突入
「マグマキャノン!発射!」
・・・・若いな。
主砲であるマグマキャノンが発射されると同時に、ウォンバットは強い衝撃を受けて大きく傾き、乗組員はその衝撃のあまりシートから投げ出された。
「・・・くっ、障壁は?!」
霧崎は、勢いのまま、あわや天井に激突する寸前のところであったが、彼をはじめとして、その場に居合わせた全員が無傷でいられたのは、奇跡などではなく、空間全体を埋め尽くす白いフサフサのおかげだった。
艦橋を囲んでいるモニターのいくつかが点滅し、それらはすぐに元通りとなった。シャロンが頭をふらつかせながら、確かな情報から順に状況を知らせる。
「ヌートリアです!左舷後方のヌートリアが体当たりを・・・!」
「わかっている。なんと愚かな事を・・・!障壁はどうか!ト毬木!」
「キャプテン。落下中のヌートリアからストロボ通信です」
「つなげ」
正面のモニターが四角く切り取られ、そこに映し出されたのは先ほどのヤマモト艦長の姿だった。
その姿を目の当たりにしたシャロンとしずゑは、思わずあっ。と、声を漏らした。
質量で圧倒的に劣っているウォンバットに体当たりするなどと言う愚かな策を慣行した旗艦マリーゴールドの船内は滅茶苦茶に荒れていた。
警報が鳴り響き、非常灯によって血を浴びたように赤く照らし出される向こう側の映像には、弱弱しく壁に寄りかかる人影や、脱ぎ捨てたジャケットや衣服のように、シートにもたれ掛かり体を折りたたんだまま動かない者もいた。
その誰もが、突然の出来事に不意を突かれ、殆ど無抵抗のまま、むち打ちになり、頑健な鋼鉄の箱の中で暴れまわって体中を強打し、ぐったりと打ちのめされているようであった。
「霧崎君と、いったな」
仄かな光の中、ヤマモト艦長がゆっくりとそう言うと、顔に刻まれた沢山の深い皴が口の動きに連動してじわりと動いた。
霧崎が、モニターを見つめて言う。
「ヤマモト艦長、まだ間に合うクルーもいるでしょう。脱出してください」
「お前さん、大事にしてるもんはあるか?」
「艦長、脱出を・・・」
「答えんかいっ!!!」
「・・・はい。それを壊させないためだけに私はここまでやってきました」
「ほっほ。そうかえ。儂はな、こう見えて夢見がちな若い連中のそういうのを叩きのめすのが大好きなんじゃよ。・・・ぁぁ、惜しいのぉ、牙が折れる前に会いたかったぞ・・・」
「艦長。まだ間に合うクルーもいるはずです。退艦命令を出してください」
「ぁぁ、あの娘さえいなければ・・・。ぁの娘さえ」
「ヤマモト艦長!」
・・・・ッ。
・・・・・・・ォン!
「シグナル、ロスト」
霧崎は一度だけ身じろぎして、座りなおした。
あれほどの衝撃を受けつつも、ウォンバットは無傷であった。
「どこに着弾した?」
「はい。都市固定用のアンカーボルトに直撃したようです。教会都市傾いています」
「遠回りになるが、そこから侵入するぞ。残りの一隻はどうか?」
全部で3隻あったヌートリア級の内1隻は体当たりにて、もう1隻は近くを通過してしまったマグマキャノンの影響で轟沈していた。
「右弦後方のヌートリア降下を開始しました。味方の救助に当たる模様」
「そうか、全艦全速前進。都市へと突入する」
戦いの火ぶたが切り落とされて間もなくして、敵主力をたやすく撃破したウォンバットは、教会勢力が敷いた防衛網を軽々と通過した。
上空を悠然と飛び去る巨大な物体を、人々は拳を固く結んで見上げる事しかできなかった。
勝利とは、虚しいものだ。
勝利とは。
『ギガ・・・ガラティーン・・・!』
それは、大勢が見上げる
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