第18話 複雑な気持ち

 居間の窓から咲恋は外の景色を見ている。


「何か忘れたい記憶でもあるのか?」

 俺の言葉で咲恋は一瞬瞳を閉じた。


「そうね……出来れば、幸せだった時の記憶を消したいよ」

 なんで幸せを消したい? 普通は辛い方だろう。


「辛い記憶より、幸せだった記憶の方が、思い出すと辛いの」

「良く分らないなあ。まあ、おまえが理解出来ない事を言い出すのはいつもの事だけど」


 俺の言葉にニコリ、咲恋が頷いた。

 やっぱりこんな可愛い子が、俺の家に二人きりで存在するのは……何かが間違っている。


 (やっぱりジュースに何か入れるべきか?)


「でも……それより先にあなたの私へのエロい妄想を消したいかな?」


 咲恋の笑いに、持っていたジュースのペットボトルを俺は床に激突させる。

 シュワアー、吹き出る赤い液体、心を読まれた俺は、ただ、あたふたしていた。

咲恋は口元に手を持って行き、大笑いを始める。


 我に戻った俺はバスタオルを持ってきて、床にこぼれたジュースを拭き取り始めた。


「おまえな……いきなりそんな事言うなよ!」

「あれ、もしかして図星だったの?」

「……そんなわけあるわけないかも」

「ふふ、どっちなの?」


「で、俺の家に来た理由はなんだ?今回はなにか目的があるんだろう?」

 咲恋と対面で座った俺は、今日の訪問の理由を聞いた。

 ホントは咲恋の横に座りたかったけど、さっき心を読まれたので、なんとなく動きを制限されている。


「あれ? いいよ。いつものように私の横に来ても」

 ギクリ、くのいちは、ここにもいたのか!


「いつも座ってねーぞ!」

「あれ? そうだっけ?」

「そうだよ」

「じゃあ、改めて言うわ。こっちに来て……粒斗」


 少し厚めの色っぽい唇が俺の名を呼ぶ。

 (ゴクリ、行ってもいいですか俺?)


「いや、いいよ。遠慮しておく。それで? 理由を教えてくれ」

「なんだ、来ないんだ……そう、残念ね」


 辛うじて誘いに乗らなかった俺が呟く。

 (しまった! 行ってよかったのか!)


 どうも女イコール、母&妹なので周りを探る癖が。

 この思い切りの悪さと疑い深いのも、母親と妹のせいだな。


「フフ、複雑ね男の子って」

 やけにさっきから咲恋の唇が気になる。

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