第9話 喧嘩を売るなら堂々と
「ごめんなさい。不快な思いをさせました」
その日の夜、フローラから謝られた。
「あの人たちは、私の前の仲間です」
戦士2人と盗賊、アークウィザードのパーティーで、フローラとは意見が合うことがなかったという。
唯一の上級職であったフローラは、ウィザードにも関わらず、最前線が基本。詠唱の時ですら、後衛に下がったり、戦士の援護を受けることができず、単独での戦闘も多かった。
結果、フローラは足に大怪我を負い、パーティーを離脱。
治療をしている間、その知識から騎士団の特別研究員へ採用され、研究を続けていたが、あくまで元冒険者。研究所内でも、風当たりはひどいものだったらしい。
それはなんとなく、前に試験会場でも同じ気配を感じたので、わかる。中世ヨーロッパ。都市部の権力が関わるところで大事なのは能力よりも家柄だ。
「だから、一緒に厄介払いされたのか」
「自分で厄介というのはどうなのでしょう」
「事実でしょ。処刑されかけたのを処刑し返した奴が厄介者じゃない国イヤだよ」
「同感です」
「じゃあ、一番かわいそうなのはレイズってことだ」
きっとあの双子も騎士団で厄介者扱いだろう。つまり、レイズは厄介者×4を任されたということになる。なんてかわいそうに。
冗談交じりに笑って見せれば、フローラも小さく笑った。
ようやく笑った。
コミュニケーション能力が高いとは思ってないし、どちらかといえば、理系らしく苦手だ。ただ、この人からはなんだか前の世界の研究室の人たちと同じような気配を感じているのは、事実だ。
「正直に言って、貴方のことは好ましく思います」
「私もクール系ロリなら大好物です」
「はい?」
「なんでもないです。ごめんなさい」
つい本音が。
「歳は関係ないと思いますが、貴方と話しているとなんだか安心します」
「歳は大切だと思うけど、フローラまで私を20位だと思ってる?」
「そうですね。では、同い年で、22にしておきます」
うわー……同い年だぁ……
「ミハル。貴方はこの先どうしたいですか?」
一先ずやらかしの責任を取りに、ノイズという国でデストロイヤーについて調べて、王都へ報告しなければいけない。
その後ということだろうか。
「まだ考えてなかったなぁ……気が付いたら、こんなことになってるし。フローラは? 研究所に戻るの?」
「戻りたくないので、ミハルと冒険をしたいと言ったら、一緒に行ってくれますか?」
まるで告白のような表情と言葉。
あぁ、告白します。告白なんてしたこともないし、されたこともない。だから、なんていうか、何が一番言い返しなのかもわからず、言葉に詰まる。
言葉に詰まる私の耳に入ったのは、フローラの笑い声。
「冗談です。ミハルの未来を私のわがままで決めるわけにはいきませんから。
でも、貴方のような仲間と冒険ができたら、楽しかったでしょうね」
それは少し、反則な気がした。
***
「なぁ、お前、冒険者なんだろ? だったら、勝負しようぜ。その女がどれだけ役立たずか、優しい俺が、新人に教えてやるよ」
翌朝、性懲りもなく声をかけてきた、昨日の元フローラの仲間たち。
本当ならこんなの無視すればいい。無視すればいいが、
『貴方のような仲間と冒険ができたら、楽しかったでしょうね』
昨日のあんな顔見て、無視はできない。
「それはうれしいな。脳筋真っピンク脳の戦術なんて、かわいい女の子とせっせと子づくりして数年越しの人海戦術くらいしか思いつかないな!」
「テメェ……!!」
顔を真っ赤にさせて剣を抜こうとする男に、向けられる杖。
詠唱が終わっているフローラだ。
「役立たずなのでしょう? でしたら、どうぞ、剣を抜いてください。抜いた瞬間に貴方を焼きます」
「……おいおい。冒険者同士の勝負だぜ? モンスターの討伐数に決まってんだろ」
「日和ったな」
モンスターの討伐勝負。
本当にあいつらバカなのではないのだろうか。
人数差で勝てるつもりなのだろうか。こっちはふたり。あっちは四人っていう。
まぁ、私はチートだからな、向こうとしても規格外なのは理解しよう。ただ、ただ、だ。
広範囲攻撃の申し子のようなアークウィザード相手に討伐数?
