第28話 ソフィア知恵の女神

「あの……粒斗さんって、いつも怒っているのですか?」

「そうでもないが、なぜかノルンと話すと、まるで妹と話している感じに近いのは何故だ?」

「それは……そう感じるかもしれませんね。それに優紀が怒るのは……殆ど粒斗さんが原因ですよ」


 そんな事はないだろ? 俺は首を振るがノルンは逆に頷いた。


「四捨五入すれば全部粒斗さんのせいです」

「人の悪事と責任を切り上げるな!」

「とりあえず、解説を終わらせていいですか?」

「俺には無駄だと思うけど、続けてみて。一応。それで二つの世界と宇宙人のノルンと、うちの妹の夢とどう繋がるんだ?」


「とりあえずさっきまでのお話を続けます。その後に結論を言いますね。量子力学が正しくて、一つの電子が複数の位置に同時に存在しているというなら猫の運命は、生きていると死んでいる、その両方が同時に存在している事になります。一匹の猫の生きている状態と、死んだ状態が同時に重なり合っている……そんな事は、わたし達が感じる世界のスケールでは考えられないのです。シュレディンガーの猫は、電子レベルの微少な空間では発生しても、わたし達の日常では、そんな事は起こらない……その事を述べたものでした。でもこの星では惑星レベルで多重化が行われているのです。それにしても科学的なのは、粒斗さんには向かないみたいですね……ここまで完璧に自信のスキルを封印しているとは……わたしに嘘は通じません。本気で今のあなたは普通の高校生レベルの知力しか持っていない」


「嬉しそうに言うなよ。それとスキルを封印って? 世界が二つあるのはいいが、その理論だと、見た瞬間にどちらか片方しか残らないでは?」


 俺の問いに意外そうな顔をしたノルン。


「なるほど、スキルは封印してもスペックは変らず高いみたいですね……そうです、そこが問題なのです。なぜ片方に集約されないのか?」

「その粒子力学ってのがデタラメなんだろ?」

「いえ、そうではありません。わたしは粒子力学どおりに、二つの世界のどちらかに、ある確率で存在出来ます。あくまで確率なので、行きたい世界へ必ず行けるわけではありませんが」


「じゃあ、なんで世界は二つなんだ?」

「それはある者が、世界を削り取ったからです。そして地球は二つになった」

 どうやって? 世界を削り、もう一つの地球を作ったって!?


 ノルンが俺の前に人差し指を立てた。


「思い出してください。封印は第二段階まで外れています。もう少しであなたは真実を感じることが出来るようになります。あなたのクオリアで。あの夢はわたしが送ったものです。理由は今は正確には答えられません。ソフィアに敵対する事になるからです」


 ソフィア? また登場人物が増える予感? 俺の怪訝そうなん顔を見た少女は笑みで否定した。


「いえいえ、これ以上は増えません。わたしで打ち止めですよ」

 よかった……俺はこれ以上おかしな事を言う、女の子が増えても対処出来ん。

「彼女の中のクオリアを感じるのです粒斗さん」

 

 彼女って誰だ? ソフィア? そんな外人ぽい人間は知らないぞ。

 ノルンは察したように名前を口にする。


「ソフィアが誰かわからないって顔ですね。自ずと分かります。ソフィアも限界を感じているようです。一人でやってきた彼女自身もう限界なのです。それにソフィアに聞きましたよね? 優紀は哲学ゾンビだと。反射と刺激だけで動いています。感情はいっさい含まれていないかもと」


 妹が哲学ゾンビ? ばかなそれは推測の話で。実際には証明はできないはず、そう聞いた。え、もしかして。ソフィアって……。


「優紀は初めから哲学ゾンビではありませんでした」


 誰かが妹を哲学ゾンビに変えたというのか? うん……ノルンはなぜ俺を見ているんだ。瞬きしない、大きな瞳がさっきから俺を捉えていた。


「同じ目には遭いたくないです粒斗さん、あなたは賢く用心深く卑怯ですから」


 驚きぱなっしの俺に少女の純粋な笑顔と意味深な言葉をくれた。

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