第2話 お友達ができました

 魔道具店。

 本来、ギルドに所属しているか、騎士団に所属していなければ、基本的に用がなく、危険なものを扱うため、出入りが禁止されていることもある。


「……全く、ギルドといい、この体、女の子には近づけるけど、ファンタジー体験には不向きだな」


 RPGでロリキャラって、なにかしら力を持っていたり、貴族の姫だったり、そもそも物語の発端のやらかしをしていたり、そういうのが無いと倫理的にアウトっていうのは、向こうの規制かと思ってた。

 それでいうなら、一応、チート能力はもらっているのだが。


「ん?」


 鼻息の荒いおっさんが、窓を覗き込みながら、お取込み中らしい。

 いくら路地裏とはいえ、真昼間だぞ。

 というか、この倫理観で、倫理規定でアウトですって、どういう了見だ。


「ウィズ魔道具店……?」


 そのおかずになっている大層かわいいであろう店員のいる店は、どうやら魔道具店らしい。

 ちょうどいい。入ってみるか。


「いらっしゃいませー」


 マジで美人。胸デカイ。ゆるふわガール。


「あら、お使いですか?」


 意外にも、すぐに追い出すってわけじゃないらしい。首を横に振れば、特に気にした様子もなく、何を探しているのかと聞かれる。

 魔道具店にも、ほぼ雑貨屋みたいなのもあって、そっちは子供が入っても何も言われない。


「ポーション」


 しかし、これを言えば、ほとんど無理だと断られる。


「ポーションですか……?」

「うん。爆発するポーション」

「えっと、どうしてそれが欲しいんですか?」


 案外話が分かってくれる店員らしい。


「魔物とか、ジャイアントトードを倒せるように」

「どこかで繁殖してるって話は聞いてませんが、ギルドに相談しては? 今すぐってことでしたら、私が一緒に行きますよ。これでも、元冒険者ですからお力になれるかと」

「そうなの? わか、若い……? のに、怪我、でも、したの?」


 なぜだろう。素直に若いって言葉が出てこなかった。

 落ち着け。これは、たぶん年齢が体に引っ張られてるんだ。体年齢は二倍くらいだろうし。


「でも、昔ほどじゃなくても、ちゃんと魔法は使えますよ!」

「そうなんだ。ありがとう。でも、襲われてるってことじゃなくて、できるだけ簡単に魔物を倒せるようにしておきたいってだけなんだ。できれば、トラップみたいにして、安全に」


 そういえば、不思議そうな顔でこちらを見下ろす店員。


「魔物除けのようなものってことですか?」

「うーん……それでもいいんだけど、教会はアクセルの中だし、外で狩りができるくらいの奴」

「あ、もしかして」


 店員が言うには、最近ギルドで話題になっている魔物を軽々と倒す少女の噂があるらしい。この街には、時折、ものすごく強い人が現れては、魔王討伐に向かうという。

 チート持ちの日本人ですね。


「爆発のポーションを使ってたんですか?」

「いや、私がいるならいいんだけど」

「いるならってことは、どこかに行く予定が?」


 店員の言う通り、予定がある。

 それは、突然、シスターに告げられたこと。王都にいかないかと。

 なんでも王都で、将来有望な子供を集めて、研究所所属の学校に通わせようという試みがあるらしい。入学には試験があるため、受かるのは貴族ばかりだろう。だが、きっと受かるからと、ただでさえ少ない金を集めて、往復代と試験代を用意されていた。


「今は、腹いっぱいに食べられて、毎日洗濯した服を着れるし、この数日で多めに稼いだところで、いつかは底をつく。それなら、供給を確立した方がいい」


 毎日じゃなくても1週間に一回でもいい。

 そうすれば、教会ごと飢えることもない。


「と思って――」


 何か言いたそうな店員に、何かまずいことを言ったかと、口を閉じ、今までの言葉を思い出す。

 言ってることが10歳染みてないってこと以外は、特に問題ないはずだ。うん。ない、はず。……たぶん。


「素晴らしい考えです!」

「へ……?」

「そういうことであれば、私も協力します! でも、爆発ポーションは危険なので、ダメです。魔獣も1週間飲まず食わずでは餓死するので、拘束トラップはどうでしょう? 周りには、魔獣除けをつければ、横取りされることも少ないでしょうし」

「なるほど。餓死させてる間に、腹の中もきれいになるし、手軽さに欠けるところだけは、安全面では、ありか……」


 狙う魔獣の大きさにもよるが。


「取れる肉が少ないから、食料としての価値より、素材としての価値の方が高そうだな。それも、粗悪よりになりそうだけど……」


 爆散したのを集めるよりいいか。

 この店員、ウィズとトラップについて話し合い、格安で提供してもらうことを約束する。


「ミハルさんは、試験を受けに行くだけですよね? とりあえず、戻って来られるまでの間でしたら、私が直接手伝うというのも可能ですが」

「それは悪いよ。落ちても、しばらくは戻ってくるつもりないし」

「え……」

「シスターは不合格でも戻って来れるように往復の金額用意したっていうけど、明らかに多かったし、受かったら余った金を使えって」


 嫌味を言うわけでも、怒るわけでもなく、善意と信頼だけで語る人は、正直、覚えがない。どいつもこいつも、できるだろ、できないお前が悪いとか、最後は自分の功績みたいに発表して。


「だから、片道の金だけもらって、王都でどうにか主席合格したから、学費もいらないって手紙を出す予定。あ、そうだ。ウィズ、手紙くれない? かっこいい感じの。あとは出すだけにしていこうかと思ってさ」


 かわいい女の子たちが見れなくなるのは悲しすぎるが、シスターへの貸しは、これで返せるだろう。


「ダメです」


 しかし、ウィズは悲し気に眉を下げていた。


「ミハルさんの気持ちはわかりました。だけど、手紙は渡せません。きっと受かります。受ける前から、落ちるなんて縁起が悪いじゃないですか」

「……それもそっか」


 この世界数ヶ月の人間が受かるとは思えないがな。


「はい! 本当のいい知らせ待ってます。友人として」

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