熒惑(エイコク)

こうえつ

第1話 ケイコクとメロウ

地球の指導者が一同に集まり大事な事を決めた。

地球の人口が増えすぎ、他の惑星への移住が検討されていた時代。

その第一候補は火星に決まった。

そして二百年が経った火星。



僕は、思わず声を出して座り込んだ。

「ふう、これでなんとか動きそうだ」


 僕が修復した機械は、やはり通信用の端末で銀河ネットを経由するものらしい。

 銀河ネットとは二百年前に、地球から離れる人々がいつでも地球と会話やメールをやりとりできるように、太陽系レベルで張られたネットワーク。

 太陽系を越えて、銀河レベルのネットになる……その願いでつけられた名前。


 小型ディスプレイに「ONLINE」の表示が灯った。


 銀河ネットのタイトルが表示され後にメニューが出た。

 新たな出会いの期待からドキドキしてくる僕の心。

 太陽系の全ての星へ「友達になろうよ!」のメッセージが銀河ネットで一斉に送られた。


 僕は期待と興奮で朝まで、銀河ネットへメッセージを送り続けた。でも何度「友達になろうよ!」を送っても、どこからも返事は無かった。


「あーあ、やっぱり百年も前のものだから、誰も使ってないのかなあ。僕のように、端末を見つける人がいてもいいのに……」


 端末に着信メッセージが流れた。

「えっ……」

 言葉がつまった。ディスプレイが切り替わり少女の姿が映ったから。

 少しカールがかかった緑の長い髪、吸い込まれそうな青金石の瞳。その瞳の色は僕たちが学校で習った、地球の海の青色だった。妖精のような女の子が口を開いた。


「こんにちわ。わたしの名前はメロウです。地球のコロニーJに住んでいます」

 女の子の吸い込まれそうな青金石、ラズライト色の瞳に釘付けになったままだった。長距離通信は、光を越える速度の超粒子の発見により昔より遅延は少ない。それでもメッセージを送ってから、数秒間は相手の答えを待つ必要があった。

 笑顔で僕の応答を待っていた女の子は、小さな唇を開いて再び僕に質問してきた。僕の返事が想像以上に遅いので、ちゃんと通信が出来ているか心配になったようだ。


「……あの~~すみません。聞こえていますか? もしもし?」

 少女の問いにやっと、かなしばりがとけた、あわてて返事をする。

「あ、あ、は、はい、よ、よく聞こえています。ぼ、ぼくは、火星の都市エデンに住んでいます」

 しどろもどろな僕に、自分の言葉が届いている事に安心して頷き微笑んだメロウ。

「はあ……綺麗だなあ……火星では見た事無いや。やっぱり地球の女の子は違うなあ」

 地球に住む女の子ですか、地球ね……え? 地球だって!?

「ち、地球の人なんですか!?」


 まさか、地球に繋がるとは思わなかった。

 今さらながら地球に繫がった事を驚いていると、その姿がおかしくてメロウは微かに笑い始めた

「ふふ、火星の方なんですね」

「え、え、そうです、そうです。ち、地球の人なんですよね」

「ええ、それ、一番最初に言いましたよ……うふふ」

 僕の挙動不審を見て、メロウは声を上げて笑いだした。

「そ、そんなにおかしいかなあ。ちょっと笑いすぎ」

「ごめんなさい、最近地球では楽しい事が無くて。あはは」

 しばらく笑った後にメロウは“どうしていいか”困っている僕に気がつき、謝りながら話しかけてきた。

「すみせんでした……それで……あのですね……」

「は、はい、なんですか?」

 メロウに合わせて、笑い顔をつくっていた僕がひきつりながら、ぎこちないく聞き直す。その様子を見て、メロウがまたプッと吹き出した。


「あはは、あ、ごめんなさい。よかったら、あなたの名前も教えて下さい」

「わ、忘れてました……僕の名前はケイコクです。おじいちゃんが付けてくれました。昔の日本の言葉で火星を表すそうです」

「ふふ、ありがとうケイコクさん、名前を教えてくれて。わたしの名前メロウは水に住む妖精の事みたいですよ」

 再びニッコリと笑った青金石の瞳。

「ケイコクさん、わたしとフレンドになってくださいね! 火星の友達は初めてです。とっても嬉しいです」


 僕はその日から、銀河ネットで青金石の瞳の女の子に逢う事が日課になった。

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