第2話 二次元に恋した男①
男は勇気を出して扉を叩いた。
何故かってこんな依頼、
誰も引き受けてもらえない依頼だからだ。
話を聞いたのは近所の大金持ちのじいちゃん。
そのじぃちゃんは超変わり者で有名だった。
なんでかってある日いきなり
60歳で大きなビジネスを始めて
億万長者になったと言う。
それまではただのしがない
その辺にいるよぼよぼのじぃちゃんで
年金暮らしをしていたと聴く。
僕の家はひとり親で、母は昔はヤンチャをしていた女好きくそじじい《父》に呆れて僕を置き去りにして家を飛び出したのが15歳の頃。
それ以来、僕はまともに女を愛せなくなった。
かといって僕も男だ。
僕はその頃からオタクという奴に没頭して
はや、10年。気が付けば25歳になった。
くそじじいはオタクなんてキモいことはやめて早く職人になって女のひとりやふたりでも捕まえてさっさっと結婚しろ。と僕をいつもけなす。
そんなくそじじいが僕は大嫌いだった。
僕は10年も二次元の世界の少女に恋をしていた。
漫画の頃から大好きだった、はるちゃん。
数年前にアニメもはじまり、僕ははるちゃんにさらに溺れていった。
家の中はくそじじいからのお小遣いとコンビニと新聞配達で貯めたはるちゃんグッズで埋め尽くされていた。
そんなある日、たまたま職人のくそじじいが現場で脚を怪我した事がきっかけで僕は日勤5000円でくそじじいの愛犬の散歩を任されるということになった。
その散歩で知り合ったのが謎多き大金持ちのじぃちゃんというわけだ。
僕は毎日じぃちゃんの愛犬と何故か仲の良い愛犬同士をいつも遊ばせながらオタク話に華を咲かせた。
じぃちゃんは前々から僕のオタク話をくそじじいから聴いていたらしく、
「あぁ、アニメとかいう存在しないはるちゃんに恋しとるオタク息子じゃろ!」と僕を見てさらっとオタクを否定した。
僕はそれがきっかけでオタクの良さをじぃちゃんに語り続けた結果、じぃちゃんがEND屋を教えてくれたと言うわけだ。簡単に言うと毎日はるちゃんの良さを力説した僕の勝利とも言える。
じぃちゃんが語り出したのは、数週間が過ぎた頃だろうか。じぃちゃんは僕の力説に飽きたらしくついにじぃちゃんが語り始めた。
「あんなぁ、はる息子〔僕のあだ名〕もうしつこいからいっそのことはることやらと恋しにいったらどうじゃろか?とりあえずここ行ってみてみ。」
と【END屋裏家業代行サービス】という謎の名刺を僕に無理矢理渡すとじぃちゃんはもう聞きたくないというように立ち上がった。
「は?じぃちゃん何言ってんの?そんなん無理に決まってるじゃん!」
「めんどくさいがぁ..あのあれやまぁいってみなわかるから。じゃあ帰るなぁ。」
と言って立ち去った。
自宅のオタ部屋に帰ると僕は悩んだ結果、ちょっと楽しそうだなぁという気持ちでその名刺を眺めたわけで。こうゆうファンタジー的な名刺が気になったこともあり、あっけなく扉を叩いたわけである。
と長々と男は語る。
わて子「なるほど!経緯はわかりました。
お引き受けしましょう。えっとじゃあこれ読んでもらえます?」
わて子はさっさっと契約書を差し出した。
契約書
〇〇年◯月◯日
〇〇 〇〇はEND屋にて
◯◯の記憶を引き渡す事により
〇〇の願いを叶えると致します。
代わりに別の記憶をご希望される方は
その旨をはじめにお伝えください。
良き記憶に書き換え致します。
書き換え後もEND屋へお越しになった記憶だけは残ります。
「......。え?」
超簡単な契約書だけど大丈夫かよ!!!!
と僕は一瞬戸惑う。
「えっと...この〇〇を全部埋めてもらってぇ、サインでいいんで下に名前書いてもらえます?あっあと引き渡せる記憶なにがいいですかね?あっ願いが叶うとその記憶あなたからなくなるんでぇよく考えてくださいねぇ。何日もかかる人もいるしぃやっぱりやめますって人もいるんですけどね、やめる場合は口外しませんったサインを別紙にあるんでぇ。」
さらさらーっと慣れた口調で語るわて子という怪しげな歳もあんまり離れているのかいないのかわからないおばさんに僕は言う。
「え?これ、どゆことですか?え?本当に叶えるとか?え?新手の詐欺?え?あのぉ...いやちょっと待ってください」
「あっそうですねぇ...みんな初めは疑うのは慣れてるんで大丈夫ですよぉ。あっじゃあ佐々木さん【じぃちゃん】の頂いた記憶みます?それみて佐々木さん聞いても何も覚えてないし記憶が蘇ることはないので。」といってあるDVD持ち出す。
【佐々木 歳三 記憶のカケラ】
流れた映像は...佐々木のばぁちゃんとの辛い別れの記憶だった。じいちゃんが定年退職をする日、ばぁちゃんはこれからはずっと一緒ですね。という手紙と花束とじぃちゃんが好きだったであろう二駅先の小さなデパートにある[幸屋]の饅頭を持っていた。帰り道のタクシーでばぁちゃんは事故に遭い即死した所を帰りの遅いばぁちゃんを心配したじぃちゃんが自宅付近で血だらけの亡くなったばぁちゃんを泣き叫びながら助けをこう。この映像からは悲しみ、絶望を採取。最後にその声が残されていた。
そういえば...僕...
