巨乳ギャルの“若女華奈”さん 編
第3話「巨乳ギャルの“若女華奈”さん」
「彼女が欲しいっ!」
両肘を曲げて体を地面スレスレまで下ろす。大胸筋と上腕三頭筋を鍛えるプッシュアップだ。
「彼女が欲しいっ!」
地面を押すように体を持ち上げ再び体を下ろす。同時に汗が額から流れ落ちる。
「彼女っ!彼女っ!彼女おおおおお!!全ては女の子とエッチするためにいいいいい!!」
「だーっ!うるさいわーーーっ!せめて言葉を選べないのかお前はぁ!!」
今日も筋肉を大きくするためのトレーニングを終え床の上に大の字で寝転がる。
「はぁ、はぁ……筋トレ終了!ぐううっ、上腕三頭筋と大胸筋に効くぜ……」
ひしひしと腕と胸に痛みを感じていると椅子に腰掛けている匠真が呆れたように口を開く。
「なぁレオン、お前は静かに筋トレできないだけじゃなくて言葉も選べんのか?」
「? 何の話だ?」
「いや、普通に考えて筋トレしながら『エッチする』って叫ぶ奴いないだろ?」
「? 男子高校生ならほとんどの奴が女の子とエッチしたいって思うだろ?お前も前に興味あるって言ってたし、何もおかしいことないじゃないか」
「TPOが明らかにおかしいんだよ!!」
清水さんのお手伝いをしてから数日後、三学期末ということで短縮の午前授業を終えた俺は部室で筋トレに励んでいた。
「まったく、そんなんだからこの間俺との約束をすっぽかすんだよ」
「なっ!?あれはちゃんと謝ったし埋め合わせもしただろ!?」
清水さんを泣かせたと勘違いされて事情を説明しているうちに匠真とゲーセンに行きそびれてしまい翌日大目玉を食らった。そのお詫びと埋め合わせということで匠真とゲーセンに行くことで済んだのだが……
「ぐすん。匠真くん酷い。過ぎたことをネチネチ言うなんて……ぐすっ、ひっく……」
「掘り返しはしたが別にネチネチ言っとらんだろ。あと泣き真似気持ち悪い」
引きながら言ったあとコンビニ弁当のおかずを口に放り込んで続ける。
「まぁ俺もそこまで怒ってないしきちんと謝って埋め合わせしてくれたからいいけどさ。それにしても先生から勘違いされたってことは余程のことでもあったのか?」
「いや、ただ黒い悪魔が出ただけなんだ……」
「何だそれ」
そんな会話をしながら体を休める。
しばらくして体も休まったところで、
「んじゃ匠真、俺はそろそろ若女(わかめ)さんのところに行くから」
「おう。また明日な」
お互い別れて俺はメイクに取り掛かり匠真は部室を出る。
部室に一人残った俺は黙々とメイクを続ける。
そう、今日は若女さん、清水さんとは別に気になっている女の子に会いに行く日だ。
メイクを施し、金髪のウィッグを着用して髪型を整える。あとはアクセサリーをつけて制服を着崩せば――
しばらく時間が経ち俺は部室を後にする。
ツンツンはねた金髪に着崩した制服、ジャラジャラし過ぎていない銀色のアクセサリー、若女さん用に変装したのはウェーイなチャラ男の『上井(うえい)天馬(ペガサス)』だ。うぇーい☆気分アゲアゲで行くぜぇ~★
頭の中で若者言葉を羅列しながら若女さんの元へ向かって行った。
♡
一年Gクラス教室前、放課後で人通りはあまり多くない。
開いたドアから教室を覗くと席に座っている若女さんの姿が確認できる。
いつもなら他のチャラチャラ仲間と一緒に過ごしているけど今日は一人で何やら机を見つめて様子が変だ。
「おーっす若女」
「! ペガか……」
上擦った声で話し掛けると明らかにいつもよりも暗いトーンで反応する。
「? それ、テスト?」
「!!」
机に並ぶ紙を慌てて隠す。ははーん、何となく察しがついたぞ。
「あいつらはどうしたんだ?」
「……皆バイトで先帰った」
「若女は帰らないのか?」
「……あたしは、その……」
暗いトーンに加えて歯切れの悪い言い様。少し鎌をかけてみるか。
「今回のテストめっちゃ難しかったよなぁ」
「うん。そうだね……」
「英語のテストなんて授業でやってないところからも出してきたし」
「う、うん。そう、だね……」
「俺の友達も赤点取っちゃったし若女も赤点取るし」
「えっ!?何でペガが知ってるの!?」
(ニヤリ)
(――はっ!!)
