ニュート
「ヴァイパー隊!聞け!部隊を二つに分けるっ!タンゴ、ブラヴォーチームは後退し地上部隊の援護!残りはこのままこいつらを畳みかける!焦げ吐きたちは負荷がかかる前に交代し攻撃を継続するんだ!」
後退を告げるまばゆい花火が大きく上がり、焦げ吐き部隊の一部と、ウォンバットを包囲していた陸上部隊は、速やかに対応をはじめた。
「もう少しだッ!がんばれ!もう少しで焼き切れるはずだ・・・!」
~ウォンバット内部~
「先輩・・!もう・・・限界ですッ・・・!」
「・・・くッ!キャプテン!隊長!別のやり方はねぇのかよ!!このままじゃテルが!魚みてぇに焼けちまう!」
艦内に蓄えられた貴重な水と優れたエレメント操作をもってしても、焦げ吐き達による熾烈な火炎攻撃を防ぎきることは困難であった。
元々高熱に耐えられない体をもって生まれてきた彼らもまた、捨て身なのだ。
霧崎はあたりに充満する皮膚の焦げる耐えがたい臭いを嗅ぎながら喉の奥で一度唸った。
霧崎に残された手段は既に少ないものだった。
そして彼は、隅の方で怯えるように小さくなっているジゼルをちらりと見て、冷酷な決断をせざるを得なかった。
「テル。もう少しの辛抱だ。君をおいてほかにできるものがいないのだ」
「キャプテン!!」
「いいんです!いいんです先輩!こんな僕だって誰かの役に立てるんなら・・・!」
「だがよ・・・テル!」
「テル君っ!!!」
シャロンだ。
シャロンは、大きなバケツにめいっぱい汲んできた水を揺らしながら重そうにテルの元へと向かった。
その後ろにはセイムとト毬木も続いていた。
「シャロン!それ以上近づくな!!」
膨大な熱量に対して少なすぎる水と、環境エレメントをやっとの思いで操作しているシルドは、額にびっしりと汗をかいていた。
彼の傍らでは、クウコも必死に冷却作業に当たっている
「・・・クウコ。あまり冷やしすぎるな!上昇する熱量に合わせて最低限のエレメント量で対処するんだ」
「はいッ!」
あまりにも壮絶な光景に、セイムは言葉を失った。
そんなセイムに、ト毬木が声をかけた。
「セイム君」
「・・・ト毬木さん」
「私たちに出来ることをしましょう。さぁもう一度です」
「はい!」
二人が通路に消えてから、火炎はその勢いをさらに増した。
そして、現在まで何とか起動していた全周囲モニターも、通常照明も、通路閉鎖装置も、移動補助装置も、アクティブセンサーもすべての動作が停止した。
やがて、っじゅうじゅうと耳障りな音が艦橋にこだました。
っじゅうじゅう。
っじゅうじゅう。
っじゅうじゅう。
「・・・・いやっ!もうやめて!お願いッ!」
ジゼルの悲鳴を合図にしたように、隙間から漏れた真っ白な火炎がテルの体を包み込んだ。
「うわあっ!!うああ!!!」
「テル!!!」
漏れ出た火炎は瞬く間に広がり、すぐそばにいたクウコとシルドにも迫った。
「きゃぁあ!!」
「・・・っ!!テルっ!!馬鹿野郎!!甘ったれんな!!お前しか!お前しかいねぇんだぞ!」
火炎に包まれたテルがどうなってしまったのかはわからなかった。
しかし、ヤナギの声は恐らくテルに届いていた。
僅か、数秒、永遠のように長い数秒だった。
「し・・・!師匠!」
「・・・ああ。火の勢いが・・・止んだ」
「・・・ようやく来たか」
ウロォォォォァァァルルゥ・・・・!!
ベキ。
ベキベキベキ!!!
穴から漏れだす火炎が止んで、テルは力なく倒れこみ天を仰いだ。
そこには、全周囲モニターの映像など、所詮は人の作り出したものなのだ。と、思えるような青空と、帰路につき始めた季節外れの烈日が覗いていた。
さしずめ果物の缶詰のように開けられたウォンバットの外部装甲の隅には、恐るべき4本爪が見えていた。
シャロンが小さく歓喜の悲鳴を上げた。
「来てくれてありがとう。・・・ニュートッ」
その声を合図にしたかのように、爪は順番に折れ曲がり装甲板に食い込んだ。
巨大な何かが風を切る音と共にぬぅと現れたのは、つぶらな瞳と、くすんだ色の皮膚を持つ鱗の無い竜であった。
『ウロォォォォァァァルルゥ・・・・!!』
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