くそじじいが泣きながら喪服着て出て行ったあの日
僕は何も気にしていなかったけど...
もしかしてあれはじぃちゃんの....
記憶が糸を辿った。
「あの...じぃちゃんはばぁちゃんのこと今どう思ってるんですか?」
「記憶は書き換えられています。悲しい絶望の別れを他の方の幸せな別れの記憶に書き換えられています。今佐々木さんの記憶の中のお婆さまは長年夢であった海外一周旅を永遠と続けています。海外からの写真やお手紙はこちらで用意した他の方の記憶をお使いしています。」
さっきまでの語尾の長い話し方とはうってかわり、わて子は語る。
「それって本当に幸せなのでしょうか?」
僕は問う。
「そうですね...新しい記憶と引き換えに人は忘れたい過去という物があるのではないでしょうか?あなたには忘れて良き思い出に変えたい過去はないのですか?」
僕は...黙った...。
「あの、でもどんな願いとじぃちゃんは引き換えにしたんでしょうか?」
「それは守秘義務にてお伝えしかねます。」
厳しい口調でわて子は話した。
「そうですか...僕...母ちゃんに捨てられたんです。母ちゃん出て行ったんです。」
「そうですか...。」
「あの、でもいい事もあったんです。最後に連れて行ってくれた夕日の見える公園。手を繋いで歌を歌いながらみたんです!だけどその後母ちゃんを呼ぶ男の人が現れて母ちゃん待っててねって笑って...」
「その男性と消えてしまったのですね...」
「はい。」
沈黙がしばし流れてから僕は自分でも不思議なくらいわて子という謎のおばさんに語り始めていた。
「僕、それから恋できないんです。女性を二次元のキャラクターのはるちゃんって子にしかできないんです。はるちゃんはどこか母ちゃんに似てて...いつも世話焼きで料理上手でちょっと天然でなんというかほっておけないそんな女性なんです」
「そうですか...。それであなたはそのはるちゃんとやらと恋をしたいのですか?それともお母さんにしたいのですか?」
「へ?...恋はしていたけど...お母さんにするとは...年齢も明らかにはるちゃんのが若いですし...」
「あぁ...その辺は大丈夫ですよ?はるちゃんを若い頃のお母さんに設定して美人な美魔女にでもできますし。まぁ、皆さん大抵悩まれますから一度帰ってお考えになってみては?ご依頼の場合はまたこちらへ」と名刺を差し出された。
じぃちゃんから渡された名刺と一緒だ。
僕はその日席を立って一度帰ることにした。
にわかに信じがたいこの話をどうしたらいいのだろう。僕はその日くそじじいと珍しく夕食の間に話をしてみることにした。
「ねぇ、じぃちゃんのばぁちゃんってさ...どこにいるの?」僕はくそじじいに食事を運びながら再度記憶の糸を確認する。
「あぁ...ひどかったよな...事故で即死でな...その瞬間をじぃちゃん見ちゃってな記憶がおかしくなっちまってな。じぃちゃん必死で働いてなばぁちゃんの長年の夢とやらの世界一周旅行にいってるってずっと思ってんだよ...じぃちゃんは一緒に行きたかったらしいんだけどな...まだ会社もたてたばかりで忙しくてお金もそんなになかったからチケットひとつしかとってやれなかったって。自分が頑張ることでばぁちゃんが楽しめればいいっていってるうちに金持ちになったなぁ...月一くらいか?手紙のやり取りしてるって...まぁ良い記憶に変えちまったってところか...まぁなんでいきなり企業なんてし始めたのか謎...ってお前なんでいきなり?どうした?なっ!お前まさかばぁちゃんの話じぃちゃんにしてないだろうな!!!!」
親父はもの凄い剣幕で僕を怒鳴り散らした。
「してないよ!してないってば!まず知らなかったし。ばぁちゃんのこと覚えてないから!」
「あっそうか...お前まだ小さかったもんな...」
くそじじいとの話はそこで終わった。
僕は一晩はるちゃんの抱き枕を抱えながら
自分が本当に求めているものを必死に考えていた。
いつの間にか夜が明けた。
結局分からなかった...。
Twitter投票
選択肢
①はるちゃんを母にする
②はるちゃんをお嫁さんにする
③はるちゃんとの恋を諦めて今を生きる
二次元へ恋をした男②への投票を行います。
Twitter連携に伴い
@aya_NieR
@ayaniar3
へDMでの投票となります。
読者が選ぶ選択肢投票で物語が変わります。
それでは皆様、お待ちしております。
わて子。
endはあなた次第。読者進行形物語。裏家業代行します。10人と1匹が贈るどこでも代行サービス。END屋。 わて子 @ayanier73
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