第16話 チャンス到来!?
制服のくずした襟もとからのぞく、わざとボタンをひとつ多めにはずしてリボンのネクタイで包む薄桃いろの肌。
その胸にはシルバーの小さなペンダント。それを大事に身に着けている幼なじみの咲恋。学校帰りのオレンジ色に染まる、坂道の途中で、外見はS級だがかなり変わっている幼馴染が聞いてきた。
「それで? その後はどうしたの? お母さんと妹さんのどっちを取ったのかな?」
「それは勿論……男らしく」
深く息を吸い、言葉を一回止めて、答えるを躊躇する俺。
「どっち? どっちを選択しても、後々やばそうな感じね、かなり……うふふ」
笑い事ではない……解っていない……本当にやばいのだ。
うちの女子のメインジョブは「アサシン」日本名は「くのいち」
本気で俺の命を狙ってる連中なのだ。
「逃げた」
俺の短い回答に「お?」超短い疑問符を投げる咲恋。
「全力で走って逃げた……自分の生死をそんなに簡単に、決められるわけないだろう?」
「あらら、それで済んだの?」
「済むわけないだろ!」
「尾ひれを大量につけられ、親父に二人でチクった。家庭内の評価がゲーマープラス、変態系エロアニメ好きになったぞ!」
「あはは、なんか全部当たっているような感じよね」
「ついでに優柔不断な役立たず、も付いたがね」
「あはは、名称増えるねえ。それも当たっているしね。ほんと、いつも楽しそうな家族で羨ましいなあ」
解ってない……まったく……他人には楽しそうでも、当人はマジで笑えないのだ。時々思うことがある。俺はこの家族と血が繋がっているのかと。
「ところで、今日はごめんね無理言って」
咲恋は笑うのを止めすまなそうに言った。
「いいよ前からの約束だし。まあ、久しぶりに家に遊びに来たいって、おまえの言葉には驚いたが」
「うんうん、久しぶりにいいかなあって。でも今って、とってもやばい状態なんでしょう?」
咲恋から俺の家に遊びに行きたいと頼まれていた。
幼なじみの咲恋は、昔は時々俺の家に遊びに来ていた。
こんな迂闊な行動は、咲恋が俺に気が有ると、自惚れる温床になる行為である。
(まずいぞ咲恋、男は直ぐに調子に乗る。気をつけろ!)
そんな俺の心の声を知ってか知らずか、俺に礼を述べる咲恋。
「ありがとう助かるわ。ほんとうに」
家の玄関前で立ち止まり俺は妄想的自惚れを一回やめた。
「ちょっと、待ってて」
玄関の鍵を鞄から取り出して、玄関のロックを外す。
「あれ? 鍵が回らない……朝は大丈夫だったよーな」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……ちょっと待って」
焦りながら玄関の鍵を開けようと苦闘する。俺は一応この家の住人である……はず。
「おかしい、開かない。鍵が違う?」
一度鍵を扉から抜いて、合い鍵の形を確かめてみる。
やはりいつも使っている鍵だ。
「もしかして、あいつら……やりやがったな」
悪い予感がする……母と妹の楽しそうな笑い顔が浮かんだ。
「合い鍵を変えられている! この陰険なトラップは間違いなく、くのいち連合の仕業だな」
「うふふ、やっぱり楽しい家族ね」
口元に手をやり、堪えきれない嬉しさを存分に放出する咲恋。
「なんでおまえは楽しそうなんだよ! あのさあ、愉快な家族に見えるかもしれないけど、俺にはシャレになってないよ……はぁあ」
「そう落ち込まないの」
咲恋が俺の肩をポンと叩き、玄関の扉へ向かう。
(どうしようせっかくのチャンスが……咲恋と二人きりで家族もいないのに)
「うん? なんか言った?」
振り返った咲恋が俺を見た。
「い、いや何でもない……咲恋がせっかく訪ねてきたのに、と思ってさ」
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