君と共に永久を

目前に広がるは豊満甘美ほうまんかんび酒池肉林しゅちにくりん、迷い込んだは桃源郷とうげんきょう、熱気薫るは秘密の花園、青少年の夢、今ここに結実けつじつせり。


「うおおおおおおおお!!!!!!!!!!うおおおおおおおお!うおおおおお!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


いな


・・・ッパァン!


「へぶしっ!!!!なにしやがんだ!!!」


「グーじゃなかっただけ良かったと思ってくださいッ!」


世界を巻き込むような能力を与えられながら、それを悪用し、誰がために日夜努力を重ねる彼女たちの姿をするなど最低の行いだ。


彼は心底ガッカリして、昨夜の見間違いをもう一度、今度は、落ち着いた気持で尚且つ慎重に再現するため、一足先にその場から小走りで抜け出すことにした。


セイムの思っていた通り、男の衣服から指を放した瞬間、世界には音が蘇った。

その感覚は、水から顔を揚げた時の感覚に何となく似ていた。


そして、彼はこうも思った。


やはり、昨日はこの街の誰にとっても特別な日だったのだ。と。


それは、決して悪い意味などではなく、昨日と少し異なった沢山の人の日常を聞いたうえでの彼なりのささやかな評価であった。


『きゃあああ!!!!』

『うあああ!!!やめろッ!やめろッ!』


セイムが小走りで抜け出した施設の中から、人の悲鳴と、何かが割れる音と炸裂音と何かが折れる音と高速で回転する何かが何かに接触する甲高い音と、人を折檻せっかんした時の音を何百倍も酷くしたような音がして、死に掛けのゾンビのような姿であの男が現れて、ぱたりと倒れた。


セイムは慌てて、彼の元へと駆け寄って、施設の入り口の脇へと引きずり避難させた。

男に触れたとたん、時止めが再び発動した。

施設の奥からは羽織を一枚纏った薄着の美しい女性たちの軍勢が、皆一様に目を吊り上げて、肩を怒らせながら迫っているのが見えた。


「あなたはっ!時止めはどうしたんです?!」


「へへ、怒った顔も可愛いぜ。なぁそう思うだろ?ええ?セイム?え?思わない?」


「なに馬鹿なことを言っているんです?!ケガをしませんでしたか?立てますか?」


「うへへ、なんてことねぇぜ。子猫ちゃんにちょっと引っ掻かれただけさ」


そういって、立ち上がった男の尻には奇妙な造形をした物体が突き刺さっていた。

医療用の半貫通高振動はんかんつうこうしんどうアナライザーだ。


セイムはそれを引き抜いて、続けた。


「こんな・・・。なぜ時間を止めなかったんです?!」


「まったくよ。使えねぇよな・・・発動にが必要だななんてよ」


「立会人?」


「ああそうさ、誰かと一緒じゃねぇとだめなのさ。ああ、でも。うへへ。良い眺めだったぜ。なぁセイムもう一回行こうぜ?次は途中で逃げんじゃねぇぞ?」


この、男に与えられた力は比類ないとても強力なものだ。

その力を発揮するために立会人を必要とするのは、きっと、力の暴走を食い止め、誰かとともに考え、少しでも正しく使うためにそうなっているのだ。


やはり、この世界に神様はきっといる。


「なあ、セイムぅ。セイムちゃんよぉ。行こうぜ?今度はあっちのエアロエロビクスなんてどうだ?」


「いやですッ」

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