第3話 それだけは許さん

 もう受験なんてすると思ってなかったが、まさか異世界で受験をすることになるとは。まぁ、ウィズとか、女の子たちに応援されたこともあるし、頑張れるところまではがんばってみようかと、馬車で物思いに耽っていた。


「うわぁぁああ!!」


 野営の中、子供だからと馬車を使わせてもらっていたが、トラブルらしい。

 一応、護衛として冒険者がついているため、窓から離れて待っていれば大丈夫だろう。


「ブラッドファングだァ!!」


 馬車の中へ飛び込んでくるのせいで、馬車が揺れるが、一番は涎を垂らして飛び乗ってきた狼、ブラッドファングとやらだろう。

 木に突き立てられる爪の音。声も出せず、頭を抱えて座り込む大人たち。

 子供を守れとは言わないが、実際、野生動物に襲われた時だって、戦おうとする人よりも我先に逃げる人の方が圧倒的に多い。少なくとも、この人たちはすでに逃げてきた人だし。


 ひとつの馬車から、連続した爆音が響き、驚いたブラッドファングたちは、慌てて退散していった。


「まったく……夜だけど、これ、動いた方がいいんですよね?」


 御者に聞けば、動きたいのは山々だが、近くに別の群れがあり、それのせいで動けないという。


「…………はぁ」


 仕方ない。

 松明を一本借りて、銃に腰掛けて飛び上がる。


 御者の言う通り、近くにもうひとつの群れが興奮した様子でいた。なにかと戦っているらしい。

 モンスター同士の縄張り争いだろうか。安全のために、高めに飛んでいたせいで、松明の明かりも届かず、月明かりだけでは、見にくいったらない。

 仕方なく、争いの中心点に松明を放り投げた。

 大量の銃を前面に展開し、松明の明かりが地上に届き、その影が見えた瞬間、小さな影に向かって、無数の銃声を響かせる。


 静かになった平原で、座り込む影以外はなくなっていた。

 投げた松明は、すっかり消えてしまって、下に残っている人とよく似たシルエットだったものは、れっきとした人間かは不明。


「ま、狼がいないなら、動くしいいか」


 君主危うきに近づかずだ。


***


 そうこうして、辿り着いた王都。

 シスターのメモ通り、研究所所属の学校へ向かえば、その見た目から眉を潜められた。やはりというか、貴族ばかりで、身なりもしっかり整っている。場違い感すごい。帰りたい。

 試験は、筆記と実技。

 年齢制限はないが、本来もっと年を取ってからくるものらしく、同じくらいの年齢がいない。さみしい。帰りたい。


「うーん……無理!」


 筆記試験は、正直無理だった。

 そりゃ、元の世界の知識が使えるものもあるが、ポーションとか魔法薬とか知るか。

 あとは実技だが、チートを使えば、勝てなくはないだろうが、ここはあくまで学校。しかも、研究所所属だ。そこに不思議チート武器を持った人間が来た。

 宇宙人(確信)


「よし。正々堂々と勝負しよう」


 宇宙人はやだ。


「お兄様……! その、これ。がんばってください」


 どうやら対戦相手の妹らしい子が、もじもじしながらナイフを差し出している。

 うーん。かわいい。

 いじらしいところとか最高。


「うるせぇ」


 しかし、ナイフは受け取られず、妹は殴られている。


「お前はなんだ? 俺が、あんな、田舎のガキに、負けると、思ってんのか!?」


 髪の色や瞳が違う辺り、どうやら複雑な家庭環境らしい。謝っている妹に、容赦なく殴り続ける兄。

 女の子が関われば、バッド、メリバ、ハッピーなんでもおいしく頂ける質なので、なんでもいいが。


「聞いてんのか!? ブス!!」


 許さないことがあるとするなら、”ブス”という語彙の欠片もない罵りだ。

 女の子はかわいいし、罵るにしても、知識を総動員した罵りをすべきだ。


「ごめ……! ごめんなさい……!」

「謝る必要なんてないよ。ねぇ? お兄様」


 落ちたナイフを拾い、兄に掴まれている妹の髪を切る。


「ぇ」


 丸く見開かれた目が4つ、こちらを見つめる。

 妹の体へ腕を回しながら、空中に現わせた銃に、兄は身を引くが、時代遅れの頭では、身を引くより頭を下げる方が先決であるということを理解できないのだろう。

 あぁ、かわいそうに。


 静まり返った会場。


「あ、髪整えてあげるね」


 楽し気なミハルの声だけが響いた。

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