慌てて気付くがもう遅い。やっぱり赤点を取ったんだな。
「酷い!鎌かけたでしょ!(ポカポカ)」
「悪かったって。だって様子が変だったし」
ぎゃいぎゃい言い争っていると机からテスト用紙が落ちる。
「若女、テスト落ちたぞ――って!?」
その点数を見て俺は驚愕する。
『9点』
名前の横に大きく書かれた数学のテストは紛れもなく若女さんのものだった。
「あーっ!見ないで!見ないでよぉ!」
慌てた若女さんが取り上げる。
「こ、こんなに点数低かったのか……」
「う、うるさい!その、バイトしてたから勉強する時間が無かったのよ……」
若女さん、それはただの言い訳です。
「めっちゃバイトしてんだな。テストあんの分かってんならバイト少なくすればいいのに」
「い、色々事情があるの!」
机に置かれた他のテスト用紙も横目で見る。
『13点 (社会)』
『4点 (化学)』
「三科目も赤点かよ……」
「!? だから見ないでってばぁ!」
三枚のテスト用紙を両腕で抱きかかえる。いいなぁ、あの紙になって若女さんのGカップおっぱいを堪能したい……おっと、そういう場合じゃなかった。
「さっきから赤点赤点って、そう言うペガはどうなのよ?」
「俺か?そうだな確か……」
『86点 (国語)』
『82点 (数学)』
『74点 (化学)』
『84点 (社会)』
『92点 (英語)』
「すっご!やば!神かよ!こんな点数あたし取ったことない!」
「俺なりに勉強しただけだ」
目を輝かせて食い入るように俺のテストを見つめる。
「でもどうしよう。今までギリギリ赤点取らなかったけど今回はマジでやばいかも……」
「だな。追試の結果次第じゃ留年するし実際そうなったら家に連絡行くし俺らとも離れるし」
「! それはダメ!!」
「!?」
途端、若女さんの顔つきが真剣なものに変わる。
「あたし、皆と離れたくないし家族にも迷惑かけたくない!ねぇどうしよう……あたし、留年したくない!」
「まぁ赤点取っちまったもんはしょうがねぇ。今は追試の対策をするべきだな。テスト見せてみろ?」
「手伝ってくれるの?」
「目の前で友達が困ってんのに放っておけないだろ」
下心で接しているとはいえ若女さんとは友人関係。困っている姿を見て無視できない。
それに、若女さんが留年したら接する機会が減るだろうしそうなったら付き合える可能性もぐっと減る。俺にとっても困る話だ。
「追試っていつだ?」
「明後日。三科目同じ日にやる」
「一日以上空いてんならいけるな。しっかりやれば三科目分のテスト内容を覚えられる」
「でもペガ、今から三科目分勉強するのはきついかも……」
「うちの高校の追試で出す問題はテストで出たもんと全く同じだ。生徒を落とすための追試じゃないから学校側のせめてもの情けだろうな。だからテストに出た問題の答えをそのまま覚えて受ければいい」
「じゃあ、数学なら
「答えだけじゃ駄目だ。ちゃんと
「うぅ、厳しい……」
「だからその途中式もしっかり書くんだ。追試を突破するだけならやり方を覚えるだけでいい。数学社会の合格点は70点で高めだけど化学は低めの30点、今からしっかり対策すれば十分合格できる」
「でもペガ、あたし今日バイトがあるんだけど……?」
「休め」
「えっ!?」
「今は追試を突破することが最優先だ。バイトを優先してまた同じ目に遭いたいか?」
「それは、嫌だけど……」
「なら今日明日はバイト休め。適当に体調不良って嘘つけば休めるだろ」
「だ、ダメよ!それじゃあまるでサボりみたいじゃない!」
「噓も方便だ。バイトの影響で勉強に支障が出たらそれこそ留年するぜ?」
「わ、分かったよ!勉強するから!バイト休むから!」
こうして若女さんを留年させないための追試対策が始まった。
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