第5話 娘の最大セコム
手錠は外され、不機嫌そうにお茶に口をつける少女。
目の前には、きれいに完食された皿。
「おいしかった?」
「おいしかったです。ごちそうさまでした」
しっかりと手を合わせて答えれば、嬉しそうに笑う男。サファイヤといって、騎士団らしい。
そして、隣に座るのは、双子の兄であるルビー。同じく騎士団。
「よかった! 食後のデザートはいる?」
質問の途中で、すでに取りに向かっていては断る隙もない。
「では、お腹も満たされたところで、話を戻しましょうか」
「別にお腹が減ってたから、イライラしてたわけじゃないけど」
あの後、なぜかすぐに来た騎士団のアークプリーストによって、その場にいた怪我人はすぐにヒールかけられ、一命を取り留めたらしい。
しかし、人も多く、未だ完治に至っていない人も多い。
「あの裁判は不当なものと判断されましたが、さすがにアレでは、こちらとしても、手放しで無罪とは言えません」
「一種の正当防衛では?」
「一応、その方面で話は進めていますが、それには貴方が本当は善人であることを証明しなければいけません」
「うーん……難しいんじゃないかな! 私はまともだけど、それでも善人って認められるのって別件だし」
悪人だって善人と言われるし、人間の根底がわかるわけでもないから、結局のところ、善悪の判断って難しい。
「今の発言で、とても難しいことを理解しました。
しかし、僕たちも貴方が処罰されるのを黙ってみているわけにはいきません」
困ったような笑顔から、優しい微笑みに代わる。
もしかして、
「そうそう。命の恩人だもんね。ミハルは」
申し訳ありませんでした。
しかし、命の恩人? それこそ、覚えがない。
「忘れちゃった? まぁ、暗かったしねぇ」
「暗かった?」
暗くて、命のかかりそうなもの。
つい先日にあった、ブラッドファングの襲撃ぐらいしか覚えがない。
「そのブラッドファングに襲われていたのが、俺たち。さすがに、数が多くて、回復ポーションもなくなったから、死ぬなぁって思ってたら、急に炎が降ってきてさ」
「あぁ……」
あの影、本当に人だったらしい。
「見たこともない武器でしたから、すぐにわかりました」
銃なんてまだこの世界には生まれてないし、確かにわかりやすすぎる特徴だ。
「今、ミハルの処遇は騎士団持ちになっています。おそらく、何かしらのペナルティが課せられるかと思われます」
「なんかの討伐とかね」
「討伐、ね」
「なんの任務でも俺らも一緒に行くから安心していいよ」
「そもそも、討伐って、ありなのかなって」
「どういうこと?」
「年齢制限でギルド断られてるんだよ? 私」
そんな子供に、討伐のペナルティっていうのは、騎士団倫理的にいかがなものなのだろうか。
そういえば、ふたりは目を何度か瞬かせる。
「同い年くらいじゃねーの……? チビの内に成長の止まったんじゃ……」
「ミハル、失礼ですが、歳は……」
「本当に失礼だな。一応、10、のはずだけど」
あの女神がちゃんとしてるなら。
驚いた表情でフリーズするふたり。そんなか。鏡で見たことあるけど、ちゃんと子供だったぞ。外見は。
「……お前何歳だよ」
「「20」」
あ、一個違い。
軟禁生活も別に牢屋でもなければ、窓は嵌め殺しで脱走防止策は取られているが、欲しいものの大半はあの鉱石兄弟が持ってきてくれるため、全く苦ではない。
最近は、レンガの接着部を金属の尖ったので削ればうまく外れるのではないか? という仮説を暇つぶしに実験している。
「ん? はぁーい」
ノックに返事をすれば、現れた少し髪の伸びた妹ちゃん。
「やだかわいい」
「へ!?」
「どうしたの? どうぞ座って。コーヒー? ココア? 紅茶? お菓子もあるよ」
妹ちゃんは戸惑ったように座ると、紅茶と答えた。
妹ちゃんと同じ数だけ砂糖とミルクを淹れた甘ったるい紅茶とお菓子を食べる。
「私のこと、気にしてくださっていたと聞いて……無事のご報告を、しに参りました」
「律儀だね。あの時だって、騎士団に伝えてくれたの、君なんでしょ? ありがとう」
それは鉱石兄弟から聞いた。
自分のせいで、私が処刑されそうになっていると。運が良かったのは、それがたまたま前に助けた鉱石兄弟だったことだ。他では、あの事件には間に合わなかっただろうと言われている。
「い、いえ……そんな」
恥じらって、俯く姿は素晴らしい。
これはもう一生のお友達ルート可能では? 初々しい妹ちゃんムーブがずっと隣に――
「だから、これっきりにしてほしいって、お父様が」
何事もお父様とやらは、娘関係の最大の障害になるらしい。
「賄賂?」
「違います!!」
「すごく仕事のできる将来性のある人間ですって見せつければいいの?」
どうしよう。あの顔は完全にダメな顔だ。
結局、完全にダメな顔したまま妹ちゃんは帰ってしまった。
「ミハルーちょっと今からギル――どうしたの?」
「失恋」
机に突っ伏して不貞腐れている私に、サファイアは困ったような声を上げながら、半分以上余った紅茶に口をつけ、舌を出した。
「甘っ……ミハル、ストレート派だよね?」
「うっさい。コーヒーブラックちょうだい」
「……はいはい」
なぜか頭を撫でながら、紅茶を一気に煽ると、コーヒーを淹れに向かった。
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