第5話 青星の現実

宇宙船は順調に飛行を続けて、六十二日後に地球の静止軌道上にのった。

 地上の調査のために、十機のシャトルが地球へ降下を開始した。


「これより本シャトルは地球への降下を開始する」

 僕とスバルを含めた20名は、二号機へと搭乗していた。エンジンを点火して軌道を地球へと向けた僕たちのシャトル。

「地球は火星とは違い大気が濃い。摩擦によりシャトルには高熱と高圧がかかる。我々が一度も経験したことがない大気圏への突入だ。全員、火星でのシミュレーション通りに行動する事」

 二号機のリーダーのスバルから、機内の僕たちへ注意が即された。

 地球を半周した二号機は、機体をゆっくりと反転して地球へと降下を開始する。

 大気圏へ突入すると、みるみる外壁が赤く燃え始めるシャトル。

 徐々に高度を下げていくシャトル。雲が眼下に見えてきた。

 雲の中に入り込むと機体は再び揺れたが、すぐに収まり今度は地上が見えてきた。雲の切れ切れから見える景色に、シャトルの全員が外を見た。

 

 僕の目に飛び込んできたのは青。深い色をたたえた美しい海。

 そして茶褐色に荒れ果てた大地だった。

「タッチダウン」

 パイロットの声と同時に、ガクンと鋭い衝撃が機体を揺らした。


「パートナー二人での行動を厳守。強化スーツの電池、状態に気をつけろ。ここは火星ではなく地球だ。何が起こるか予想できない」


 本来人間に安全な星である地球。

 人が住むには過酷すぎる火星。

 でも人間の手で破壊された地球は、火星より危険な星へと変わり果てた。

 強化スーツを宇宙服の上から装着して僕たちは地上に降りた。


 僕たちが着る強化スーツは、地球の重力に耐えるために強力なモーターを備え、放射能を避ける為に分厚い金属で覆われていた。背が高い僕たちが着るスーツの高さは、2メートルを軽く越えていて、モーターのシークー音が辺りに響き、動く度にガチャリガチャリと金属音を立てる。

 その姿はまるでSFの世界、宇宙人のロボットのように見えた。

火星のように砂漠化した地球の大地に風が吹く。青い海と緑に包まれた地上。


 美しかった地球には多くの動物が住み、僕が立つこの場所にも植物が茂り、大地を吹く風は多くの緑を揺らしたのだろう。なぜ人は自分で責任がとれない事を、平気でしてしまうのだろう。その責任は自分ではなく地球の全ての生き物に及び、そのツケは未来の自分の子供達が背負う事を忘れるのだろう。


 核爆弾が造られた時「世界の安定の為の抑止力」と、核爆弾を造る国が次々と現れた。 世界を何百回も滅ぼす程の核爆弾が作られた。文化と科学が進み、その存在は負の遺産として封印された筈だった。進んだ科学は太陽の光から電気を、水素から核融合で熱を得るようになった。爆弾ではなく、核は制御され有効に平和のために使われた。人類はエネルギー問題を解決、高度な技術は多くの人を長くたくさん生かし続けた。それは多くの地球の生物の一種としては常識の範囲を遙かに越えて行われ、人類の数は二百億を越えた。たくさんの動物が人間が生きる為に絶滅した。


 罪を感じ……人は成長したと思われた。だが変ってなどいなかった。

大切な事を忘れた人々は多くの人を殺す。

 そして自分達の未来さえ殺してしまった。


 応える者は何も無い大地に、風が恐ろしい音を立てた。

 核爆弾により南極や北極や氷河の全ての氷が溶けた地球は海面が上昇、かつて巨大な都市があったはずのこの場所も海へと沈めてしまった。

 まるで神様が人間の愚かな行為を隠したように思えた。



「ここにも誰もいなかったな」

 いつもは軽口をたたく、パートナーのスバルも口数が少なかった。

 地球の人々を探す調査は一週間が過ぎていた。

 目の前に広がる、海に沈んだ巨大な建造物が立ち並ぶ廃墟。

「ここは壊れていない……人々はこの都市を捨てたんだな」

 スバルは悲しい目で半分海中に沈んだビル群を見ていた。


 その後の調査でも地球の人は発見出来なかった。

 スバルは上空の宇宙船と連絡をとり、今後の事が話し合われた。

 その結論は「火星への帰還」だった。

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