第8話 かつての仲間

 銃声が鳴り響く。

 だいぶこの単発銃の使い方にも慣れてきたが、もう少し連射力がないと群れの撃ち漏らしが多い。


「ごめん! 撃ち漏らし多め! 2時方向フローラ、10時方向双子! 足の速い奴がいる! レイズ、フローラの援護!」


 空を飛べないモンスターなら、銃で浮いていれば安全だし、敵の分布も良く見える。自然と指示出しポジションになっていた。


「ん?」


 千里眼スキルが捕らえた、虎のようなキメラのようなそれ。

 地上で戦う四人を虎視眈々と狙っているように見えた。いや、フローラとレイズに一直線に向かってきた。


「ルビー! なんかヤバいの来た! 横っ腹殴れ! 一撃離脱!!」


 見た目からして、空は飛べなさそうだ。

 すぐにフローラたちの傍に単発銃を階段状に出現させれば、意味を理解したのか、駆け上がってくる。

 双子もそいつの横腹に一撃ずついれると、宙に浮かせた単発銃に捕まって、空へ持ち上げれば、こちらを見上げ唸り声をあげるそいつ。


「びっくりしたぁ……中級者殺しじゃん」

「なにそのまんまな名前」


 この世界のモンスター、ダジャレも多いが、そのまますぎることも多い。


「このままミハルが撃ち殺しますか?」

「ミスると全員落下だからヤダ。フローラの魔法で倒せる? 射程外ならギリギリのところまでなら近づくよ」

「可能です。もう少し高度を下げてもらえますか?」

「オッケー」


 フローラが合図するところまで高度を下げれば、中級者殺しが炎に巻かれた。


 中級者殺しを倒してから数時間。


「街だー!」


 王都を出てから初めての街だった。


「風呂入りたい」


 冒険者なのだから仕方ないのだが、毎日風呂に入る生活をしていた身としては、汗やら泥やらで汚れたのに風呂に入れない気持ち悪さったらない。


「では、ギルドに行きましょう」

「俺も――」

「私たちは先に騎士団に報告だ」


 サファイアは文句ありげな声を上げるが、こればかりは仕方ない。どちらにしても同性ではないのだから、風呂に一緒に入れるわけでもないとルビーに説得され、頬を膨らませながら、仕方ないと三人は騎士団に向かった。

 もう親と一緒に銭湯に入る年齢ではないんだけどなぁ。


***


 ギルドには、食事処はもちろん大浴場もある。何で汚れてるかもわからない冒険者を、宿屋も風呂場に入れたくはないと拒否されることもあるかららしい。

 三人を待つ間、掲示板を物色していれば、中級者殺し討伐クエストが貼ってあった。


「これって、さっき倒したやつ?」

「え!? 倒されたんですか!?」


 フローラに聞いたつもりが、ギルドの受付嬢が驚いたようにやってきた。フローラが頷けば、冒険者カードを見せてほしいと言われ、見せれば、受付嬢は驚いたように声を上げると、掲示板からいくつか依頼書を引き剥がすと、腕を引いて受付まで連れていかれた。


「おふたりのカードから読み取るに、この討伐クエストを完了しているようですので、報酬をお支払いします」

「あと出しでもいいの?」

「契約金などが発生しないので、本来の価格よりは低くなりますが、討伐報酬そのものはお支払いすることになっています」

「マジで!? じゃあ、あの三人も連れてこよう」

「残念ですが、あの三人は正規の騎士団なので、報酬はもらえません」


 騎士団はあくまで国の防衛のために雇われているため、給金が支払われている。そのため、どれだけモンスターを討伐しても、討伐数に応じた報酬はもらえないらしい。

 フローラはあくまで特別研究員のため、報酬をもらってはいけないことにはなっていないという。もし、騎士団に誘われても、特別研究員になろう。


「おいしいもの食べよう!」


 どうせあぶく銭だ。フローラに伝えれば、頷き返された。


「誰かと思えば、役立たずのフローラじゃないか。なんだ。騎士団に入ったって聞いたが、もうガキまで作ったのか。よかったな。傷物女でも貰ってくれるもの好きがいてさ」


 会って早々三流チンピラみたいな絡みされているフローラは、心底嫌そうな表情で視線を逸らした。どうやら本当に知り合いらしい。

 知り合いというなら、変に間に入っては悪いかと、様子を見れば、相手は冒険者の男で、戦士ってところの装備。もうひとりいるガタイのいい男は、大きな盾を持ってるし、タンクってところだろうか。もう一人はあからさまに拳闘士って感じで、後ろに控えている軽装の女の職業は……なんだろうか。わからない。


「貴方たちも相変わらずですね」

「そうでもないさ。上級職だっていうのに、使えなかった上に小言を言うアークウィザード様がいなくなって、代わりに入ってくれた拳闘士は本当に使えるおかげで、うまくいってるよ」

「それはよかったですね」

「……あぁ! 本当に! 詠唱中は守れだのいうアークウィザード様よっぽどいい奴だよ!」

「え゛」


 おっと。つい声が漏れてしまった。

 だって、そうだろう。ウィザードが詠唱中に守れっていうのは普通というか、守らない選択肢があったのに驚きだ。


「あ゛? なんか文句あんのか? 言えるもんなら言ってみろよ」


 冒険者は荒れくれ者と呼ばれるが、確かにこれは荒れくれ者だ。ある意味チンピラというか。

 しかし、この状況、喧嘩を買っていいものか。せっかく、街について少し落ち着けるのに、この喧嘩を買ったらそれすら出来なさそうだ。

 久々のベッドの誘惑は、それほどに大きい。ごめん。フローラ。


「ブルって黙るなら、最初からナマ言ってんじゃねェよ。ほら、泣いてママ助けてって泣きついていいぜ?」

「アハッいいじゃん。ママ、ママって泣けよ」

「そうですね。言えるものなら、言ってみてください」

「――ッ!!」


 耳元で返される言葉と、後頭部を握りつぶさんとする握力に、男は青い顔で双子に振り返る。


「どうしました?」

「ブルって黙るなら、最初からナマ言ってんじゃねェよ」


 同じ言葉を返したサファイアに、本格的に顔を青く染め始めた男に、レイズが慌てて双子を止めた。


「まったく……少し目を離したらこれだ」

「なんで俺らが説教なんだよ。ふたりが絡まれてたの助けたんじゃん。褒められてよくね?」


 確かに、喧嘩を治めたといえば、収めたのは事実なのだから、礼はすべきだろう。ちょうど臨時報酬もあることだし。

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