第25話 おかしな妹

「お兄ちゃん……」

「なんだ優紀?」


 目の前に立つ優紀の泣きそうな顔。いつもより幼く見えるその姿。

「お兄ちゃんはあたしの事好き?」


 なんだこの会話!? 妹萌えのアドベンチャーゲームじゃあるまいし。

 さてはこれも何かの罠か。でもまあ、兄らしく答えてみるか。


「妹が嫌いな兄がいるわけないだろう?」


 妹が嫌いな兄は、普通に世間には多そうだが、とりあえず、好意的な会話を心掛けよう。アドベンチャーゲームでも、選択をミスる俺はバットエンディングが多い。


「あたしのどこが好き?」


 キャミソールに大きめのパーカーを羽織る妹。アンダーはパイル地のミニのパンツ、まっすぐにスラッと伸びた太ももは兄でも眩しい。


「え、えっと、それはやっぱり性格かな??」

 なぜか疑問符が付く俺の回答。

「性格? あたしの身体はいらないの?」

 

 髪の色はライトブラウン。肌は乳白色でミルクのようしっとりしている。

 瞳は黒目が大きく愛らしい。同じく愛らしいピンクの唇が言葉を発する。


「あたしは哲学ゾンビ。お兄ちゃんのプログラム通りに、理想の妹を演じるの……だからあたしのこと……好きにしてもいいよ」

「え? 俺のプログラムだって!?」

「そうよ、何でもお兄ちゃん命令どおりにするからね」


 いや、ダメだ! 妹に変な考えを持つ、そんなリアル兄貴はおらん!


「お兄ちゃん、あたしじゃダメなの?…なら、もういいでしょう? あたしを自由にしてほしいの」


 自由にしていいの? どうゆうこと? ちょっといつもの妄想へ行きかけた。


「解放して欲しいの」


 自由にしてって解放の事か。


 え? だれも優紀をしばったりはしていないぞ。まあ、世間体なんかで無理している面はあるが、俺に関してはまったくないだろ!


「なんで残念そうなの?」

 妹が泣きそうな目で俺を見た。

「それは優紀が、あたしを好き? 身体は? とか意味深な言葉を使うからだ!」


 なんで妹に赤くならなきゃいかんのだ……それにしても、なんか今日の優紀は違う。お兄ちゃんと言ってくれるが、逆に兄と妹に感じられない。


 まるで久しぶりに会う恋人みたいな。あり得ん!


「おまえは妹だし、束縛なんか俺はしていない」

 優紀はゆっくりと首を振る。

「わたし女の子としてどう見える?」


 まてまて、だからリアルで妹に妄想を抱くのは脳の病気だ。


「本当のあたしはこんな姿じゃない。このままだとあたし壊れちゃうよ」

「優紀、おまえは統合失調症か?」

 ちょっと脱力した様子の優紀が聞いた。

「そんな言葉をどこで覚えたの? それにお兄ちゃん、意味分って使ってる?」

「人から聞いた……意味はまったく分らん」

「あのね! 今いい場面なんだから……空気読んでね!」

「はい……済みません」

「普段ならローからミドルへのコンビネーション、トドメのハイキックへ繋げるよ」

「怖……」


 いつもならバカで空気を読めない、兄貴への諦めの表情を浮かべたはずの妹。

 だが今日の優紀の表情は違っていた。まるで恋人に向けるような優しい表情。


「粒人助けて。あの時、砂漠の収容所から助けてくれたみたいに」


 あ、そうか! 分かりかけた俺は自分の罪に心が締め付けられ、思わず大きな声で叫んだ。


「優紀! 俺はおまえを助ける!」

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