しかも、自分たちは、ザ・近接タイプ。群れの中で乱戦になっている間に、巻き添えインフェルノされる危険を考えているのだろうか。こちらとしては、最高のシチュレーションだけど。
うん。やっぱり、脳筋なのだろう。
「討伐勝負ぅ?」
「なぜ、そんなことに」
「フローラをバカにするから、ちょっと痛い目見せてやろうと思って。すぐ終わるよ」
レイズは最初こそ納得していなかったが、フローラの名前を出せば、仕方ないと頷いた。この騎士様は、本当に心優しいらしい。仲間をバカにされて黙っていられるタイプではないようだ。
「しかし、我々は手を出すなということですが、ふたりだけでは……せめて、エメラル兄弟だけでも」
「あー……」
耳を貸せとジェスチャーすれば、四人共屈み、小声で作戦を伝えれば、引きつった表情で固まられた。
「それは……その」
「え、なに、ダメだった?」
「別にミハルが気にすることじゃねーと思うよ?」
「……少し優しすぎる気もしますが、ふたりがそれで構わないのであれば。受付をするのは初めてですよね。僕が付いていきますよ」
サファイアに教えてもらいながら、受付でクエストの受付をして、ギルドの外へ出れば、待っていたらしい奴らは、こちらをニヤつきながら見下ろしてくる。
「先輩冒険者として教えてやるよ。脳みそお花畑じゃ、勝てねェんだよ!」
「スティ――」
ギルドを出た瞬間、盗賊の女が何かのスキルを使おうとこちらに手を伸ばしてくるが、それよりも早く銃声が鳴り響いた。
容赦ない銃声は、四人の手足を撃ち抜き、地面に伏せさせる。
「テメェ……!! ズリィぞ!!」
「脳みそお花畑じゃ、勝てないんだろぉ? いやぁ、先輩の教え通りですね」
幼女らしからぬ悪魔のような笑みを携えたミハルは、フローラと共に双子に抱えあげられ、全力でその場から離れて行った。
「フローラ! 目くらまし!」
「――フラッシュ!」
眩い閃光にこちらを見上げていた四人が悲鳴を上げながら、悶える。
嵐のように去っていった五人に、血に伏した四人は目を覆いながら呻くことしかできなかった。
ようやく、目が開けられるようになった頃、開いたギルドの扉。
「あ、あの! 回復のポーションです!」
駆け出しと思われる子供の冒険者たちは、回復のポーションを四人へ使うと、そのままギルドへ戻り、受付嬢へ声をかけにいった。
「はい。確かに、クエスト完了です。お疲れさまでした」
「ど、どういうことだ!?」
「ミハルさんからのクエストで、外で倒れた四人組パーティーへ回復ポーションを届けろというものだったんです。条件は、13歳以下のパーティーに限るという条件でしたが、ちょうど条件に当てはまる人がいてよかったですね」
「そ、それって……」
元々、ミハルたちは所定のクエストを受けてはいなかった。
受付に行き、回復ポーションの代金とクエスト、依頼料を支払っていただけ。最初から、勝負する気すらなかった。
「あ、あ、あのクソアマぁぁぁあああ!!!」
男の叫びが響く頃、街の外でルビーに抱えられながら笑うミハルがいた。
「うんうん! よかったよかった!」
「今回は仕方ないですが、次回からは控えていただきたい」
「えー……あんなに嬉しそうに『はい! がんばります!』ってポーション大事に抱えた子たち、チョーかわいかったのに」
「え、そっち?」
「え、どっち?」
本気でわからないという顔のミハルに、ルビーは何度か目を瞬かせてしまう。
「ミハルはそういうところありますよね」
普通に考えて、それよりも大事なことがあった気がするが、サファイヤから降ろされているフローラを気遣ってのことだろうかと、レイズも言及するのをやめた。
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