第36話 賢者への願い
「このVTRは未来の僕から送られてきた。同時に送られた証明データも確認したが、彼、未来の僕が言っている事は本当だと確信した」
僕が見せた未来かたのメッセージに咲恋は、驚きで大きな声で聞き返す。
「地球外生命体から宇宙を動かす力を得て、地球を破壊するって……狂っている、そんなのどうかしている! そんな事をサラリと言われても、どうやって納得したらいいのよ!」
僕の理解不能の理論に咲恋はいつも振り回される。でも、今回のはいくら何でもあんまりだと思ってるようだ。
「地球外生命体って、奇妙な姿をしているの?」
「いや、姿は人間に似ている。外見の区別はつかない。姿はあんまり関係ないな。生物としての成り立ちが人類と違っている」
「人間を操って、世界を制服する気なんでしょう? その宇宙人」
「あのね、なんで咲恋は直ぐに、スペクタルな考え方になるわけ?」
「だって、宇宙人ってそうゆうもんでしょう?」
「……えーと、何から話そうかな。今から二十年前アラスカに、未確認の飛行物体が墜落した」
「ほらきた! 墜落した飛行物体は破壊され! 地上には存在しない生物の死体が転がる! ただ一人だけの生存者を残して!…みたいな」
「……良くわかるな」
「Xファイルとか、イベントとか見てる」
テレビドラマね。まあ、正解ではないがそんな感じだ。
「咲恋は宇宙人ネタには食いつきがいいな。発見された地球外生命体は、なぜか人間そっくりだった。だがすぐに奇妙な事に皆が気がつく。初めて発見した軍の兵士は、彼を確保したと報告した。だが、研究所で身体を調べた僕の知り合いは、彼女の検査報告を出してきた」
「どういう事?」
咲恋は首をひねった。
「見る人により、違った姿に見えるらしい」
「ええ? なんでそんな事が起こるの?」
「その生物は、接する人間が思う姿を見せる能力がある」
好きな人を思っていれば、恋人に見える、母が恋しければ、お母さんに見える。
本人そっくりとはいかないが、イメージが共通化される。物理的にそっくりというわけではなく、接する人間の感じ方に沿っていた。
「人間の感じ方かな? 人のイメージを表現するって事なの?」
「僕ら人間も、見る人によって、印象は全く違うだろ?」
「そうね……でも、印象だけよ。一つの生物が人によって、違う人物に見えるって……」
「その生物は人の内観を感じ、操る力を持っている」
「内観を感じる力?」
「人が刺激や推考ではなく、ただ、そうだ、と感じる主観的体験が伴う質感」
「それで……その宇宙人を粒斗は欲しがった、でも軍隊が管理してたのよね?」
「地球外生命体は、事故で外へ逃げだし処分された事になる」
「ええ、なんで? 世紀の大発見でしょう?……あ、もしかして、粒斗が手を回して逃がしたの?」
「うん、ちょっと軍と取引した。そして手に入れたんだ彼女を。その結果、世界の破壊計画は一気に進む事になる。同時に彼女を得た事により、世界を救う事ができる可能性が出てきた。世界の人々が争うのは、価値観の違いが大きい。肌の色、宗教、言語、文化に対して人々は違う感じを持つ。内観を統一出来れば、偏見が無い世界が実現出来る。強力な力を求めない統一された認識を人類に持たすんだ。人の内観を変えられたら、どんな兵器が完成しても使われる事はない」
「えらく自信がある発言ね。それでその宇宙人の解明は終わったの?」
「終わったよ。だから君を呼んだ」
「その宇宙人はどうするの?」
「この世界には置いておけない。もし他の者がその能力を解明すれば、すべて無駄になる。統一された内観を変えられると困るからね」
「じゃあ……殺すのね」
「……そう。でも僕に見える彼女の姿はよく知っている者なんだ」
「それは誰なの?」
「それは……ごめん、これは話せない」
とても信じられない計画を告げらた咲恋。
しばらく黙っていたが、冷静に静かに話し始めた。
「そんな事出来る筈ない……いいえ、あなたは出来ない事は言わないわね」
僕はその二つを行う事は可能だと思っていた。
だが愚か者である僕は、その結果、何が起こるかを完全に保証は出来ない。
そして客観的に正解かどうか判断できないだろう。
「僕はただのバカだ。君のように身の丈を越える事をしないのが本当の賢者。そして時空粒斗は最後の責任を知り合いの賢者に、任せようとしている」
「私に何を期待しているの? そんな途方もない話。私は何の役にも立たないわ」
ドキッとした咲恋が真顔で僕の手を握ったからだ。
「なぜなの? 未来を知っているからこそ、あなたこそより良い方向へ導けるのではないの?」
「逆だよ。未来を知った僕は、人を優先して守ろうとするだろう」
「人を守るのは……あたりまえでしょう?」
「地球の生存が優先だ。人間が滅ぶべきシナリオの選択もあり得るんだ。世界を破滅させる原因が人間で、どうしても変える事が出来ないなら、僕は人を滅ぼす……でも、そうならないように、内観の共通化を行うんだ。そして……最悪、やり直す為に、特定時間を削り出してバックアップをつくる」
「つまり、正しい世界になったかどうかを、私に判断しろと?」
咲恋はいつものどおり、僕の理論を受け入れてくれたようだ。
「そうだ、その結果が期待値と違った場合は、削られた世界のバックアップからやり直す、その時に僕を呼び戻して欲しい。僕は実験開始後に、世界に干渉できないよう記憶を消して、この世界から存在を消す。記憶を戻すサインは咲恋に教えておくが、それを使うのは、ロールバックが必要な時だけにして欲しい」
僕は握る手を振りほどいて立ち上がり窓際へ移動した。
「バカ粒斗、何を言っているの? そんなのダメよ……あなたに逢えなくなる、粒斗に触れられなくなる」
咲恋は悲しそうな表情を見せる。
「ありがとう咲恋。僕の事を想ってくれて。君が怒り僕が説明する……そんな楽しい時間も、これが最後になる」
僕は目を伏せる彼女に笑いかけた。
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