第20話 最初の罪
「あれは、処分されるだろうな」
僕は知人で軍の情報部の将校でもある彼を見た。自家用ジェットで訪れたのは、広大な砂漠にある軍の秘密裏の施設
「理解出来ないもの、危険そうなもの、全て殺してホルマリン漬けかい? それがが君の国、大国の良心なのかな」
僕のトゲを含んだ言葉に彼は両手を挙げて、降参のポーズ。
「マスター粒斗。そんな事言わないでくれ。軍もおまえの研究の大事なスポンサーだろ?」
「海外の暮らしが長いと、アクションや言葉まで大げさになるな大佐」
彼は日本人で、海外の大学で知り合った。
僕は研究を進める為に日本へ帰ったが、彼はその後も海外に残り軍へ入隊した。
上級士官として入隊した彼は、自身の優秀さもあり、大学卒業から五年で軍の重要な情報を知り得る地位まで昇っていた。
「オレなんか、おまえと比べたら大したことないさ。次空粒斗、その名前は世界を変える天才科学者として、世界中に知れ渡っている」
「じつにくだらん。だがそんなに有名なら、次空粒斗の進言であれの処分を止めさせて欲しいな」
「なんとかしろって……はぁ、粒斗はなんでも簡単そうに言うけどな。ある意味あれは核より恐ろしいぞ」
軍服の知人は困った顔をした。
「ほう。君にはそう見えたのか? 大佐。いや友よ」
僕は職業軍人ではなく知人として自身の意見を求めた。
「いや、オレには……そうは見えなかったが……だが、あれは深い悲しみを生み出す」
思い出したのか大佐の表情が曇った。
「あれに会わせてくれ」
僕の言葉に首を振る大佐。
「粒斗は無茶ばかりを言う。あれの処分は決まりだ」
自分の額に手を置きしばし考えた。そして僕は最初で最大の罪を犯した。
「提供してもいい」
話に乗り気で無かった大佐は、強い興味で僕の目を見た。
「インフラトン場を相転移させてエネルギーを取り出すシステム」
「ばかな、そんなものが出来るわけ……フッ、おまえは嘘や実現できない事は言わない奴だったな。それは実証出来るのか?」
「今の技術では理論の立証だけだ。だが、直ぐにシステムの開発に取りかかれば二十年で完成する」
「それは本当か?」
興奮気味に僕に確認する。まだ二十代の彼が僕のシステムの担当者として、軍の要職につくのだから。
「ああ、本当だ。その出力は、地球を粉々に破壊するエネルギーを生み出せる。この国は世界のリーダーであり続ける。そしてそれを率いるのは君だ」
考えを巡らし彼は、僕に待っているように言った。
「少し待て相談してくる。あれが脱走、仕方なく消去した……そんな筋書きでいいか?」
「やり方は任せるよ。まずはあれに会わせてくれ」
「粒斗……おまえには人に見えるんだな」
僕は首を軽く振った。
「いや、感じるんだよ……ここでな」
僕が自分の胸に手を置くと、彼は笑った。
「ジーニアス次空粒斗が心を感じる? 胸には肺と心臓しかないのだろう? 非科学的だ」
「ああ、そうだ非科学的だ。だが、科学では何も証明など出来ない。世界は謎だらけだ」
僕は胸に置いた手でトントンと胸を叩く。
「僕は内観によって彼女を感じる」
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