第34話 僕の好きな彼女
その時、彼女はとても緊張していた。
突然呼び出されたのは、大学の僕の部屋だった。
この大学は理数系で国内トップの学校、たくさん博士を生み出している。
その為、文系の彼女では受かる可能性は低かった。
でも、どうしても、この大学に入りたいという彼女は、大きな努力してなんとか入学する事ができた、家庭教師をした僕にも感謝していているみたいだ。
彼女が卒業して五年以上が経ってから、訪れたキャンパス。
建物は古くなっても、ここには少しも色褪せていない。あの頃の思い出があった。
「粒人教授……学生の時は、ここで教授と共にゼミを受けましたね」
「そうだったけ? 君もここのゼミに参加していた?」
「やっぱり、覚えてなかった。ふふ。それもあなたらしいけど」
「僕は二年しかこの大学にいなかったから」
「そうですね、飛び級で大学を二年で卒業されましたから。海外の研究機関へ行ってしまわれた。私はいつも部屋の隅の方にいたのでの目は触れなかったのでしょう」
五月の柔らかいけど、強めの日差しが照らす部屋。彼女が続けた。
「ノーベル賞の候補にもなっていましたね。ところで私がここに呼ばれた理由は何でしょうか?……次空粒斗教授」
まっすぐで賢い目をした彼女は、小学校から中学、高校そして大学と同級生。
「変わってないですね。マイペースな所も」
おさなじみの彼女の感想。
「そうかな…?」
「そんなんじゃ大学での出世に影響しますよ」
「関係ないだろう? 良い研究をした者が評価されればいい」
子供の頃から変わっていない。世間など気にしない。そんな僕。
変わらない姿に、安心したように彼女は、言葉を昔に戻した。
「あなたはそれでいいのかもね……粒斗」
そう、その表情、僕を”粒斗のバカ。意味わかんない”怒っていた、本来の雨音子咲恋の方がずっといい。
席を立ち部屋の窓を開けた。
白いカーテンを揺らして、外の風が部屋に流れる。
初夏の風が入る、大学の今は僕の研究室。
「僕はどうも人工の空気がダメでね。多少暑くても、自然の風を入れてしまう」
夏にさしかかる、梅雨空の中の微かな晴れ間。湿った匂いがする空気が届く。
「天才科学者は自然が好き。それもあなたらしいね。それで私を呼んだ理由は?」
「君に世界を見届けて欲しい。世界は滅びようとしている。今ではないが遠くない未来に。軍と進めていた研究。それが導いた結論……世界は近い将来に滅亡する。それを防ぐ。これは君にしか頼めない。咲恋、世界の行く末を見守って欲しい」
「私に何を見守れって? まったく意味わかんないよ……もし本当に世界の危機なら、あなたが人類を代表したらいいでしょう?」
「僕はこの世界からいなくなるから残念だけど無理だな」
ますます混乱する咲恋。
「いなくなるの? 守るって……全然、意味が分らない!」
子供の頃からこんな感じだった。
いきなり彼女に理解不能な事を言って、その後に咲恋が切れて僕に意味を問いただす。そして彼女は僕の事を信じて理解してくれた。
「時間を越える超粒子を見つけた。未来の僕がね。そして映像と情報を送ってきた」
「そんな秘密事項を私に教えてもいいの? 世界を変えるような発見じゃない!?」
「いいよ。それ自体はたいした事ではない。軍との実験の結果の方が問題だった。そういえば君は子供の頃から僕が何か言い出すと、バカな事言わないの!ってよく言っていたね。でもも最後には信じてくれた」
「それは昔の事よ。粒斗は世界中の人から尊敬されている。誰もがあなたのいう事を信じるでしょうに」
素直に気持ちを現す。僕の話を懸命に理解してくれる……そういう感じは変わっていない。昔から僕にバカにされたみたいで、まずは怒る。そして楽しく咲恋に理論を理解させていく、最後はその話に感心してしまう彼女を……僕は心から愛していた。
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