運命の交差点

「あぁーー一回撃ってみたかったのよねぇ」


とても見通しの良いその場所は、みずみずしい若草が一面を覆っていて、それを風が優しく撫でる度に、とてもとてもいい匂いがする。と、カゼハは思っていた。


カゼハは、思わず顔を赤くして無言のまま頷いた。


「じゃ、はじめよっか?」


「・・・うん」


「カゼハちゃん、好きな人いる?」


「え?・・・うん」


「狙いましょ?」


「え?」


「わからない?」


「・・・うん」


「砲撃はね。人を狙うものなの」


「・・・うん」


「わからない?」


「・・・うん」


「私たちの愛を届けるのッ!」


カゼハは、理由もなくとても嬉しくなって喉の奥できゅうと鳴いて頷いた。




「っはああああ!!!!!!」

「やあああああああああ!!!!!!!」


両者の実力は拮抗し、お互いの刃がぶつかる度に生み出される衝撃波は、見守る大勢の者らを必然的に安全な距離まで遠ざけていた。


幾度となく、その鋭い刃がぞりぞりと音を立てて互いの上を滑ったが、どちらの刃も決して欠けることはかった。


「やるわね」


「くッ!バーバリアンめ・・・ッ!!」


「はあああッ!!!!」


「・・・ッ!!!」


しずゑの一撃はまたしても非常に強力であったが、ジャンヌは後ろに飛びながらそれを受けて衝撃を軽減した。


「そう呼ぶんじゃありません」


「アアクイン!!!」


「・・・・!?」


「ウェルド!スキーハ!クモンキ!!サーグウオーワッセ!!」


懐かしい名を耳にして、しずゑは思わず斧を下ろした。


かつて、仲間だった者たちの名だ。


そして、彼らも、そのほか大勢も、全員死んだ。


過去の想起は、これまでジャンヌが放ったどの攻撃よりも重くしずゑの胸を殴打した。


「皆!勇敢な戦士だった!貴様はこんなところで何をしている!!」


「覚えていてくれたのね」


「・・・何ッ?」


お互いに手を取り合うような沈黙が一瞬だけ訪れて、それはすぐに地鳴りと悲鳴によってかき消された。


刹那、遠方から飛来する巨大な物体を二人は軽々と躱した。


バラバラにに砕けたゴーレムタンクの欠片だ。


ジャンヌは他の多くの者らと同じように、もやのような土煙と、雨のように降り注ぐ砂や小石から目を庇う。


「何事だッ?!」


次に飛んできたのは、前線に居た大勢の人間たちだった。


一部始終を見ていた目の良い者が、ほとんど転びながら四つ足で駆けてジャンヌに報告した。


「ジャンヌ様!!私はこの砲撃を知っています!!!第二次ノートルダム戦線で鉄壁とうたわれた黒犀城くろさいじょうを崩壊させた伝説等級の武器!!!」


「・・・・なんだ!」


世界樹のくしゃみハウル・オブ・ユグドラシルです!!!!』





装填そうてーん!」


「はいッ!」


迫撃用意はくげきよ~いッ!」


「はいッ!」


発射う~てっ!」

「・・・ッ!!!」


ドガッ!!!!!!!!!!!!


『・・・・・・・・』


着弾だんちゃーくッ!・・・・!!今!!!」


どぉおおおおおおん・・・・・!!!!!!!!


装填そうてーん!」


「はいッ!」




殆ど四つ足で駆けてきた男は、前線の方で3度目の土煙が上がるころにはすっかり顔面蒼白になり、彼の額を土混じりの汗が一筋伝った。

男は、半分口を開けたまましばらく放心していたが、砂の雨に打たれると同時に辛うじて我に返った。


「ジャンヌ様!こっここも危険です!」


「くッ敵がまだ隠れていたとは・・・・!なんと卑怯な真似を!雲打ち達はどうした!!なぜ撃ち落とさない!」


「わかりません!!」


「なんという・・・なんという失態だ・・・・!!!!」


ジャンヌは今まで感じたこともないような怒りに震えていた。

自分たちが築き上げてきた都市の青空は汚され、大勢の協力によって整地された大地は、訳の分からない連中によって再び荒れ果てようとしていたのだ。


そして、何よりも、多くの善良な者たちが、ひと時の享楽に溺れる薄汚い連中の手によって不当にしいたげられ、はずかしめられ、守られるべき優しさと、賢さと、尊厳を失いかけているのだ。


それもこれも、自分たちの、引いては、人を束ねる立場にあるはずの自分の甘さが招いた事である。


ならば、全身全霊をもって、これを正さなければならない。


「『無形むぎょう』・・・・まずは貴様からだ・・・ッ!」


ジャンヌが手にしていた剣を大地に突き立てると彼女を見守っていた人々は、それが自分たちにとって最も身近で最も重要な事であったかのように、現在、自分たちの置かれたの境遇を一瞬忘れて、どよめいた。


「・・・・無形の位・・・・!」

「あれがジャンヌ様の・・・!?」

「後方の者たちに伝えろ!俺たちも!攻勢に出るぞ!!」

「ジャンヌ様・・・・」


ただならぬ気配に、しずゑも僅かに姿勢を下ろして身構えた。


「もう加減は無しだ。本気で来い・・・!」


「望むところよ」


風によって二人の頭髪が持ち上がり、わらわらと火のように揺れた。

両者は何か、きっかけを待っていた。

運命が交わる、偶然を待っていた。


そしてこの時、それは不幸にもハウルオブユグトラシルにより打ち出された一発の砲弾であった。


見守る人々が気が付いたときには、巨大なクレーターを残し、ジャンヌはその場から忽然と、あまりにもあっけなく姿を消していた。




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