ラウンドワンで大奔走 編

第5話「約束の掛け持ち」

「今日は待ちに待った修了式の日!」


「そうだな」


「清水さんと一緒に遊びに行く日!」


「そうだな」


「あぁ、あの清水さんと二人きりで遊びに行けるなんて、まるで夢のようだなぁ~♪(くるくるくる)」


「上半身裸で踊るなよ。広い部屋じゃないんだから……」


 高校一年生最後の日の放課後、部室に足を運んだ俺はおにぎりをむさぼ匠真たくまの横で筋トレしながら約束の時間を待ちわびていた。


「しっかしレオン、お前も脱いだらすごい体してるよなぁ~」


「何だよいきなり?まさかお前、そういう趣味があるのか?」


「んな訳ねぇだろ。いや、俺らみたいなクラスで目立たない日陰者ってブクブク太ってるかヒョロヒョロガリガリ瘦せてる奴らが多いじゃん?けどお前、全身バランス良く鍛えてるし体力作りでも意識してるのか?」


「匠真よ、お前は何も分かっちゃいないなぁ~。俺がそんなことを理由に筋トレする訳がないだろう?」


「男子高校生なら体力作りを理由に筋トレする奴もいると思うが……じゃあ一体何を理由に鍛えてるんだ?」


「そりゃあもちろん女の子とエッチする時おっぱい揉んだりお尻触ったり二の腕ぷにぷにしたりお腹撫でさせていただくんだから、多くの女の子が好きな細マッチョの体を作るのは当然の対価だろう?」


「そ、そういうものなのか……?」


「そういうものだ」


 匠真が『うわこいつ下心のために筋トレしてんの引くわー』って目で見てくるが気にしない。


 さて、そろそろ時間だし清水さんのところに向かう準備を始めるとしようか。


 いつものように必要な道具を取り出してメイクを始める。


「それにしてもレオン、清水さんに会うのにわざわざ変装するのも面倒だろ?普段の姿じゃダメなのか?」


「確かに面倒だけど、日陰者で根暗な雰囲気をした普段の姿よりも爽やかイケメンになって接した方がウケがいいからな」


「付き合えるかどうか別として、清水さんみたいに優しい人なら普段の俺達の姿でも受け入れてくれそうだけどな」


「受け入れてくれても友達としてだけ。恋愛で付き合うとなれば話はまた変わる。可愛い子と付き合いたきゃ顔は前提に相手にとって『魅力的だ』と思われなきゃいけない。そのためにはこっちも使える手を尽くさなきゃいけないし、中身で勝負したり、ありのままの自分を受け入れてもらうなんて美談は今時通用しないもんさ」


 そんな会話をしながらメイクを施し準備を進める。


――しばらくして


「よし、準備完了だ!」


「おっ、準備できたか。じゃあ俺も帰るとするか」


「おう、次会う時は四月だな」


 ピロパロポン♪


 荷物を持って部室を出ようとするとLINEの着信音が鳴り出す。この音は?


「? 誰かから連絡か?」


「みたいだな。確かこの着信音は、」


 ブレザーの内ポケットから3台のスマホを取り出す。


「スマホ3台持ち、金持ちだなぁ~」


「何を言うか。金がかかるし荷物も増えるし不便なもんさ。LINEのアカウントを一つのスマホに複数個登録出来たらいいんだけどなぁ」


 LINEは一つの端末につきアカウントを一つしか登録できない。ログアウトして別のアカウントで入り直すこともできるけど、手間がかかる上にログアウトするとトークの履歴も消える。だからこうしてスマホを3台持ち「普段使い用」と「沢井啓介用」という風にアカウントを複数個所持して使い分けているのだが、それ故にコストと不便さが出るのは仕方ない。背に腹は代えられない。


 3台の中から赤と黒の派手なカバーを着用した上井天馬用のスマホを確認する。


『ペガー、今ヒマー?今から遊びに行かない?』


 メッセージの送り主は若女さんから。どうやら遊びのお誘いのようだ。


 だが、今の俺には清水さんという先約がいる。ここは断るしか――待てよ?若女さん達はどこに遊びに行くんだ?ちょっと聞いてみるか。


『どこ行くの?』


 送信して数秒、返信はすぐに返ってきた。


『ラウワン』

『ゲーセン行ってからカラオケ行くって』

『いつメンで行くよ』


「遊びのお誘いか。だが残念だな。お前には清水さんという先約者がいるもんな」


 スマホを覗いてた匠真趣味の悪い男が口惜しがる言葉を浮かべるが、俺はこの行き先が同じ偶然にある考えを思い付く。


「いや、これはこれでありかもしれん」


「? 何がありなんだ?」


「俺が気になってる女の子二人が同じ時間に同じ場所で遊ぼうとしてる。これはチャンスなんじゃないのか?」


「ま、まさか……?」


「そう、変装を変えながら遊ぶことで清水さんと若女さん二人同時に仲を深めていくんだ!」


「!? アホかお前!約束を掛け持ちするってことかよ!?」


「服は制服のままだし荷物も必要最低限あればいい。よし!」


「いやいや、そういう問題じゃなくて、掛け持ちするのが無茶だってことだよ!」


「うるせぇ!若女さんは普段バイトに明け暮れて滅多に遊ばないからこれはチャンスなんだよ!これも全ては彼女作ってエッチするためだ!」


「結局下心のためじゃねぇか最悪だな!」


「よし、そうと決まれば返信してすぐに準備を進めるぞ!」


「どうなっても知らねぇからな……」


 こうして急遽約束を掛け持ちすることになった俺は急いで必要な道具を用意して清水さんの元へ向かって行った。

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