ジョールドヴカーン
有識者らの地質調査によれば、かつてこの世界には多くのドラゴンが生息していて、それらは前触れなく唐突に、また、同時多発的に大発生し、世界各地に数えきれないほどの爪痕を残したかと思えば、それらは瞬く間に、まさに流星の如く忽然と世界の表舞台から姿を消したという。
彼等の謎めいた存在は、多くのプレイヤーたちを探究の道へと導いた。
その結果、彼等についての記録は、プレイヤーたちに化け、知らないうちに人間たちの生活に溶け込んでいる。などというような
その一方で、人知れず、誰からの興味の対象にもならないプレイヤーたちの
霧崎は、ちょうど戻ったばかりの大きな白猫型のスレイブを、巨大な顎で甘噛みしながらべろべろと舌で舐めまわしているドラゴンをじっくり観察しながら。
今回も同じように、かつて、自らの体験をもとに出版した本『鱗の無い竜』の事を思い出していた。
あの本は、一冊しか売れなかった。
「ドラゴン・・・!本当にいたなんて!!思っていたのと少し違うけど・・・キャプテン!!この生き物はドラゴンなんですよね?ジゼルさん!ドラゴンですよ!」
「・・・え?ええ」
ジゼルの怯えたような態度を目の当たりにすると、セイムはとても申し訳ない気持ちになった。
今は、個人的な大発見を喜んでいる場合では断じてない。
「・・・ごめんなさい。・・・僕!テルさんの様子を見に行ってきます!何か手伝えることがあるかもしれませんから!」
「セイム君待って!」
シャロンだ。
「テル君に、これ、ニュートが遅れたのは、これを取ってきたからだって・・・だから・・・これ『海ビワ』っていう果物なの、甘くて冷たくてとっても美味しいから」
「わかりました!渡しておきます!」
人の手はもちろんの事、光さえ届かない深海で自生する海ビワは言うまでもなく非常に希少価値の高い果実である。
セイムは両手で、ひんやりとしたそれをしっかりと受け取ると、すぐに駆け出し、通路の奥へと消えた。
セイムが居なくなると、霧崎はここぞとばかりに立ち上がった。
「シャロン。もう味見は十分だろう」
「あじみ?」
スレイブのマスターであるクウコは、なんとなく不吉な予感がして、竜の唾液にまみれた所有物をそっと取り上げた。
「ニュートはね。初めて見たものは何でも味見したがるの。でも安心して!ニュートは果物以外食べたりはしないから!」
取り上げた猫に大きな頭が再びぬぅと伸びて、しっとりと押し当てられ、つぶらな瞳は
「ダメ!食べちゃダメ!!」
『ウロォォォァァ・・・』
「ニュートたら。ミズキさんが白くて綺麗で、フサフサしててうらやましいって」
「わかるの?」
「うん。なんとなく、そんな感じがするの」
「ほんとぉ?シャロンさんのもーそーじゃないの?」
「えっ!?・・・えっ!?」
霧崎は、現実の潮目が変わるのを辛抱強く待ち、温かな太陽が彼方から運ばれてきた火薬の煙と巻き上げられた砂埃で僅かに陰ると、この男もまた身を乗り出した。
「シャロン」
迎えに来た親の声を聴いたように、彼女は姿勢を直した。
「・・・はい」
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