧な空想を、形に出来た時。


 その時の喜びは今でも脳裏に焼き付いている。



 そして、僕は密かな夢を持っていた。


 いずれは小説を書くことを仕事にするという夢。


 そして、読んでくれた人達の生活の一部となれるような作品を書きたい。


 そんな淡い夢を持ちながら、物語を積み上げた。


 今思えば駄作ばかりだ。


 目も当てられないような作品だ。


 それでも、いつか夢を叶える為の道筋の一つとなれるのだと信じていた。


 それなのに。


 ちっとも評価されない日々が続いていた。


 自分の作品をもっと見て欲しい。


 感想が欲しい。


 いいねが欲しい。


 もっと評価されたい。いや、評価されるべきなんだ。


 自分の作品は面白いに決まっている。


 もう既に、自身の愚かさに気づいていたのに。


 立ち止まれたはずなのに。


 僕の中の醜い自尊心と、どうしようもない劣等感が溢れていった。


 かつて創作を楽しんでいた僕は、もうどこにもいなかった。



 やり直したい。


 かつて夢中で作品を綴っていた自分に戻りたい。


 評価だとか売上だとか、そんなことよりも大事なものがある。


 自分が書きたいように物語を書く。


 好きなものを、好きなように綴る。


 それこそが、創る人間にとっての一番大切なことだ。


 そのことに初めから気づいていたはずなのに。


 僕の心は酷く歪んでしまった。


 誰のせいでもない、全て僕のせいだ。


 もう、戻れやしない。




 主人公なんてとりあえず強けりゃいい。


 ヒロインが美貌なんて当たり前だし、胸を大きくして適当に惚れさせればいい。


 世界観なんて他所からパクればいい。


 表現なんて適当でいい。


添削なんていらない。


 最悪読めればそれでいい。


 売れる作品なんて、大概テンプレートに則った作品だ。


 オリジナリティなんて二の次だ。


 結局金が全てなんだから。


 売れる作品こそ正義だ。



 戻りたい。


 戻りたいよ。


 制服姿で想像していた頃に。


 初々しい手つきでキーボードを打っていた頃に。


 もう何十年も歳を重ねてしまった。


 夢なんて見れる時間じゃない。


 将来なんて何も無かった。


 底辺作家のまま、どうしようもない大人になった。


 今更僕が何者になれるっていうんだ。


 もう救えない。


 僕のような人間は、物語を創る価値などないんだ。


 本が焼ける匂いがする。


 その匂いと共に、僕の肉体も風に溶けてはくれないだろうか。


 僕の存在なんてもう不要なのだから。


 僕が生み出した作品達は、誰の目にも付けられず忘れられていくのだから。


 もう残す言葉なんてない。



 さよなら、僕の夢よ。

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