第26話 やっぱり妹だった

 ドス!

「イテテ、この攻撃は……優紀の必殺エルボー!?」


「ちょっと粒斗、私の名前を寝言で呼ばないでよ! あれほど騒ぎを起こして熟睡なの?」


 優紀がベッドの側に立ち、俺を見下ろしていた。


「可愛いかった……昔の優紀みたいだった。ギュウとしたくなった」

「粒斗の夢なんか、まったく興味はないけど……わたしで気持ち悪いこと言うのはやめて!」


「昔のおまえは、お兄ちゃん好き~とか言ってな、可愛かった……」

 再び力を蓄えた、妹のエルボーが俺の頭を直撃する。

「だから、気持ち悪いこと言わないで!」

 ドス

「痛ってー! 優紀、おまえは俺を暗殺しようとしてるのか?」

「殺すなら堂々とやるわ!」

 それは立派なお考えで。


「お兄ちゃん……って言ってたのは、六歳くらいまででしょう?」

「そうだっけ? おまえ、小学校の時は俺を何って呼んでいたっけ?」

「そんなの覚えてない。そんな事より、お父さんが帰ってるわよ」

「げげ、親父?」

「ふぅ~あんたが、あたしとお母さんの前から、逃げた後の気まずさって……ちゃんと粒斗が説明してくれないからよ」

「説明ってなんの?」


 優紀が俺の耳をつまんで、でかい声を出す。

「もう忘れてる!? お母さんに聞かれてあんた逃げたでしょう?」

「うん? そんな事あったか?」

「あったよ! あんたがおかしなアニメを見ていた件だって!」


 おまえが俺の頭をどつくから、どんどん忘れている気が。


「そうですか、そうやってシラをきるつもりですか」

 妹は腕を組み思案してから口を開いた。

「おにいちゃん優しくして」

 妹が題名を言うと、俺が反射で補足を入れる。

「兄と妹ものだ」

「お母さん大好き!」

 俺は反射で即座に補足する。

「母と息子ものだな」

 俺を睨む優紀の大きな瞳。


「どう? 思い出した?」

「でもあれって、おまえの策略だろう……イテテ」

 耳を引っ張る力を二乗倍した優紀が、声も最大音量で怒り出す。

「な・ん・で・すって!」

「す、すみません、俺の考え違いでした」

「よろしい、最初から素直にそういえばいいのに」


 なんで俺ってこんなにも、妹に弱いのだろう……


「それで、俺はどうすれば、よろしいのでしょうか?」

「今日の夜にでも、事実を話してもらいましょうか」

「えーと、それはどこで?」

「勿論、家族団らん中でよ!」

「今日の夕食は、一人でバナナを食べようかと」

「はあ? 可愛い妹の疑惑を晴らさないで、一人で夕食ですって?」

「えーと、一応俺は親父と喧嘩中で……接触は控えたい……です」


 殺気を帯びた目で睨まれ、語尾がだんだん小さくなる俺。


「父親とケンカだって? ご飯を食べさせて頂いている分際で何を言っているの?」

 そんな事を言われても、俺にも意地というものが……

「そう……まあいいわ」

 わかってくれたか妹よ。

「うん解ったわ。それじゃあアップ」


「へ? 何をアップ?」

「マニアのエロ兄貴の詳細をネットにアップするの」

「はぁあ?」

「名前ふりがなつき年齢、通っている学校名、そうね住所はあたしが困るから勘弁してあげる」

「ええ、まてそこまで詳細だと一緒に高校に通っている咲恋が困る」


「咲恋って誰? また猫の話?」

「猫じゃなくて、おまえも知っている、俺の同級生の……え?」


 一瞬視界の優紀の脚がぶれた。

 フォーカスがずれたカメラのように残像が重なる。

 目をこすりながら、上から下まで優紀を見た、妹と違う姿、透き通る透明な体に大きな目。


「何見てるのよ? 妹の下半身を見て嬉しいわけ?」


 妹の姿がぶれて見えて、透明な別の人型の……あれ、大丈夫だ。

 リアルな人間がぶれるわけない、透明な人型に見えた妹。

 やっぱり少し疲れているのかな、最近おかしな事が多すぎる。

「って! 俺の回想中に何をしている!?」

 優紀がスマホで俺の写真を撮っていた。

「マニアの姿を撮っているの。ネットにアップしない……コメント付きでね」


「参りました。家族の前で全てを自白いたします!」

「よろしい。じゃああとでね!」


 ニッコリ笑った優紀は、この世のものと思えないほど可愛かった。


「なんで俺は、酷い目にあっても、妹を可愛く思うのだ?」

 俺は自らの考え方に疑問を持った。

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