第4話 旅立ち
一週間後、突然、宇宙省に呼び出された。
今回の地球への遠征計画のリーダーのスバルと科学者が待っていた。
「地球へ宇宙船が飛ぶことはない。計画は中止になったと聞きましたけど……」
僕の言葉に頷いてスバルさらに驚く事を話す。
「おめでとうケイコク。エデンの臨時会議で地球へ行くことが決定された。銀河ネットの端末が地球への道を再び開いたんだ」
一呼吸を置きスバルが尋ねる。
「ケイコク一緒に行くか? 遙かなる故郷へ……地球への旅に。メロウに会う為に」
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一年後……高速で上昇を続けるエレベーター、突然、スウゥと速度が遅くなりエレベーターが軌道エレベーター発着ステーションに到着した。瞬間、フワァと身体が浮く感覚……無重力を感じた。
全員がシートベルトをしたまま緊張して次の指示を待つ。エレベーターのスピーカーから、落ち着いた女の人の声が聞こえた。
「みなさん、私はこの軌道エレベーターの管理責任者です。みなさんは故郷への帰還を目指し過酷なトレーニングを経てここにいます。自信を持ってください、みなさんは私達、赤い人の代表なのですから」
カチャ、一斉にシートベルトが解除された。
「さあ、静かに立ち上がってください。地球への道はここから始まります」
立ち上がった僕たちは、宇宙服のヘルメットを被り、全ての最終チェックを予めパートナーを組んだ人と行っていく。僕のパートナーはスバル、僕より背が高く少しだけ年上だった。無重力での点検作業、地上で訓練したとはいえ難しかった。もたつく僕はみんなを待たせてしまう。
あせる僕に、パートナーを組んだスバルが笑いながらジェスチャーで「ゆっくりでいいよ」と伝えてきた。
周りの人達も同じくゆっくりでいいと伝えてくる。
眼下には赤い光を放つ、僕たちの故郷の火星が見える。デッキを進む僕が上空を見上げた時「うぁあ」と思わず大きな声を出す。周りからもため息が聞こえた。
真っ黒な宇宙が果てしなく広がって、瞬かない星々が今まで見た事もない数で、美しく輝いていた。一瞬で宇宙の中に飛び込んだ僕は、その空間に一人で立っているように思え、美しさをこえて冷たい怖い感覚を覚える。
呼吸が乱れ震える僕の肩を、僕のパートナーのスバルが軽く叩いた。
振り向く僕に、スバルはある方向を指さす。
その場の全員がスバルの指さす方向に気がつき、僕と同じようにその方向を向いた。
全員が見た方向には、銀色に輝く巨大な宇宙船があった。
銀色の外装には、赤い円と青い円が重なったマークが描かれている。火星と地球をシンボルにしたもの。
地球から火星へ、そして今度は火星から地球へ、その百年の想いが込められている。
しばらく、だまって宇宙船を見ていた僕たち。
宇宙から見ればちっぽけな船かもしれない。
でもこの宇宙船には僕たちの努力と夢と希望が詰まっている。
それを造った赤い人の力に僕は素直に感動した。
初めての宇宙は広く……神秘的で怖かった。でも、きっとやれる。そう思えてくる。
デッキに固定されているシャトルの入り口が開いた。
ヘルメットから流れる誘導に従い、船内に乗り込むとすぐに離陸を開始するシャトル。旋回し移動を開始したシャトルの窓から、真っ黒な宇宙に浮かぶ巨大な銀色の宇宙船が、だんだんと近づく。
「すごい! なんて大きいんだ!」
間近に見るとその巨大さに圧倒される。シャトルが宇宙船の横に並び通路が結ばれ順番にチューブ式の通路を渡り宇宙船の内部に移動する。
薄暗かった宇宙船の内部に灯りが点り、この宇宙船の船長からの初めての指示があった。
部屋の数カ所に置かれたスクリーンに艦長の姿が映った。
「一人の少年により地球との交信が行われ、地球の人々の生存が確認されて、この壮大な計画が動き始めました。少年もこの宇宙船に乗り地球を目指します。力を合わせて必ずこの旅を成功させましょう。そして少年の想いも一緒に叶えたいと思います」
スバルが照れた僕の顔を見て「行こうぜ!」と伝えてきた。
「うん」僕は自分より背が高いスバルの顔を見上げて大きく頷いた。
核融合パルスエンジンが動き始め微かな振動を感じる。
移住スペースの小さな窓から、後方に青い核パルスが輝くのが見える。
多くの人が一番大きな窓がある、展望スペースに集まっていた。
徐々に小さくなっていく火星をみんなが見ていた。
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