第19話 白く細い人差し指

「何から話せばいいかな」


 咲恋が俺の顔をジッと見たので、照れた俺はタフマンを男らしく一気飲み。

 さっき床にこぼしたジュースが、冷蔵庫の最後の飲み物だったので親父が好きなタフマンをテーブルに集めてみた。


「あなたは覚えている?」

「なにを?」

「昔の記憶」

 おかしな聞き方をする……うーん昔の記憶か。


「子供の頃の話か? それか中学校くらいかな?」

「そうね。まずは中学の頃はどう?」

「俺の記憶力は、悪いを通り越して、存在しないからな……でも中学なら覚えているよ」


 ちょっと、中学時代を思い返してみる。

「中学の時はもっとおまえと話をしていた。俺も親と仲が良かった気がする……妹ともな」

「そうだったわね。他には? 思い返してみて」

「なんでだよ、おまえがここに来た理由と、なんか関係あるのか?」

「ええ、あるわ」

 笑みは崩さないが、大きな瞳が真剣に俺を見ている。


「そっか……うーん、中学の時は一緒に学校に通ったよな」

「そう、そうだったわね」

「あの頃から、おまえは完璧な女子で……」

「そう、そうだったわね」


 おい、自分が美女子なの認めてるぞ。まあ、事実そうなんだからいいけどさ。

 それにしても咲恋の答えに力が無い、俺なんか間違えている?

 まるで俺の過去の記憶の、答え合わせをしているような感じだ。

 もっと、別な事を思い出して欲しいのかな?


「他になにか、覚えていない?」

「それって、そんなに大事な事か?」

「そうだよ、私とのあなたの大事な事」

「俺とおまえの大事な事だって?」


 咲恋とキスとかしたっけ? それか結婚の約束したとか?


「そっちの事じゃないわ」

「え? なぜバレた?」

「あなたの顔見てれば、すぐ分かるよ」


「おまえも妹と同じ事を言うんだな……俺とおまえの大事な事ねえ……と」

「そう妹さんはそう言ったの。それはこの世界に関わる重大な事よ」

「はぁあ? 世界だって?重大な事?」


 俺と世界だって?……まったく覚えがない。


「しょうがないね。じゃあまずはイメージしてみて」

「何をイメージするんだ?」

「あなたの一番好きだったもの」

「中学時代に、好きだったものねえ」


「出来事、人、動物、食べ物……なんでもいいわ……なんなら私でもいいわ」


「お、おまえ、何を言っているんだ。いつ俺が咲恋を好きだって言った!?」

 咲恋は立ち上がり、しどろもどろの俺の横に座った。

 俺にピッタリとくっつき座り、目の前にスッと人差し指を立てる。


「あなたに聞いたわ。未来にね。さあこれを見て……気持ちを集中させて……すでに一段階目が解除されているのね。優紀ちゃんかな」

 調教されたアザラシのように、白く細い人差し指を凝視する。


「未来!? 一段階目解除? そういえば妹にも……指を……目の前に……かざされて……あれ……意識が……」

 人差し指を凝視する俺は、深い眠りに入っていく。

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