『水晶胃袋』
前のサイクルと異なりシャズの発言には、この先で待つであろう『
この地に突如現れた時間湧きである『
シャズは初め、大量に用意しておいた閃光弾で『
シャズはそれでも十分すぎると言った。
そして、セイムはこの言葉を少しも疑いはしなかった。
3日目、4日目そして、10日が過ぎた頃、切羽場の照明として活躍し続けていたヒカリシロコバシが急に暗くなり動かなくなった。
二人はすぐに異変に気が付いて、シャズは一つしかない酸素マスクをセイムに付けさせ一度地上に撤退した。
その時シャズは、シロコバシの入った篭を地中へ置いて来いとセイムに言ったが、彼はその命令を無視して、こっそりと隠して穴の外へと持ち出していた。
外へと避難したセイムはシャズが照明の何らかの代用品を用意するためにすぐにその場を離れる事を知っていて、まもなくしてその予想は確かなものになった。
一人残されたセイムは、そっと篭の蓋を開けて、動かなくなったヒカリシロコバシに触れてみた。
白い羽毛には傷一つ無くしなやかで健全そのもので小さな体はまだ熱を帯びている。
セイムの胸中には根拠の無い自信のようなものがあって、彼はいつかのように自身に与えられた能力を試してみた。
すると、ヒカリシロコバシは一度激しく痙攣し、息を吹き返したのだった。
セイムは心底安堵し付けていたマスクを外した。
そして、篭からヒカリシロコバシを取り出すと谷の底から天高く空に向かって掲げた。
白い鳥は頭をもたげて突然もたらされた自由な世界を不思議そうに見回した。
ヒカリシロコバシは眩しそうに太陽を見た。
艶やかな瞳には人間の英知を遥かに超え、今、この瞬間にまで脈々と受け継がれてきた彼ら血族の確かな本能が宿っていた。
彼は、頭を回転させて太陽の位置、それから風の流れ、気温、湿気、気圧、標高を全身全霊を持って感じ取ると力強く羽ばたいた。
セイムは彼の旅立ちを見守った。
「・・・」
「死んだふりをするなんて聞いたことなかったがな」
もどってきたシャズが手にしていたのは、浮きシップ用の高性能回光通信機だった。
セイムはそれが何であるのかすぐに理解して文句を言った。
「そんなものがあるなら初めから使えばよかったんです」
シャズはせせら笑って。
「こいつを誰かに盗まれるわけにはいかないからな」
と言った。
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