第27話 新登場の美少女

 さて次の日、もう遅刻へスタンバイ状態でノロノロと牛歩を進める俺がいた。


 昨日は妹との家庭内シャイニング騒動で殆ど寝ていない。


「いつか妹に殺されそうだ」

 睡眠不足な俺の脳は普段でも良くないクロック数がダウン、まともな事など思いつかない……ただ疑問だけはずっと残っていた。


 既に遅刻がコミットしていた。


「もう、一時間目は間に合わないな」

 眠気も強くなり、目の前の公園のベンチで休む事にした。



「おおお!」

 眠りかけていた俺はいきなり目が覚めた。

 前方の公園に、トリエシリーズの主人公のような可愛らしさ、男女ともに好感をもたれる美少女が座っていたからだ。


 俺の脳のクロック数は改善され、素早く少女の解析に入る。

 着ている制服から、近くの中学生だと分る。アシンメトリーな分け目の前髪が特徴のミディアムロング。髪質はフワッと風に流れる軽さ。俺を見る大きな瞳は少しツリ目ぎみ。身長はあまり高くなく152、3センチくらいか?


「待っていました……粒斗さん」

 少女は俺と古い知り合いのように気軽に挨拶した。

「はて、待っていた? 君は誰? どこかであったっけ?」

「わたしの名前は相原ノルンと言います。この名前では初めてですよ」

「良くわからないが。可愛いね」

「それは、挨拶にはおかしな言葉ですね」

「あ、すまん。俺は次空粒斗」

「はい、粒斗さんの事は、良く知ってます。何度か会ってますし、殺そうともしました」


 軽く恐ろしい事を言ったノルンは、大きな瞳を俺に向けた。


「ちょっと、お話を聞いて頂きたいのですが」

 明快で快活で設定がイミフな少女に、俺は押され気味に聞いた。

「あのさ……前に会った事ある? なんで俺のこと知ってるの?」

「わたしがこの世界に発生してからずっとです。解放する為にここに来たのです」


 解放って夢で優紀が言ってたな。

 また、おかしな事を言う女の子が増えたぞ。ほっとくか……でも、可愛いなあ。


「昨日、優紀さんの夢を見ちゃいましたね」

「そんな事も知っているのか? あれって何か意味はあるのか?」

「はい、かなり重要な事です」

 そういえば、今は学校の一時間目だ。

 俺も遅刻だが、一応、年上として聞いてみる。


「君、中学生だよね……学校は大丈夫なの」

「ええ中学生です。粒斗さんにはそう見えると思いますが」

 俺が見つめると少女は、ベンチから立ち上がり一回転して見せた。


「もう少しロリータが入った方が、粒斗さんの好みだったでしょうか?」

 いえ、十分だと思います。その可愛さ素直認めた俺。

「学校ですが、今日は創立記念日です! うふ」


 嘘だろうな。俺もよく使うが、最近は通用しない言い訳だな。


「はい嘘です。学校はさぼりました」

 俺の様子を見てノルンは笑った。

「ノルンは面白い子だね」


 ノルンは美少女の笑みを浮かべたままでとんでもない事を言い出した。


「実はわたしは地球外生命体で、真実の世界から、この削られた世界に来ました」。あなたを殺すために!」

 寝不足だけではないと言い切れる目眩に襲われる。いきなり地球外生命体ときた……真実の世界と削られた世界? 俺を殺しに来た!?


「まて、実は今反応に困っている」

「それは何故ですか?」

「可愛い少女に、待っていましたと言われれば、胸がときめき妄想が膨らむのが男だ」

「はい。でもそれがなにか?」

「いくら可愛くても、話が電波だと妄想がしぼむ」


「そんなものなんですか」

「そんなもんだ」

「じゃあ話題を変えますね」

「ああ、妄想できるような話にしてくれ」

「シュレディンガーの猫って知っていますか?」

「そこで、わざわざ俺がまったく分らん話題にするな!」

「そうですか? この星の基礎科学ですよ」

「そんな名前の猫は知らん!」


「分りやすく言うと、この世界にコペンハーゲン解釈が天体スケールで起こっているのです」


「ますます意味解らん」

「身の回りで使われている、基礎的な科学のお話なんですけど」

「すまん。そっちの方面はさっぱりなんだ」


「えっとですね。量子力学の標準的な解釈なんです。観測される前の電子の位置は実際には決まっていないのです。電子の位置は観測されて初めて決定される。観測される前の電子の位置は多重に存在している。これはこの星の実験でも実証されています。複数の電子が存在して、それを確認すると一個に減るって事でうすね。箱に電子と猫を入れます。観測した時に電子が右なら、箱に毒ガスが発生します。電子が左に観測されたら、毒ガスは噴き出さない。観測者が箱を開けるまでは、電子がどっちにあるか分りません」


 唖然としてノルンの説明を聞いてた俺に。ノルンは人差し指を立てた。

「さて箱を開けたら、猫は生きてる? 死んでる?」

「知るか! 俺の状態を見て、質問以前の問題だと気がつけ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る