第2話 青星の黄昏

 メロウは十三歳、僕と同じ年だった。地球では学校には通っていないようだ。


「メロウ、勉強はどうしているの?」

「自宅でコンピューターと両親から教えてもらっているの」

「いいなあ、学校へは行かなくてもいいんだね」

 メロウが、悲しそう表情で首を振る。

「ケイコクわたしは学校へ行きたいの。一度も行ったことないのよ。赤い人が羨ましい」

 メロウは時々、僕たちのことを「赤い人」と呼ぶ。

 それは百年前に、大おじいさん達が火星に移民するために、火星の二つの月を落としたからだった。地球へ送信された画像に月が墜ち真っ赤に焼けた火星と、移民する大おじいさん達が映ったからだ。

 人類が行った恐ろしいまでの破壊行為は強い印象を与え、僕たちは「赤い人」と呼ばれるようになった。

 地球では僕たちを火星人と呼ぶ人たちもいるらしいが、良い意味ではないらしい。


「赤い人は、誰もが仕事を持っているんだね」

「うん、ここは生きる事が努力なしでは出来ない場所だからね。子供の頃から自分で出来る事は、何でもやるように言われているんだ」

「すごいね、小さい頃から、生きる事を考えている……そうなんだ……地球では大人達がいつも暗い顔をしている。生きるための話なんかしない。もう、地球は黄昏を向かえた……ケイコクは意味が解る?」

「たそがれ?夕暮れの事かな?地球の夕日は綺麗だろうね。ここでは太陽を見る事はないよ。30キロもの深いクレーターの底に住んでいるからね。そして地上は赤い砂だけが広がっている……地球に行ってみたいなあ、僕は青い地球を見てみたい」


 悲しい顔をして首をふるメロウ。


「もう青い地球は無いの。もしケイコクが地球へ来ても、きっとがっかりすると思う」

 うっすらと涙をためる青い瞳。メロウはひどく悲しそうだった。

「……僕は、がっかりなんかしないよ。それに……ね」

「それに?」

 メロウが見つめるその大きな瞳で。

「青い地球はあるよ……僕には見えるんだ」


 僕の言葉に不思議そうな顔をしたメロウの青金石の瞳。 

 その小さく輝く二つの地球を僕はまぶしそうに見つめていた。

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