第29話 超現実!俺にラブレター!

 憂鬱すぎる。


 最近おかしな事が多すぎる。

 俺のキャパはとうの昔に崩壊。

 いっそ、俺も何にも感じない哲学ゾンビならいいのに。


 反射と刺激で行動できたら、憂鬱な気持ちなんかならないかなあ。


「ゾンビの憂鬱?…あれ? これなんだろう」


 学校から出ようとした俺の靴箱に入っていた一枚の手紙。

 ラ、ラブレターというものではないか。見たことがないが。古典的すぎるが、綺麗な文字でいかにも女子っぽく、ワンポイントの可愛いシールが貼られている。


「うぉおおお、まじかよ! これがラブレターか!? すげーー!」


 初めてもらった女子からの手紙を、感嘆符多めで興奮気味に開けてみる。


 ”五時に南公園の前で待っています。必ず来てくださいね”


 上記のような内容だった。これは男としては、命を賭けても行かねばなるまい。


 でも咲恋にはどう言おうか……校門で待ってる。しばらく良いネタを考えていた。今日も一緒に帰るだろうし、何か良い言い訳はないか。


「母親が倒れた……妹が事故にあった……ダメだな、事が大きすぎてわざとらしい」


 アドリブが苦手な俺は、ネタ帳を頭の中で書き始める。

 しかしいくつか書いたネタも、今一な感じ。

 咲恋を騙せるとは、とても思えなかった。


「よし! ここは咲恋に捕まる前にダッシュで消えるのが吉!」


 頭ではなく体力で勝負! と決断を下した俺は、校門へ向かって走り出す……が後方から聞こえた声に動きが止まる。


「あれ? 何処へ行くの粒斗? そんなに急いで」

 俺をキャッチした、咲恋が声を掛けてきた。加速途中の俺、急ブレーキで減速するしかなかった。

「えーと、さっきは、どう答えようとしてたっけ……」


 アドリブに弱い俺は、事前に言い訳の台本を考えていた。

 でも本番にも弱い為、考えた台本ごと忘れていた。

 つまり言い訳の案の欠片も残っていない。で唱えてみた。


「ザ・ワールド!」

 不思議そうな咲恋。

「突然、どうしたの? なんの事」

 時間が止まらないかな。試してみたが勿論時間は止まらない。


「あ、時間を止めたいのね。ふ~んなんでかな? それで止まった感じ?」

 咲恋のその瞳は全てを見透かしているようで、ますます俺は落ち着きがなくなる。


「た、たまには一人で帰ろうかと……買い食いでもしながら」

 唐突でまったく面白みのない考え無しの言い訳だった。

 ちょっと反応に困った後、咲恋は答えに困る質問を投げてくる。

「ふ~ん、どうも今日は一人で居たい、特にわたしには会いたくない。私と一緒に帰るのが嫌になったとか?」

「そんな事はないけど……新しいSMマガジンが出るので買いに行こうかと」


「そうなの……その手の雑誌、いつもはネットで買ってなかったっけ?」

「最近は宅配は母親と妹の検閲が入るから……」

 チラリと咲恋を見ると目が笑ってない。


「そう、そうなの。へぇえ。まあいいわ。今日は先に一人で帰る事にするね」


 一応オッケーは出たが。俺が緊張してその後の様子を伺っていると、咲恋はクルリと後ろを向いて歩き出した。

「ふ~~う、今回は見逃してくれたのかな? あ、今何時だろ?」


 待ち合わせの時間が気になり、左手の腕時計を見た。

 その時に聞こえた、クールな声。

「デートの約束の時間に遅れちゃうかな? 二兎追うものは一兎をも得ずよ粒斗」


「はい?」

 俺のスットンキョウな声に、立ち止まり振り返る咲恋。

「同時に二つを自分のものにしようとすると、結局どちらも駄目になってしまう。十分懲りていると思ったけど」


「知っているよ。それくらいのことわざ。それに二股なんかかけたことない!」

「そう、覚えていないの。今のあなたならまだそうかもね……ならいいわ。気をつけて行ってらっしゃい」


 その後は振り向かず、校門へ歩いて行く咲恋。

 引きつりながら見送る俺(絶対に後が怖いぞ……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る