第35話 未来からのレター
「でも私にとっては、大人になって粒斗は近づきにくくなったわ。世界中の有名人と話すあなたを、ニュースとか本で見た。そして忖度した。私みたいな平凡な女が、お気楽に声かけていいものかと」
前から僕に会えたら言いたいと計画していたようだ。
「そんな事を考えていたのか……ばかばかしい」
「ばかばかしい……じゃない! 私はずっと、あなたと話したかったのに……どんどん遠くなって」
「物理的な距離なら、僕は外国へ行ったりしてたから、そうかもしれないけどね。咲恋と距離は変わってないよ……まったく賢い君らしくない」
「賢い私が? 懸命に勉強して、あなたに家庭教師までしてもらって、やっとこの大学に入って、あなたの入ったゼミに、無理矢理参加して単位も取れなかった。あなたにもゼミで一緒にいた事さえ、覚えてもらえてなくて。そんな私が賢い?」
「咲恋……君のように周りを見て、自分との距離を考え、自分を抑制しても、世の中の流れを乱さない。世界の安定は君のような賢い人が実現し得るものだ。僕は好きな事をやりたいだけやって、その結果がどうなるかなんて、今まで考えもしなかった。ここで君と毎日顔を合わせていたのに、それさえ覚えていない。そんな僕が賢いわけない」
「だって……粒斗は有名人で、完璧な理性とユーモアも持っていて、百年の一度の真のジーニアス」
「そのフレーズは聞き飽きたけど……何で見た?」
「タイムズ……」
「ほらね! そんなのはイメージなんだよ。百年に一人の天才なんてフレーズはありきたりだ。本当に君は、本に書かれているように、僕がそんな人間だと思っているの?」
「だって……日本のアイドルとか、アメリカの女優と……仲良く写真に写ったりして、すごく嬉しそう……噂になっていたでしょう! すごく綺麗で、スタイルも良くて、私なんかあの子と比べものにもならない!」
「アハハ、そんなゴシップ記事を気にしていたのか? いいね、やっとエンジンが掛かってきた。咲恋らしい」
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そろそろ大学の午後の授業が終わる時間。私と粒斗にもチャイムが響く。
でも咲恋はあり得ない僕の話に興奮しチャイムの音なんか聞こえていなかった。
「序章は空を飛ぶ僕が見た青い空から始まっていたんだ。僕は研究を進める為に砂漠にある軍の施設に行くことになる。君と一緒にね……説明じゃ分かりにくいか……じゃあ、未来の僕からのレターを見てもらおう」
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「世界が終わる」その時に、その場所にいた事。 でも、それは些細な事だ。
僕のいる衛星も揺れが激しさを増す。昨日より今日、そして明日へとこの地球の崩壊は避けられない。偶然、そんな言葉では済ませない、多くの実験と悪意がこの世界を人間だけが住みやすく変えてきた。
僕もその片棒を担ぐ、世間様では天才科学者と呼ばれている。
「世界を変える」との評価がつくくるらいに。
まったく新しい、いや、千年も前に書かれた科学小説に書かれていた宇宙を包む物質と力の解明に成功した。ブラックパワーだ。
当初、ブラックパワーは人間には感知できず、存在は認められていたが、利用する事などでできなかった、見ることも触れることもできない宇宙の力。
しかし、彼女は違った。
砂漠の秘密基地に収容されていた、地球外生命体は人間の内観と同化するだけではなく、全ての見方と考え方が人類とは違っていた。
彼女はブラックパワーを捉え、利用する事が当たり前に出来ていた。
軍は彼女の乗っていた宇宙船の構造に頭を抱えた、ブラックパワーを使って飛ぶ船はあまりに異質で……幼い人類に少しの回答も与えてくれない。
そこで僕が呼ばれた。
の句は彼女の人間との内観の同調の力を使い、人として初めてブラックパワーを感じた。地球の諸問題、飢えや貧困の全てが、無尽蔵の宇宙の力によりすべて解消されて、素晴らしい新世紀が始まる。
だが現実は世界中の大国がリーダシップを取るために僕の理論の実験を開始した。
彼女と内観を同化していない人間達の実は危険性は大きく、僕も反対したが大した抑止力にはならなかった。
ブラックパワーを使った化学的な実験は、いかんなくその力を見せ、地球自身の構造を変革した。
ブラックパワーは核や化石燃料の燃やして熱を得るのとはまったく違う。
たとえるのが難しいが、大河の水の流れに似ている。河の水はそれ自身エネルギーを持たないが、大河の流れはとてつもない力を秘めている。
僕はブラックパワーの大河から小さな支流を引き込む事に成功し論文で発表した。
その結果、実験と称して各々勝手に支流を引き込んだ為に、小さな流れはお互いに干渉し、一本の河に姿を変えた。もはや人間の小さな力では激流を止める事はできない。
急激に流れ込んだブラックパワー、認識する事はないし人間に直接影響を与えるものではない。それも対応が遅れた原因の一つ。
僕には地球に流れ込むパワーが感じられた。そして地球自身の完全な崩壊が待っていると。
地球が消えた後も流れは止まらず、数万年で太陽系を数億年で銀河を消し去るだろう。
でも、それで終われば御の字かもしれない。
頭が良いと自分だけ思っている猿は原子力を使った。
そしてブラックパワー。
まったくコントロールできない怪物を僕は新たに生み出した。
さて、これを見ている君、世界は滅ぶ確実にね。
だから君は。時空粒斗は責任を取らなければいけない。
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