第4話 少女。ブチギレ
拝啓 お母さま。
昔から、人と違うことを受け入れなさい。拒絶してはいけないと言っていましたね。その言葉を胸に、わりとストライクゾーンは広く、NGワード少なく、何事にも興味を持ってきましたが、残念なことに、一度目はムカつく教授たちへの報復、二度目は語彙と愛が足りない貴族への報復によって、命を落とすようです。
「被告! 聞いているのか!?」
手錠をつけられるのは初めてだが、ささくれてて痛い。
「実技試験の最中なら不慮の事故だと思いまーす」
「アレが不慮の事故だと!?」
「事故だよ。事故。普通は、腹に心臓、頭は撃っておくものだよ? その方が確実に死ぬから」
鎧は鎧としての働きをして、主だけは守り切った。それでも大怪我だったが、この世界の治癒魔法である回復していた。
「だけど、頭に何も入ってないんだから、無駄弾になるからもったいなくてね」
「その発言は故意であると捉えますが、よろしいですか?」
「優しく慈悲深いと捉えてください」
「なっ……! 狂ってんのか!? 気味の悪い魔法を使いやがって、魔王軍の手先じゃないのか!?」
その魔王軍を倒すためにもらった力だけどな。
貴族の、結構上流だったらしいお兄様とやらは、私のような転生者で身寄りのない田舎者を処刑するだけの力は持っていたらしい。全くもって中世ヨーロッパだ。
「あんな魔法見たことがない! 魔王軍だ! 殺せ! 殺せ!!」
それにしても、庶民の娯楽の少なかった中世は、人の処刑が見世物だったといわれていたが。
なるほど、当事者になってみるとこの熱量。確かに、当事者じゃなければ、ガ〇使気分で見れるわけだ。
「そうだそうだ! 殺せ!」
タイキックが首つりじゃぁ、毎年恒例とはいえ、彼も顔を真っ青にして逃げる。
しかし、シスターがこのことを聞いたら、さすがに悪い。ウィズとかも、協力してもらったのに。
この世界の処刑がいくつあるかなんて知らないが、この調子ならそれなりに行われている内のひとつ程度にはなるだろうか。
昔から、変人奇人のオンパレード。血液型当てゲームは、AB型は基本。血が通ってないだの、緑だの言われる私ではあるが、
「その処刑待った!!」
突然駆け込んできたのは、貴族と同じくらい質のいい衣服を着ている顔の似た男たち。
それより、その後ろにいるのは、あの妹ちゃんだ。
「あ、髪整えてもらったんだ。うん。かわいい」
私が整えるより、百倍きれいに揃えられている。
手を振れば、びっくりしたように肩を震わせられた。何故?
「この処刑は不当なものと思われます。なにより彼女をここで殺すのは、ベルゼルグ王国ひいてはこの世界の大きな損失になる可能性があります」
「何をバカげたことを」
「なに? 脳みそまで剥げてんの?」
「サファイヤ。本当の事でも、時と場合を考えてください」
「いや、お前も言ってるからね」
裁判長が困った顔をしている。
「おい! なにをぐずぐずしてる!! とっととそいつを殺せ!」
貴族には逆らえないのか、槍の先で突かれ、台の上へ上がる。
「ま、待って! 待ってください! お兄様!」
庇ってくれてる? 好感度爆上がりしたか? あ、いや、さっきの反応は……いやいやいや、落ち着け。状況証拠だけ見れば、あの処刑を止めているふたりを呼んできたのは妹ちゃんで、今もこうして抗議してくれている。
やはり、好感度爆上がりしたのでは?
首にかけられる縄。
「ぁあ? あぁ、そうだった。元はといえば、お前のせいだったな! この魔王軍を引き入れたのは!」
何を言っているんだ? あいつは。
「なら、同罪だ! あいつを殺した後、テメェも処刑だ!!」
足元が開き、重力に従い体が落ちていく。
熱くなった会場が、冷や水を浴びたように凍えたのを感じる。
「本当に空っぽな頭だな。鉛弾を詰め込んだ方がマシなんじゃないか? なんだったら提供して差し上げましょうか?」
考えて見て欲しい。このチート銃は空に浮く。
絞首刑なんて、足元に銃出せば簡単に生存可能だ。せめて斬首だろう。見たくせに、その可能性すら忘れるなんて、なにより、
「私が死んだら、その子を処刑するって、どういう了見だ?」
首の縄を外し、兄を見下ろせば、青い顔でこちらを見上げている。
「妹ちゃんの好感度確認のために優しく待ってやれば、結局これか。
あぁ、ダメな子でもほめて伸ばせだったか。だったら、よくやりきった! だから、私も思うがままにやりきってやるよ!」
周りに銃を浮かび上がらせる。
「今すぐにこの場にいる全員を皆殺しにして、魔王城に辿り着くまでの街という街を襲撃して、その首を土産に、魔王と友達になりに行ってやる!」
「ま、待て!! 話し合おう!」
「決議は落とされた」
「まっ――」
「残業はお断りだ」
のちに王都に轟く大事件の火蓋が切られた。
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